第十五話 補給部隊

『あと二十三分で目的地に到着します。物資補給担当の方は列車が停止しだいすぐに降りて補給を手伝えるよう準備をお願いします。』


 列車のアナウンスでそう言われる。


「確か俺は物資補給の担当だったはず……」


「奇遇ですね。私もその担当なんですよ」


 二人は物資を卸し、適切な場所へ送る為に渡されたマニュアルを読み進める。


 暫く読んでいると、列車のスピードが目に見えて落ち始めた。


「……そろそろか」


 列車の中に居る者達もそれを感じ取り、いつでも降りることができるるように準備を急ぐ。


『間もなく目的地へ到着します。準備のできていない方は急いで準備を済ませて下さい』


 殆どの者は焦ること無く列車が止まるのを待っていた。


 暫くして、列車が完全に止まる。


『出入り口に近い方から順に出て、作業をお願いします』


 入口付近に居る作業員が素早く、しかし一切焦る様子も見せずに車両から出ていった。


 周りの者たちもそれに続く。


 暫くして、光沢達の番になった。


 二人は前に居る者達と同じように椅子から立ち、順番に外へ向かっていった。


(僕は三番の貨物担当だから……向こうか)


 光沢は自分の行くべき場所を見つけて、少し小走りでそこに向かった。


「これか……」


 コンテナの所に辿り着くと、そのコンテナに貼り付けられている操作版触れて特定の操作を行う。


 すると、コンテナが開いて中から大量の小さな小包が出てくる。


 小包はそれぞれ筆箱くらいのサイズだった。


 そして光沢は操作盤に触れて追加で操作を行う。


 光沢が操作盤を弄るとコンテナが光り、ベルトコンベアが【展開】された。


 光沢はそのコンベアに小包を乗せる。


 小包は恐ろしいまでのスピードで飛んでいった。


 飛んでいった小包はその先に用意されている他のベルトコンベアに着地する。


 着地すると、すぐにコンベアによって前に吹っ飛ばされる。


「なるほど……ああやって前に進んでいくのか……」


 基本的に、一人の作業員に補給システムの全体が教えられることは無い。


 一々教える意味が無く、全て教えても理解できる人間も少ないからだ。


 しかし、教えられなくとも荷物の動き方を見ればおおよそのシステムは分かる。


(コンベアを投石機カタパルトみたいに使うのか……なんというか、発想も飛び抜けてるし、それを可能にする技術も凄まじいな……)


 およそ一分の間隔を開けながら光沢は小包をコンベアに載せて、順々に発射させる。


 暫くやっていると、流石に単純作業に光沢も疲れてきた。


「そろそろ交代の時間になる筈だけど……」


 光沢が周りを見ていると、一人の男がやってきた。


「えっと……そこの人!そろそろ交代だぞ!」


「あ、分かりました!」


 光沢は最後に一つだけ小包を置くとその場を離れた。


 そのまま列車に戻ると、既に自分の役割を終えた者達が休んでいた。


 光沢は適当な椅子を選んで座ると、前の椅子の背もたれに当たるような場所に画像が一枚映し出された。


(これは……シフト表のようなものなのかな……?)


 その画像には三十分刻みで時間が刻まれており、光沢の名前が飛び飛びで書かれていた。


(……この感じだと、俺の今回の役割はまだ続きそうだな)


 次の光沢のは二時間後だった。


(けど、時間が空いていることは事実だからな……それまで何をするか……)


 光沢は悩む。


(時間も有るようだし、この世界について、あと、今の一般常識についてもう少し調べるとしよう)


 光沢はポケットからスマホのような情報端末を取り出した。


(えっと……まずはこの世界でメジャーな情報端末を調べる所からだな……)


 ――――――――――――――――――――――――


「あ、残り三十分か……そろそろ切り上げよう」


 空中に映し出された画面を見ていた光沢は時間を見ると、少し念じる。


 すると、映し出されていた画面は消えた。


 高校生故の適応能力の高さから来るものなのか、この一時間半で光沢は画面を利用した操作はある程度できるようになっていた。


(ただ、調べた情報を見る限りだと本来は画面も出さずに使うらしいからな……)


 光沢が確認した情報源によると、今光沢が見ている画面は本来自分の脳内だけで完結させるものだ。


 偶に物好きが実際に壁等に投影することはあるが、本当に稀なことらしい。


(周りの人から不審に思われない為にはそういっあ使をマスターしておかなくてはならないからな……)


 光沢はそう考えながら椅子に深く座り、後ろにもたれかかる。


(残りの時間はゆっくり休憩して、本番に備えるとしようかな……)


 光沢はゆったりと気分を落ち着かせながら時間を待った。


 しばらくすると、光沢の頭の中に声が響いてくる。


『間もなく交代の時間です。準備を開始して下さい』


 光沢は席を立って移動を始める。


 外に出て小走りで交代場所に向かった。


「交代で来ました!ヒカリサワです!」


 光沢は今も作業を続けている女にそう声をかけた。


「あ、交代の方!お願いします!」


 最後に一つ小包をコンベアの上に置くと女はその場から離れた。


 因みにこの作業、ほぼ全ての工程がマニュアル化されている。


 どれだけの間隔で小包をコンベアに乗せるのか、担当の交代はコンベアに小包を乗せてから何秒後なのか、小包を持つときはどのくらいの力加減で持てば良いのかなどの作業に必要な情報は全てマニュアルに書かれていた。


 その為、光沢もマニュアルに従いさえすれば致命的なミスを犯すことは無くなる。


「お疲れ様です!」


 光沢は一言そう言ってから作業に取り掛かる。


 とは言っても、今からやることも先程までやっていた作業と大差無い。


 大量に残っている小包の内一つを手に取り、それをコンベアに乗せるだけだ。


 そうすれば後は勝手に物事が進む。


 コンベアによって吹っ飛ばされた小包が目的の場所へ着くだけだ。


 その作業を繰り返していく内に頭に余裕が出来てきた光沢は、先日来たウェスタ王国の魔導騎士部隊の副隊長を務めるという『フィアン・ブラシロ』について考えていた。


(あの人……確か【五番隊】っていう所の副隊長だったらしいけど……本人の立ち振る舞いや保安官さんの言い方から考えると、小隊長のような低い立場では無さそうなんだよな……)


 光沢が見た感想だが、外交官や本人の態度から感じっ取ったものはフィアンが『小さな部隊の隊長』程度の人間では無いと言っていた。


(小隊長じゃ無くて……何だろう、もっと格上の……師団長みたいな立場って言えば良いのか?そんな雰囲気がした)


 光沢はその男の振る舞いを思い出してそう感じていた。


(仮に俺の感覚が合っていた場合だけど……あの人はウェスタの軍でかなり上の立場になるのか……)


 光沢はここで少し後悔する。


「こんなことならさっきの休憩時間中にウェスタ王国の軍の組織図を調べておけばよかったな……」


(とはいえ、過ぎたことは仕方無い。今は取り敢えず彼?が師団長のような高い立場だったとして考えるとしよう)


 そこで光沢はある可能性に思い当たった。


「それだけ高い立場なら、今回の戦争に来ているかもしれないな……」


(生きていると良いんだけど……)


 そう考えると、光沢は今時分が送ろうとした小包を少しの間見つめる。


 そのまま見つめて十数秒後、慌ててその小包をコンベアに乗せた。


(そうだよな……当たり前だよな。俺が今送ってるのは戦争用の物資。人を殺すために使われている可能性も十分にあるのは、言ってしまえば当たり前だ)


 光沢は自分の行動によって人が死んでいる可能性がある、というよりその可能性が高いことを改めて実感する。


(何だか、気分が重くなるな……)


 光沢は少し落ち込んだような気分でそう考える。


「……まあ、分かり切ってたことだ。今更あれこれ言うべきことじゃない」


 自分に言い聞かせるように光沢はそう言って、作業に集中する。


 そのまま暫く続けると、交代の時間がやって来る。


「……あの、大丈夫ですか?」


 交代にやって来た女は光沢にそう聞いた。


「はい……まあ。一応大丈夫で……す……」


 目の前には、数時間前に話していた女がいた。


「あなたは確か……」


 光沢が聞くと、相手の女は少し手で制する。


「今は仕事中ですから、話すことがあればまた今度にでも」


「あ……そうですね……」


 光沢は頷く。


 その直後に、光沢の脳内に何かのパスが繋がった。


『また何かの機会が有れば、戦争が終わった後にこちらで話しましょう』


 繋がったパスからそのような声が聞こえる。


 光沢は驚きながらもその場を離れていった。


 ――――――――――――――――――――――――


(……で、現在の戦局はどうなっている?)


 玉座に座った状態で皇帝はそう念じた。


『はい。現在、我が軍には特別作戦用前線部隊から数百名程度の死傷者が出ております。その他の部隊には目立った死傷者は出ておりません』


(成程。予定通りには進んでいるようだな)


 ウァルス帝国皇帝、エイデン・スコット・ウァルスはそう考える。


『はい。しかし、死者を出すでは無かった部隊からもちチラホラと死者が出ており、その部分をどう補填するかという問題が発生しておりまして……』


(ああ、その程度のズレなら問題無い。誤差として処理できる範囲だ。それより、相手側の動きに予想と違う部分は有るか?何か新技術を使っているような素振りは?)


『ウェスタ王国側の行動はほぼ予想通りですが、少し不審な移動が有り……我々としては、その不審な移動の際に何らかの技術を使っている可能性が高いとして調査を続けていおります』


(成程……調査結果の解析までが完了したら―恐らくこの戦争が一段落ついてからになるだろうが―また報告してくれ。期待しているぞ)


了解ラジャー


 二人の間で繋がっていた秘匿通信回線プライベートパスが弱まり、最終的に消える。


「……あと数日後には撤退準備をさせた方が良いかもしれんな」


 エイデンは自分が動かしている【もう一つの軍】の状況に思いを馳せながらそう呟いた。


(あちらもそろそろを終えたことだろう。二・三時間後には向こうの部隊の提示報告だ。それを聞いてから方針を決定するとしよう)


 エイデンは玉座に座りながらそう考えた。

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