第十話 ハングリィ

「ぅ、ん……あれ?」


 周りにスクラップが並んでいる場所で泰久は目を覚ます。


「え……ここは……」


 何が起こったのか理解できていないような顔で泰久は呟き、固まった。


 そのまま暫く時間が経って、泰久は正気を取り戻す。


(そうだ……まず、どうしてこんな状況になったのかを……)


 自分の記憶を探って何が起こったのかを思い出そうとする。


「確か、メギドさんがジャンプしたと同時に変な生き物が地面から出てきて……」


 ――――――――――――――――――――――――


「何アレ?!」


 地面がめくれ上がるように変化し、メギドを挟み込もうとした。


 それがメギドに当たるよりも一瞬先にメギドは飛び上がり、その攻撃によるダメージを回避する。


「ちょ、こっち!何か変なの大量に来てるぞ!」


 石井が驚いたような声で右の方を指差しながら伝える。


 石井の指差した方を見ると、言葉の通り大量の敵が来ていた。


「何?!こいつ?!」


 清水が叫ぶのと同時に、メギドが遠くから声を張り上げる。


「お前等!バラけずに一塊」


 メギドの声は銃声に阻まれてそこまでしか聞こえなかった。


 地面から小型の機械が数体現れ、銃を撃ち出したのだ。


「っ!!」


 光沢が泰久と石井の、板倉が清水の頭を掴んで叩きつけるように頭を下げさせた。


 先程までその頭があった場所を大量の銃弾が通過する。


「許斐さん!」


 ただし、一人間に合わなかった。


 許斐の頭は吹き飛んでいた。


「え……え?」


 その場にいる全員の動きが止まる。


 それは、最早戦場となったこの場所では余りにも致命的すぎる隙だった。


 右から跳んできた犬に突き飛ばされ、石井は数メートルほど吹っ飛ぶ。


 そのまま、しばらく痙攣してから動かなくなった。


「いし……い、くん?」


 泰久は固まって、それを見つめる。


「楠田くん!早く!」


 光沢が必死に手を伸ばす。


 それに気付いた泰久は震えながらも手を取ろうとする。


 その直前、犬型の暴走生物モンスターが口を大きく広げた。


 口から出てきた光弾が泰久の足元に着弾する。


 爆発の衝撃で泰久が十メートル近く吹っ飛ぶ。


 光沢は、手を掴めなかった。


「神歌!!今はとにかく向こうを見て!」


 呆然としていた光沢に対し、板倉がそう言う。


「あ、ああ。分かった」


 光沢はまだ混乱から目が冷めない様子でありながらもゆっくりと敵達が居る方向を向く。


「あ……あ、え?楠田?」


 清水は尻もちをついたままそう呟く。


「清水君もお願い!早く!!」


 ――――――――――――――――――――――


「……駄目だ。これ以上思い出せない」


 泰久は自身の記憶を限界まで探ったが、思い出せたのはここまでだった。


(清水君たちが話しているところもうろ覚えだし、これ以上は考えるだけ無駄かな)


 そう思って周りを見ると、ある事に気が付く


「あれ……この場所、僕がふっ飛ばされた先とは違うような……」


 周りを見ると、記憶に微かに残っている場所とは見た目が違うように見えた。


「何でだろう……?僕が気絶している間に運ばれたのかな……?」


 そこである違和感に気付く。


「あれ?僕、何でほぼ無傷なんだろう?」


 泰久は、自分の状態に違和感を持つ。


(記憶が飛ぶレベルで吹っ飛ばされた、ってことは体の他の部分が無傷なのは流石におかしくない?)


 自分が怪我をしてないかどうかを探るため、泰久は体の色々な場所を触る。


「痛っ!」


 背中を触ると、僅かながら痛みが走った。


「一応、怪我はしてるんだ……」


 治療しようかどうか悩んでいると、ガタン、と後ろから物音がする。


「……」


 ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには巨大な八本足の機械が居た。


 中央部にある砲塔をこちらに向けている。


「ど、うしよ……」


 その場で少しの間だけ固まる。


 泰久は相手を見ながら、ゆっくりと、後ろに下がっていく。


 しばらく下がると、壁にぶつかった。


 その瞬間、砲塔が光り、泰久の体の中央に穴が空く。


 排除対象の生命活動が停止したことを確認すると、八本足の機械は何処かへ向かっていった。


 ――――――――――――――――――――――――


「……あれ?」


 目が覚めると、泰久はそう呟く。


 状況を理解しようと、さっき自分に何が起こったのかを思い出そうとする。


「そうだ……確か何が起こったのかを思い出そうとしてたら変な機械がやって来て……」


 そこまで記憶を戻ると、自分の腹に穴が開けられたことを思い出す。


「そうだ……お腹は……」


 恐る恐る自分の腹を見る。


 服には貫かれたような跡があったが、腹には傷一つ無かった。


「あれ?どうしてだろう……?」


 流石に泰久も不審に思う。


 状況を確認しようと今一度周りを見ると、自分の記憶とは景色が異なっている事に気が付く。


(……どういうことなんだろう?さっきの攻撃では吹っ飛ばされはしないと思うんだけどな)


 自分の居る場所が何故変わっているのかを考える。


(というかそもそも、僕はどうして生きてるんだろう?あんな衝撃を食らったら死ぬと思うんだけど……)


 泰久が自分の生存の秘密を探ろうとすると、再び物音が聞こえる。


 恐る恐るそちらを見ると、やはり暴走生物モンスターが居た。


 形は、巨大なヘビと言うのが正しいだろうか?

 

 それを見るや否や、走って逃げようと逆方向を向く。


 その瞬間、蛇が口から何かを吐き出す。


 吐き出された液体が泰久に触れる。


 泰久の体は跡形も残さずに溶けて、後にはドロリとした液体だけが残った。


 ――――――――――――――――――――――――


「……あれ?」


 再び、目を覚ます。


(流石に分かってきたぞ……)


 泰久も、三度目ともなれば徐々に予想はついてくる。


(多分僕、死なないな。もしくは、死にはするけど生き返るか)


 先程までの自分の体験からそう判断する。


(そして、多分死なないだけじゃなくてある程度の再生能力があるんだと思う。そうじゃないと、さっき貫かれたお腹はまだスッカスカのはずだ)


 自分の腹に穴が空いていないことを確かめながら、そう考えた。


「けど、なんで僕がそんな力を持ってるんだろう……異世界に移った程度でこんな力を手に入れられる程話は上手くないだろうし……」


 何か自分の力の根源となるものは無いか探すと、レイアが言っていたことが頭に浮かぶ。


『【超人】や【準超人】と呼ばれるような方は大抵の場合、何らかの特異能力を保有しています。』


『特異能力に該当する因子は発見できたのですが、その詳細が判別できませんでした』


(これが、僕の持つ【特異能力】なのかな……詳細不明、って言ってたけど、不死身みたいなのもあるのか)


 泰久は考える。


「だとしたら、僕の【特殊能力】がどういうものなのか考えないと……」


 たったあれだけの現象で自分が不死身だと決めつけるのは早計だと考え、泰久は自身の能力について考え始める。


(幸いなことに、今僕が置かれている状態が余りにも非常事態すぎるからか、頭は随分と冷えている。)


 防衛本能なのか、いつの間にか冷静になっていた自身に少し驚きながらも、泰久は自身の能力について考える。


(僕のこの能力ちからは【不死身】なのか【復活】なのか、それとも死んだ瞬間から時間ごと巻き戻す【死に戻り】とも呼ぶべき能力なのか……ってところが問題なんだよね)


 泰久はまだ完璧な結論が出せない状態ではありながらも、少しずつ絞り込んでいく。


(この際【不死身】と【復活】の違いはどうでも良っか。僕が途中で気絶して、結局怪我は治るみたいだから、僕視点では大して変わらないし)


 【不死身】と【復活】を同じものとして捉え、残りの可能性である【死に戻り】との違いを考え出す。


(まだ候補の段階でしか無いから何とも言えないけど……やっぱり一番大きな違いは、時間が戻るか戻らないか、かな?)


「けど、時計もないこの状態だと、それを確認できないんだよね……」


(太陽の角度で分からないかな?……いや、その場合、気絶してるのが短時間だったら測れないか……)


 色々と考えるが、正解になりそうな方法は中々思いつかない。


「う〜ん……何か方法は無いのかな?」


 考えなが歩いていると、頭の上に影が出来る。


 不審に思って泰久が上を見ると、岩が落ちてきた。


「え」


 グシャリ、という気持ち悪い効果音と共に泰久の体は無くなった。


 ――――――――――――――――――――――――


 目覚めると、泰久は少し大きな瓦礫の前に居た。


 瓦礫の周りには、血が飛び散っているように見えた。


「これは……何だ?」


 血を見て、泰久は呟く。


(僕の血……なのかな?でも、現に今僕は生きているわけだし……こんなに血を出したら死んじゃうだろうから違うのかな?)


 自分の体がどうなっているのか、そして、この瓦礫がどこから落ちてきたのかを確かめようと、泰久は自分の体に触れたり上の方を見上げたりする。


「わ!」


 驚いたような声を上げてその場から飛び退く。


 そこに、大きな瓦礫が落ちてきた。


 どうして落ちてきたのかを確認するため、すぐに上を向く。


 遥か上の方では小柄なゴリラが動いているように見えた。


(何だアレ?細かい動きは……分からないか)


 相手の僅かな行動を確認しようと見つめるが、遠すぎて判別できなかった。


「兎に角、ここは瓦礫が落ちてくるから危ない感じか……離れよう」


 走ってその場から離れる。


 その最中、泰久はあることを考える。


(そういえば、瓦礫にの下に広がってた血って僕のだよね……?こんな広がり方をするってことは僕の体は丸ごと潰れたはずなんだけと……)


 そんな潰れ方をして無事でいられるんだろうか、と泰久は考える。


「けど、現実には生きてる」


(僕の【特異能力】は生存に特化しすぎていて、死体がなくても生き返ることが出来るとかのレベルにあるのかな?)

 

「もし仮に僕が【特異能力】の影響で死ななかったり死んでもすぐに生き返るんだとしたら、将来どうなるんだろう?」


 泰久は少し怖くなる。


(僕は、死ねるのかな?)


 自分が将来、死と復活を繰り返し続ける様子を想像する。


 頭を振ってその想像を強引に振り払った。


「大丈夫、それまで結構時間はある。ゆっくり考えていけば良いでしょ」


 そのまま泰久は廃墟を歩いていった。

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