第8話 1章・転生編_008_創造神の加護
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1章・転生編_008_創造神の加護
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秋の刈り入れが終わった後、長男のベルトン兄さんが結婚した。
お相手はベルトン兄さんと同じ年で、淡い紫色の髪、赤茶色の瞳をした地味な顔立ちのニャムさん。
地味な顔立ちだけど、決してブスではない。どちらかというと標準以上の美人さんだ。
ぽっちゃり気味のベルトン兄さんは毎日浮かれていて、仕事が手につかないみたい。父さんにどやされているのを、最近よく見る。
ニャム義姉さんは優しい人で、嫁に行ってしまった長女のシャナン姉さんが帰ってきたみたいで僕は嬉しい。
さて加護にはパッシブ型の自動発動するものと、アクティブ型の意識して発動するものがあるんだ。
火神の加護のような持っているだけで火力が上昇するものは前者で、加護としてはあまり多くないらしい。
逆に創造神の加護のように努力次第で使えるものは後者で、加護の多くはこのパターンになるんだ。
ただしイメージしやすかったり、加護の発動に努力がほとんど要らないものも中にはある。
たとえば隠密神の加護では、姿を消すという非現実的なものはかなり難しい。それに対してステータスボードの内容を隠すのはそこまで難しくないようだ。
このように同じ加護でも対象が違うとその難易度は全く違う。
毎日少しずつ
半年以上創造神の加護を使えるように訓練する日々が続く冬のある日、僕は寒さに震えながらも瞑想ポーズ(座禅)をして精神集中をする。
そろそろ雪が降りそうだ。などと考えていては、精神集中をしていない証拠。もっと深く創造神の加護へ語りかけるため、意識を天空のさらにその上に持って行くように……。
寒さを感じなくなった。天空から地上を俯瞰するような浮遊感。まだだ、まだ足りない。
さらに意識を飛ばす。対流圏を超えた辺りだろうか、ボワーッとしたなんとも形容しにくい感覚に襲われた。
『よくぞここへ辿りついた。これからも精進するがよい』
そんな言葉が聞こえたような、聞こえないような。
いや、今のはあの時の声だ。僕をこの世界へ転生させる際に聞いた神様の声。最初に聞こえた重苦しさがある声に似ている。
……まさかこの声の主が創造神様なのかな? そこで僕の意識が地上へ急降下する。
うわー、これヤバい! ジェットコースターなんて目じゃないほど怖いんですけどーっ!
地上が迫って来る恐怖の中、景色が光の本流となって僕の中に流れ込んできた。これはなんだ? なんか不思議な感じがあする。何かを悟ったような高揚感がある。まさかこの体験が創造神の加護の発動に必要だったのかな?
光の奔流が消え、僕の体が見えた。……地上の僕の体に僕が吸い込まれる……。
「今のはいったい……」
「どうかしたの? ランドー」
顔を上げると、そこには天使が……いやオリビアちゃんが僕を見下ろしていた。
冬なのに汗ばんだ彼女の上気した頬は、木刀を振り回していたからだね。やっていることは荒々しいけど、その黄金色の瞳はとても優しげだ。
おっといけない見とれていたよ。
「なんか悟ったような……気がしたんだ」
「とうとう創造魔法が開花したのね!」
「いや、魔法じゃないし」
創造神の加護は魔法じゃない、はず。どちらかというと、スキルとかアーツのようなものだと考えている。
「どっちでもいいから、やって見せてよ」
「そうだね……鉄、創造!」
ガランッゴロンッ。
歪な形の金属の塊が現れ、地面に落ちた。
「おおおっ! 鉄の塊? やったわね! ランドー!」
これが成功の感覚。まだ粗削りな感じだけど、間違いなく僕は鉄を創造したんだ。
なんて嬉しいことなんだろうか。
「おめでとう、ランドー。でもこれからだよ。これからもっと大きな鉄の塊を出したり、金のような貴金属にチャレンジだからね」
「うん。そうだね。って、僕よりもオリビアちゃんのほうが喜んでない?」
「我が友ランドーの成長を喜ぶのは当然じゃないの! あははははははは!」
我が友か。なんというか、嬉しい表現だね。僕もオリビアちゃんのことを我が友と思っているからね。
「先ずは私の刀を創れるくらいになろうね!」
「え、それ? 自分の利益のために喜んでいたんじゃん!」
「あはははは! 気にしたらダメよ!」
まったくオリビアちゃんは! 我が友認定解除だからね!
それからも鉄を創造したけど、刀の形にするのに凄く時間がかかった。
冬の間に歪な鉄の塊がやや長細い鉄の塊になった。
春の間に長細いものから鉄の棒になった。この間に僕とオリビアちゃんは六歳になった。
夏には荒かった鉄の棒が、密度のある鉄の棒になった。
秋になってやっと刀の形になった。
「おー、刀だねー」
オリビアちゃんの目が輝く。
「やっぱ剣聖を目指すなら、刀でしょ!」
刀を手にとってマジマジと眺める。なんだか僕が眺められているようで気恥ずかしい。
刀は刃が四十センチメートルくらいの短めのもの。それでもオリビアちゃんにはまだ長いかな。
「うん、ダメだね」
「え~」
「ほら」
彼女は自分の腕に刀を当てて引いた。
「っ!? そんなことしたら!」
「まったく切れないよ」
彼女の腕はまったく傷ついていない。
「刀ってのは人を斬るための、人斬り包丁なんだよね。斬れないんじゃ意味がないのよ」
「うん。そうだね」
刀は彼女の言うように人を斬るための道具だ。彼女の腕の薄皮一枚も傷つけられないようなものは刀とは言えないよね。
「木刀の代わりになるかな~」
彼女は徐に刀モドキを石に打ちつけた。
ガンッと鈍い音がし、石が欠け、刀モドキが折れた。
「ごめん。壊しちゃった」
「……いや、いいよ。どうせ捨てるものだし」
人が斬れない刀は刀じゃない。ただの鉄の棒だ。
「まずは石を壊しても、折れない程度の刀にしてほしいかな」
オリビアちゃんの要望は尤至極、当然のことだね。
ショックは受けたけど、それ以上にやってやろうじゃないかと思うわけですよ!
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