第二話 国と異世界

「あの、こんなことを聞くのも失礼かもしれませんが……まだですか?もう一時間近く待ってるような気がするんですが……」


チビチビとカップに入れられたカフェオレを飲みながら、泰久はそう言う


「まあ、ちょっと待ってって。もうすぐの筈だから」


青髪はクッキーのような菓子をつまみながらそう言う


「そういえば……そのお菓子って、どんな名前なんですか?」


「ん?これ?クッキーで良いよ」


青髪が新しいクッキーを一枚取って泰久の方に渡す


「……僕の知ってる『クッキー』っていう食べ物とあんまり違いは無いですね」


「まあこれ、元は君達の世界から伝わったものだからね。この世界には君達の世界出身者が過去に何人か来ているから、君たちにとっても馴染み深いものが結構沢山あるはずだよ。もし機会が有れば探してみるといい」


そんな会話を続けていると、その部屋の扉が開いて髭面が入ってくる


「残りの奴ら、一人を除いて起きたぞ」


その言葉に対して、青髪は立ち上がる


「よし。じゃあ予定していた場所に行こうじゃないか」


そのまま部屋を出て歩いていく


「ってか、確か一人、が居たよね?その子なの?今まだ起きてないのって」


歩きながら青髪は髭面に聞く


「ああ。そいつに関しては不確定要素が強すぎるからな。薬で意識を奪いながら色々検査をしている」


髭面はそう答えた


(誰のことだろう……?まあでも、一回見てみれば分かるかな?)


そのまま、大広間のような場所に辿り着く


「じゃあちょっとここで待っていてくれるかな?もうしばらくしたら連れてくるから」


そのまま二人は広間を出て何処かへ向かっていった


(……何しよ)


やることがなくなった泰久は広間の中央で寝転んだ


「せっかく暇だし、掃除でもするか」


しかし問題は、掃除用具が一切無いことだ


この状況では掃除のしようが無い


「……指で拭こうかな?」


指を地面に擦りつけて、埃を取ろうとする


しかし、埃一つ付かない


(というかこの広間の床、汚れが一つも見つからない気が……)


どうしてだろう?と首を傾げる


(もしかして、汚れを自動で除去すると噂の光触媒でも使っているんだろうか?)


そこまで考えて、泰久はあることに思い当たる


(そもそも、ここは何処なんだ?)


ここに来て、今居る場所がどこなのかという説明を一切受けていないことに気が付く


「その辺りの説明もまたすぐにあるのかな?」


完全にやることがなくなった、とでも言いたげにやれやれと首を振る


「ま、気長に待ちますか」


地面が清潔なことが分かって安心したのか、その場で寝転んだ


――――――――――――――――――――――――――


「どうぞ、こちらへ」


ドアが開いて人が招き入れられる


「あ!君は……えっと……楠田くん!」


入ってきた少女、板倉凛がそう言う


「別に覚えて無いなら無理しなくても良いですよ。あんまり絡んだことなかったから覚えてないのも無理は無いでしょうし」


そのまま泰久は板倉さんの後ろを見る


「……あれ?光沢君は?」


ここにいるはずの、一方的にとはいえ知っている顔が見当たらなかったので不審に思って聞く


「諸事情によりあいつは起こせない。そこにういても追って説明していくつとりだ」


髭面はここまで言ってから何かに気がついたような素振りを見せる


「っと、そうだ。今更なような気もするが一応聞いておく。俺達の言葉は通じてるか?通じていたら『十分に聞こえています』と言ってくれ」


「「「「「十分に聞こています」」」」」


その場に居る五人は全員そう答えた


「なるほど。だとすれば我々の『脳機能拡張研究』にはある程度成果があったということになるか」


(脳機能……まあ、難しい話は後から理解していけば良いか)


「あの……それよりも、ここがどういう場所なのか、教えてくれませんか?みんな不安なんで……」


板倉がそう質問した


「あ、その辺りはもう僕が説明するから」


青髪が喋りだすと同時に、髭面が部屋を出て行った


「それじゃあ、まずはここが何処なのか、についての話だね。まずはこれを見て欲しい」


次の瞬間、空中に画面が浮かび上がる


「おおっ!」


清水が声を上げた


(そっか。そういえば清水くんってこういうのに興味あったんだっけ


清水孝宏がコンピューターなんとか部に所属していたことを思い出す


浮かんだ画面に地球のような球体と、すり鉢状の物体が一つずつ表示された


「簡単に言うと、ここは君達のいる世界とは別の世界、いわゆる異世界ってやつだ」


そのまま画面に映ったものを指差しながら説明を続ける


「実を言うと僕らの世界では別世界から物を引き寄せる、っていうか持ってくる技術の研究がかなり進んでいてね。今まで何度も転移させたことはあるんだよ」


青髪が手を振ると、映し出されていた画面が切り替わる


今度は先程二つあった内のすり鉢状のものだけが表示された


「これが僕達の住む場所だ。本当にこの形なのか実際に世界中回って確かめた人は見つかってないけど、観測所等で採ったデータからしても僕達の世界はこんな形で間違い無いと思う」


今度は画面が切り替わり、平面の地図へと変化する


「まあ、世界そのもののことを話していくと切りがないからその話はここらで一旦打ち止めにして、この世界にある国の話をしようか」


平面で表された世界にいくつかの線が入る


「政治制度や国土等といった細かいことはまた必要になったら伝えるから、今は国名と場所くらいで良いかな?じゃあまず、これ。地図の真ん中から少し東にあるのが我が国、ウァルス帝国だ」


そこまで言われたところで、板倉が驚く


「え?!この国、帝政だったんですか?!」


青髪は頷く


「君達が生きていたのは……二十一世紀前半か。そっか、その時期は帝政みたいな政治制度が一番下火だったもんね。確かに驚くのも無理は無いか」


そして、特に気にする様子も無しに話を続ける


「まあ、色々あって帝政が一番効率的な統治方法だっていう風に考えられたんだ。だから結構発展した今でもこの国は帝政を採用してるって訳」


今度は地図の中でウァルス帝国と反対側にある国を指差す


「そしてこの国―というより、国の集まりなんだけど―がリゲル民主主義連邦。名前の通り、この国は連邦制を採用してるんだ」


今度は全体の中央から少し北を指差す


「そしてここがウェスタ王国。名前の通り王政を採用していて、確か結構長い間続いているんじゃ無かったっけな?」


そう言ってちょうどウァルスとリゲルの中央に当たる部分を指差す


「最後に、ここ。一応これで説明を予定していた分は終わりかな?この場所は不可侵領域アンタッチャブルって呼ばれてて、どこの国にも属してないんだ。だから治安は荒れ放題だし、そもそもこの場所に何があるのか正確に理解している人が少ないっていう状況にもなっている」


「そんな場所があるんですか?」


僕と同じ高校生の中で僕が名前を知らない人のうちの一人、学生Aがそう聞いた


「うん。細かいことは知らないんだけど、昔があってその地域が荒れたみたいでね。それからは人間どころか通常の生物が住み着けない場所になったらしいよ」


「へぇ〜そうなんですか」


さらに、と青髪が付け加える


「そして、誰も住んでない上どこの国でも無いのをいいことに色んな人や団体が不法投棄をして、危険物だらけになっちゃって……そのせいで余計人が寄り付かなくなって……みたいなことを繰り返していく内に超巨大な廃墟が出来上がった、って感じかな」


何だか周辺地域の治安も悪くなるらしいから色んな国が手を焼いているらしいよー、と付け加えた


不可侵領域アンタッチャブルの説明を終えた青髪に、板倉が質問する


「あの……治安等の問題があるのならどうして放置しているんですか?どこかの国が、その……制圧しようとはしなかったんでしょうか?」


その疑問に対して青髪は頷く


「うん。もっともな質問だ。確かに治安悪化に繋がるものだから一旦壊してしまおうっていう意見もあった。けど、現地にいたモンスターのせいでその案は却下されたんだ」


(モンスター?)


全員、その言葉を不思議に思いながらも話を聞き続ける


「元々は普通に生きている生物だったらしいけど、何だか突然変異みたいなことが何度も起こったらしくね。国が何回も調査してるけどまだ結論は出てないらしいんだ」


「そうなんですか……」


またしても名前の分からない学生Bがそう言った


「ま、もしかしたら偉い人うえはそれなりに確証のある情報を得ていて、僕たちにはまだその情報が来てないだけかもしれないけどね」


「機密情報、ってことですね」


僕はそう言う


「ま、そんなところかな」


青髪はそう言うと、空中に映し出している地図を消した


「今すぐに僕が話さなきゃいけないことはこれだけかな。皆、何か質問とかあるかな?」


特に、質問は上がらなかった


「それじゃあ、今日の説明はここまでで良いかな?」


この言葉には皆頷いた


「じゃあ随分時間も遅いし、今日はこれで解散としよう」


そう言うと、隣の部屋からメイドさんらしき人が数人出てきた


「取り敢えず、彼女達が部屋に案内するから、付いていくように」


――――――――――――――――――――――――


「こちらです」


メイドさんはどこかの部屋の前に立ち止まった


「これが、今日僕が泊まる部屋ってことですよね?」


「はい。何か有ればお申し付け下さい」


扉を開ける


部屋の中は、それはそれは本当に素晴らしいものだった


センサーのようなものを使っているのか、トイレやお風呂場の扉は勝手に開いて勝手に閉まる


お腹が空いていたから『ご飯食べたいな』と呟いたら


「ご用意しましょうか?」


と、どこからともなく言われる


その言葉に頷くと、目の前に簡単な料理が現れた


恐る恐る食べると


「……おいしい」


「今後何かあれば、是非汎用管理人格のレイアにお申し付け下さい」


そう言って、メイドさんはどこかに消えた


(……この設備に頼ってたらダメ人間コースだな)


泰久は直感した


「これからは出来るだけ設備に頼らないで行動しないと」


机の上にある料理を食べながらそう言った


料理が粗方無くなってから、泰久は改めて考える


「さて、結局何で僕はここに連れてこられたんだ?」

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