第19話 2章・七歳編_019_十倍返しだ!

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 2章・七歳編_019_十倍返しだ!

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 真っ暗な中でラーベン子爵は激しく動揺している。

「おいランドー! これはどうなっているんだ!?」

「え、知らないんですけど」

「貴様の仕業じゃないのか」

「魔法の使用を禁止されている僕に何ができるのですか?」

 うっそでーっす! 僕の仕業ですよ。もっと怯えてくださいね。


「ぐぬぬぬ……魔法でこの暗闇を照らせ! それ以外の魔法は禁止だ!」

 あら、そう来ましたか。いいけどね。


「ライト」

 周囲を照らす光。しかしラーベン子爵と僕の周囲には何も見えない。

 見えないということは恐怖を増幅させる。


「どうなっているんだ!? おい、誰かいないのか!?」

「僕がいますよ」

「お前じゃねーんだよ!」

 誰かいないのかと聞かれたから、返事してあげたのに。そんな言われ方は納得いかないんですけどー。ほんと、自分勝手だよねー。


「ガーランド! ロイバール! ジョイネン! どこにいるんだ!?」

 彼の側近の名前かな? その三人なら今頃アベル兄さんの怒りのはけ口になっていると思うよ。

 あんたが無抵抗な僕やアベル兄さんに暴行したから、兄さんも容赦ないよ。それにさ、シャナン姉さんを人質にしたのはいけないよね。それで僕たち兄弟の怒りはマックスだよ。身内を人質にされた僕たちの怒りを、ラーベン子爵が思い知る時間だからね、今は。


 誰からも返事がなく、かなり焦っているラーベン子爵は剣を抜いて振り回し始めた。


 僕は根に持つタイプだからね。そしてやられたら十倍にして返す。というわけで、これでも喰らえよ。


「#%$%&%$&$#$$」

 ラーベン子爵の周囲に骸骨が現れると、彼は目を血走らせ唾をまき散らしてわけのわからない言葉を発した。

 荒い息遣いをし、骸骨に切りかかる。剣が骸骨を素通りし、不思議そうな表情を浮かべる。

 また骸骨が現れるが、今度は三体だ。半狂乱のラーベン子爵が剣を振り回して骸骨を切る。一体、二体と骸骨を切って、三体目の骸骨が反撃した。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

 剣を持っていた右腕を絶ち切られたラーベン子爵の絶叫が漆黒の闇に響き渡る。腰砕けになったラーベン子爵は、地面に落ちている腕を拾おうと必死に地面を這いずっている。

 骸骨がラーベン子爵の左足を踏みつけた。


「や、止めろーっ、止めてくれーっ」

「王国の民が止めてくれと言った時、貴方は止めましたか?」

「ひっ、ひぃぃぃっ」

 残っている左腕で地面を必死にかき、逃げ出そうとしている。

 敵を前に逃げ出すなんて、いけないよ。敵前逃亡は重罪だというじゃない。

 ラーベン子爵は正常な判断ができないようだから、幻影魔法を解除する。


 ラーベン子爵の左足を踏みつけていたのは、アベル兄さん。

 ラーベン子爵が切り倒したのは、彼の部下たち。ガーランド、ロイバール、ジョイネン、あと一人の名前は知らない。

「おい、ランドー。何をしたら、こんな状態になるんだ、こいつ?」

 アベル兄さんが呆れ顔で僕を見て来る。


「幻を見せてあげただけだよ」

「そんなことができるのかよ。お前はなんでもできる奴だな(笑)」

「えへへへ、それほどでも~」

「誉めてるんじゃなく、呆れているんだからな」

「えー。そこは褒めてよー」

「はいはい」


 さてラーベン子爵だけど、部下の死体が転がっているし、足を踏まれて身動きできないしでかなり錯乱している。うるさいのでアベル兄さんに黙らしてもらった。もちろん殺してない。


「こいつどうするんだ? 殺すか?」

「殺したらダメだよ。この人は自分がやったことの罪を背負って、一生不自由な体で生き続けてもらわないとね」

 僕の復讐はまだ終わってないからね……。ふひひひひひひ。


「お前、笑顔で怖いこと言いやがるな」

「僕はとーっても怒っているんだよ。兄さんだって怒っているでしょ?」

「お、おう。怒ってるな……。まあいい、こいつのことはランドーに任せるぜ」

 もうすぐ夜が明ける。ラーベン子爵は右腕の怪我を火で焼いて止血した。その際、悲鳴をあげていたけど、これは治療行為だから容赦なく焼いた。それと僕の復讐を完遂する……これでよしっと。


 兄さんにはルークス村から連れて来られた人を解放してもらい、足が速い人に領主様に伝言を頼んだ。

「ランドー! アベル!」

「「シャナン姉さん!」」

 シャナン姉さんと三人で抱き合った。


「貴方たち、無茶して……」

 シャナン姉さんは涙が止まらないようだ

 僕たちも泣いた。シャナン姉さんが無事で良かった。本当に良かった。


「シャナン姉さん。子供たちは?」

 気になっていたことを聞いた。

「……二人は主人に頼んだわ。私は囮になって三人を逃がしたの」

「姉さんも無茶するよなー」

 姉さんの表情に憂いが見える。子供たちが無事か気になっているようだ。無事でいてくれたらいいとこの時は思っていたんだけど、まさかあんなことになるなんて……。


 昼近くになって領主様のところの騎士様が兵士を引き連れてやって来た。

 オリビアちゃんの家―――領主様の屋敷に遊びに行った際に、見たことがある人たちだ。

 これでやっと落ちつける。僕は地面に座り込んで、大きく息を吐いた。


「おい、ランドー。大丈夫か?」

「ちょっと疲れたかな」

 ラーベン子爵が連れていかれるのを見ながら、僕は横になった。


「兄さん。僕は寝るね」

「はぁ? お前なぁ……まあいい、ゆっくり寝ろ」

「うん……あとは……お願い……」

 七歳児に徹夜はキツい。それを言ったら八歳児のアベル兄さんもか。

 でもアベル兄さんは元気だよね。あとはお願い。おやすみ……。



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