第十九話 再会の日
巨大な蜘蛛型機械の胴体が地面を滑る。
その後ろに泰久が猛スピードで近寄ってきていた。
「……」
無言のまま泰久は蜘蛛の胴体の上に乗り、思いっきりその背中を踏みつける。
グシャリ、と音がして蜘蛛型機械の原型は無くなった。
「……はぁ。これで終わり……か」
泰久は瓦礫の中で立ち上がり、どこかへ向かって歩いていく。
暫く歩くと、リファの下半身のある場所にやってきた。
「リファ……」
(せめて死体だけでも持って帰らないと……)
泰久はそう思ってリファの残りの身体を探す。
「……無い」
そこら中を探すが、全く見つからない。
「クソ……リファ……一体どこに……」
「あ、泰久だ!」
絶対に聞こえるはずのない声が聞こえた。
「……え?」
泰久は固まる。
「ねぇ〜。流石に時間掛かり過ぎだって……泰久!……まあ、確かに今回は私がやりすぎたかもしれないけどさ……流石にもうちょっと早く見つけてくれないと、私も凹むっていうか……」
「リファ?!リファ?!居るの?!」
泰久は半狂乱になりながらも辺りを探し回る。
「こっち!こっちだって!」
耳を頼りにリファの声の出どころを探る。
「……ここ?」
泰久は瓦礫の前にたどり着いた。
もちろん、今まで探しても見つからなかったリファが瓦礫に埋もれていることは何も不思議なことでは無い。
ただ問題なのは、泰久の目の前に作られている瓦礫の山が人が一人隠れるには余りにも小さすぎることだ。
「ほらほら!ここ掘って!」
しかし、中からは確実にリファの声が聞こえてくる。
「分かった……ここだね……」
泰久は、その場の瓦礫を素手で退け始める。
(正直、何が何だか分からない……けど)
泰久は困惑しながらも喜びに包まれていた。
(リファは……生きてる……生きてるんだ……!!)
泰久は勢いよく瓦礫を退け続けた。
「おはよ♡泰久」
瓦礫の下からはリファラウス・ファンネルの首が出てきた。
「……え?」
泰久は完全に固まる。
「!そうだ、泰久!せっかくだし、今抱きしめて!私の顔が丁度泰久の胸の中央に来る感じで、ね?!」
「え?あ……うん。良いけど……」
泰久はリファの首を自分の方に抱き寄せた。
「こういう感じ……で、良いのかな?」
「うん!そうそう、そういう感じ!」
泰久の胸の中からリファの声が聞こえる。
「はぁ〜〜。こういうで良いの、こういうので」
リファは幸せそうにしながらそう言ってくる。
「ところでリファ、こういう言い方は嫌かもしれないけど、その……どうして生きてたの?絶対に死んだと思ってたんだけど……」
泰久はそう聞く。
「だって私、別に首ちょんぱになっても死なないもん」
リファは泰久の腕の中でそう言う。
「……え?そうなの?」
泰久は驚いたように聞く。
「うん。よく分からないけど【色欲】が私を死なせてくれないみたいなの」
(【色欲】がリファを死なせてくれない?)
「それって、どういうこと?」
泰久は首を傾げながら聞いた。
「えっとね……なんか分からないんだけど【色欲】は私の能力なんだけど……なんだろ、私とは別の生き物?みたいな……寄生、って言えば良いのかな……?そんな感じの子らしいんだって」
リファが何か愛おしいものを語るような口調でそう言った。
「へぇ……そういう感じなんだ……じゃあ、僕もその【色欲】に感謝しないとね。ありがと」
泰久は腕の中のリファの頭を撫でながらそう言った。
まあ、
「でもさ、無事だったんならどうして僕にそう伝えてくれなかったの?もしかして、さっきまでは言葉も発せないくらい衰弱してた……とか?」
泰久はそう聞く。
「いや……うん。えっとね……それなんだけど……」
リファは言いにくそうにモジモジする。
「ちょっと、まず首だけつけてから話させて貰っても……良い?だめ?」
リファは話を逸らすかのようにそう聞いた。
「うん。良いよ。ちょっと待ってね……」
泰久はリファを抱きしめたまま、リファの胴体を探して歩き回る。
(確かさっき見たときはここに……有った)
泰久はリファの下半身を瓦礫の中から取り出すと、少し立ち止まる。
「よく考えたらさ、下半身だけ見つけても上半身が無かったらリファの首をくっつけられないじゃん」
「……そうだよね。でも泰久ならきっと大丈夫!ファイト!」
泰久の腕の中でリファは呑気に応援していた。
(上半身……あの蜘蛛に吹き飛ばされたのかな……?)
リファの上半身の行方を求めてそんな事を考えていると、泰久は自然とリファの体が吹き飛ばされた時のことを思い出してしまう。
ピタリ、と泰久はその場で立ち止まった。
「?どうしたの、泰久?何かあったの?」
「いや……大丈夫」
泰久はリファが自分の腕の中に居ることをしっかりと確認してから再び歩き始めた。
(大丈夫……リファはちゃんとここに居る。ちゃんと、無傷とは言えなくとも、無事で)
「ねぇ、本当に大丈夫?何か辛いことがあるんなら、何でもすぐに言ってね。私も出来る限りのことはするから」
リファは不安そうな声でそう聞いた。
「うん。大丈夫。今はリファが居ればそれで幸せだから」
泰久は自分の腕の中に居るリファにそう言い聞かせた。
「あ、もしかして、これ?」
泰久はリファの上半身らしき肉を見つけると、リファの首をその肉に向けて、確認してもらう。
「あ!そうそう、これだよ!これ、私の!」
リファは声を明るくしながらそう言う。
「分かった。これだね……ところで、これってどうやってリファに付ければ良いのかな?」
泰久はその上半身を拾ってからリファに聞く。
「私の首をくっつけるだけで良いよ。後は自分でどうにかするから」
リファがそう言うと、泰久はその言葉に従ってリファの首を胴体に繋げる。
するとその直後、リファの首と腰にそれぞれ不思議な模様が浮かぶ。
「え?これは……」
泰久がその模様に驚いていると、それらの模様がグルグルと回転し始めた。
(何だこれ……変な模様の……陣?もしかして、魔法陣ってやつ?!!)
リファはその模様に気付いているのか居ないのかじっと目を閉じている。
「……リファ?」
目を閉じたまま何も話さないリファのことが心配になり、泰久はリファを揺さぶるかどうか少し考える。
(集中して何かをやってるみたいだけど……これは、話しかけない方が良いの……かな?)
泰久はそうすることに決めた。
グルグルと回る魔法陣の光が徐々に強まっていき、リファの首と体の、そして上半身と下半身の繋ぎ目を隠すほどにまで強くなる。
そして、一瞬だけ強く光り、泰久の視界が塞がれた。
「これは……」
目を開けると、光が少しずつ弱まっていくのが見える。
光がほぼ無くなった頃には、リファ体は元通りにくっついていた。
「……あれ?今、何やったの?」
泰久はそう聞いた。
「ん?ああ、これ?どうやってくっついたのか、ってこと?」
リファは元に戻った右手で自分の首を指差す。
泰久は頷いた。
「これはね……なんか願ったら上手くいったの!」
「願ったら?それ、どういうことなの?魔法か何かでも起こったの?」
泰久は目を丸くしてそう聞く。
「うん。確か魔法だったはず……そうだったと思うけど……」
リファは少し自信の無さそうな声でそう言った。
「え?本当に魔法なの?」
泰久が驚いたような声でそう聞き返した。
リファは目を丸くして答える。
「『本当に魔法だったの?』って……泰久が聞いたんじゃないの?変なの」
「いや、なんか冗談みたいな感じで話してたから、まさか本当に魔法があるなんて思ってなくて……」
(いや、でもよく考えれば『超人』とかいう意味不明な存在もいれば『魔素』とかいう意味不明な物質?元素?も有るんだから魔法くらい有っても当然と言えば当然か……僕は一応比喩のつもりで言ったんだけどな……)
泰久はそう考えてリファに聞く。
「その『魔法』っていうのは何なの?『魔素』なら聞いたことがあるんだけど……」
「えっとね……実は私もよくわかんない!」
リファは元気に言い切る。
「えぇ……分かんないの……?」
泰久は呆れたように、そして驚いたように返す。
「うん!だって本当に思ったことがそのまんま実現するんだもん!私は本当に原理も何も知らないの!」
リファは体をジタバタさせながらそう言う。
「う、うん……分かったよ。原理とかは何も分からないけど、リファが思ったことがそのまま実現するんだね?」
泰久はそう行って確認する。
「うん!そうだよ!やっぱり泰久なら分かってくれると思ってた♡」
リファは何やら嬉しそうにそう言った。
「う〜ん……けど、原理が何も分からないのは問題な気がするなぁ……それ、他の誰かが解明してたりしないの?」
『魔法』の原理が解明されていないのか、それとも解明はされていてリファが知らないだけなのかを確認しようと泰久はそう聞いた。
「う〜ん……私はその辺よく分からないけど、街に行けばそのあたりのことが分かる人に出会えるかも!」
リファは、早く街へ行こう、と急かすようにそう言った。
「街が……そういえば、ここに来てから一回も街に行ったこと無かったな……」
泰久が呟いた言葉を耳にしてリファは驚く。
「そうなの?!じゃあ、私と行くのが初めてになるの?」
リファはそう聞いた。
「うん。まあ……そうなるのかな……?」
泰久の言葉に、リファは意気込む。
「じゃあ、私がちゃんと案内しないとね!泰久に楽しいところ、いっっっぱい紹介するから!」
リファは少し踊りながら元々向かっていた方向へ走っていった。
「……どんな世界なんだろう」
泰久はゆっくりとリファを追いかけながらそう考える。
(もし『魔法』について知っている人が居たら、僕の体に入ったものとか、後は【色欲】の力についても聞いてみるとしよう)
泰久はそう決意してリファを追いかける。
「待ってよりリファ!そんなに早く走られると僕が追いつけないって!ねぇ、リファ?!聞いてる?!」
まだ少し遠くに見えるリファに向かってそう言いながら泰久は走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます