Glustny(グラストニー)
さむほーん
第一章 異界召喚編
第一話 どこかの誰かに連れられて
「はいフルハウス。これでお前の残高はゼロ。また僕の勝ちだね」
「あ、え?ちょ、ちょっとタンマ!もう1回、もう1回だけで良いから!ね?」
その訴えを聞きながら、僕は机の上にカードを置く。
「え?どこ行くんだよ?」
「ちょっとトイレ。ちなみに僕が席を立ってる間に勝手に賭け札取ったらマジで許さないからね?具体的には僕達が賭けポーカーをやってたことを警察に言う」
「自爆覚悟じゃねぇか!」
座っているクラスメイト達は僕の札に伸ばしていた手を引っ込める。
ここまで言っておけば大丈夫でしょ。
あの中には僕以上に賭けポーカーで勝っている人も二、三人は居る。
その人達は自分達が捕まるリスクを犯してまで札を奪わないだろうし、他の人がそのリスクとなる行動をしていたら止めるはずだ。
(さて、じゃあトイレに行かないと……)
僕は新幹線の中を歩き始めた。
僕達は現在大阪にある高校の二年生。
今は修学旅行の為に集団で新幹線に乗って新潟に向かっている。
その新幹線の中で過ごす時間が結構長いんだよね。
その時間を楽しいものに変えるという目的で僕が持ってきたものこそがトランプだ。
それを使ってポーカーをやることになったんだよ。
最初は物品を賭けて無かったんだけど、試合が白熱するに連れていつの間にかお金(の代わりの賭け札)を賭けるようになっちゃって……。
ま、結局僕は勝てたから良いんだけど。
「トイレは確か……ここだったよな」
新幹線の乗客用スペースを出てすぐ隣にトイレがある。
鍵は掛かっていなかったのでそのまま中に入った。
そこで初めて、自分が尿意や便意を催していなかったことに気が付く。
(……あれ?何で僕トイレに行こうとしたんだろう?)
――――――――――――――――――――――――
「……ん?」
いつも通りにレバーを操作していた運転手が異変に気が付く。
レバーが反応しない。
緊急事態だが、このような状況に向けた訓練は何度も行ってきた。
予備のレバーを操作する。
(……反応しない?)
そこで運転手は、仕方なく緊急停止用のボタンを押す。
『緊急事態が発生いたしました。緊急停止を行いますので近くのものに掴まるなど……』
アナウンスの途中で気付く。
(スピードが……下がってない?)
このままではブレーキが効かず、どこかで脱線してしまうかもしれない。
(クソッ……かといって他に対処方法は……)
列車のスピードはどんどん上がっていく。
(不味い不味い不味い不味い!)
止める手立てが無い。
ガコン、と何かが外れる音がした。
――――――――――――――――――――――――
(……あれ?ここ、何処だ?)
少年は、気が付いたら真っ暗な場所に居た。
何故自身ががこんなところに居るのかが全く分からないまま、記憶を探る
(えっと、確かトイレに行って、その後……)
そして、核心の記憶に辿り着いた
(そう、何だか緊急事態がどうのとか言う放送があったんだ)
(その後トイレの中に居たらすごい衝撃が襲ってきて……)
「……事故、かな?」
(考えられる可能性としては、脱線事故かな?確か昔、福知山で大きい脱線事故が起こったんだっけ?)
(その時の死者の大部分は、脱線したときの衝撃で壁に打ち付けられて死んだり、その衝撃で外れた椅子に潰されて死んだりしていたはずだ)
(潰されて死亡……その危険を考えたら、電車の中に居るのは不味いかな?)
「兎に角、外に出てから考えよう」
そうして、トイレの扉の近くまで歩いていく
「……で、問題はどう出るかなんだよね」
少年はドアに手を当てて確認した
「ドアも……歪んでるな」
何とかこじ開けようとドアを左右に引っ張るが、びくともしない
「ん?いまちょっと動いた?!」
そうして試行錯誤を繰り返していく内に、前後に扉を動かすと僅かだが動くことに気が付いた
「っ……と……よし、後は……」
何度も動かして扉の立て付けを悪くした後に、足で蹴る
ガン、と重い音を立てて扉はレールから外れた
「ふぅ……まずトイレから出ることは出来たか……」
そこで一瞬迷う
「クラスの皆は……大丈夫なのかな……?」
その場に、薄っすらとだが血の匂いが漂っていた
死臭や腐臭がしていないところから、まだ脱線が起こってからそこまで時間は経っていないことが予想される
「……」
その場にいた少年、
――――――――――――――――――――――――
「ねぇ!?皆!無事?!」
客席や机の破片が飛び散っている場の中で声を強める
「……あれ?あの手……動いてる」
まだ生きているなら、助けられるかもしれない
そんな思いで、見つけた手の元に進む
その手は、吹き飛んだ椅子と壁の隙間から出てきていた
「大丈夫ですか?!すぐ出しますからね!」
大声で相手や周りに居るかもしれない他の生存者に気付かせるというより、もはや自分に言い聞かせているような声でそう叫ぶ
椅子をめいいっぱい押し、何とか退けることに成功する
そこには、顔の骨が押し潰されたであろう、最早人間なのかどうかすら怪しい存在が居た
元は、人間だったのだろう
「え……え?」
圧倒されながら、後ろによろめく
「けっ…うおぇっ…」
びしゃり、と地面に吐瀉物が撒き散らされた
(何で……何が……)
理解が追いつかないまま、その地面に倒れ込む
そこで見えた自分の腕は、明後日の方向に折れ曲がっていた
「え……え!?え??!!」
初めて、自分の骨が折れていることに気が付く
(あ……ああ、あああ!!!)
最早彼には、地面で声にならない声を上げるしか出きることは無い
今までは、緊急時に分泌されるアドレナリンの効果で活動出来ていただけだった
そのあまりの痛みに気絶する寸前、彼が見たのは
緑色に染まった液体と、そこに写っていた下半身の無い自分だった
――――――――――――――――――――――――――
『まあ、今回も上手く行ったんじゃないですかね?』
『……いや、どうだろうな?』
うっすら意識がある中で、誰かが話していることが分かる
『予定では連れてくるのは一人だった筈だ。流石に六人というのは多すぎるぞ』
『そうですね……一体何が起こったんでしょうか……計器等の数値にも特に異変は無いんですが……』
『それが奇妙だな。いや、奇妙というよりも危険だな』
『ええ。何故か分からないけど起こった、とうい状況は一番避けなくてはなりませんからね』
泰久の意識は、少しずつ覚醒していく
「……あ」
腕と、口を動かす
腕が粘性の液体に阻まれて、上手く動けないようだった
『あ、起きたんじゃないですか?』
『お、本当だな。あの子供はもしかすると傷が浅かったのかもしれんな』
そんな声が少年の耳に入ってくる
腕を動かしていると、少しずつ粘液の水位が下がっていった
(僕が掻き分けたから水位が下がったのか……?いや、そんな訳無いか)
首を傾けて下の方を見ると、一つの穴のようなものが見つかった
(ああ……あれから吸われてるのか……)
思考が中々纏まらない中、そのような小学生並みの感想を持つ
『……よし、これで出られるかな?」
水位が下がって耳が液体の外に出ると、今までくぐもっていた声がクリアに聞こえるようになる
泰久の足が地面に付き、ほぼすべての液体が無くなったタイミングで、泰久は改めて目の前に居る二人を見た
一人は髭面で、思慮深そうに見える
もう一人は青髪でこちらは思慮深いというより、頭が回る、もしくは機転が利くと言う表現のほうが近そうな印象だ
(まあでも、人を顔で判断するのは良くない)
液体に使っていたことで乱れていた服を軽く整えて、二人に向き直る
ちょうどその時、目の前のガラスが自動ドアのように開いた
「出てきて良いですよ」
青髪が泰久に向かってそう言う
その言葉を受けて、泰久はゆっくりとガラスに空いた穴に向かって歩いていく
外に出てすぐに泰久は頭を下げる
「こんにちは。楠田泰久と申します。早速で申し訳ないのですが……ここは一体何処なのでしょうか?」
相手の顔を見ながらそう聞く
「こんにちは。楠田君って言うんだね。ここが何処かについては、皆が目覚めてから一緒に話すから、もう少しだけ待っていてくれるかな?」
(皆……そうだ!皆だ!)
その言葉を聞くと同時に今までモヤがかかっていたかのような脳内が急に弾ける
「あの!僕の他にも結構沢山の人が居たと思うんですけど……その人達は、どうなりました?」
すると、青髪が僕の後ろの方を指差す
そこでは、僕のクラスメイト達がそれぞれ、緑の液体で満たされたビーカーの中に浸かっていた
「光沢に……板倉さん、それと、清水くん?」
その中の三人には見覚えがあったようだ
一方、残りの二人は見たことがないというような素振りを見せる
「あの……彼らは、無事なんですか?」
「ああ。大丈夫だよ。ただ、君よりも怪我が重いからちょっと治療に時間がかかっている感じかな?」
「重症?」
聞き返すと同時に、あることを思い出す
「あ!僕の足!あと腕も!」
自分の腕や足を触って、それらが確かに存在することを確認する
「ああ。その辺りは安心してくれ。君が寝ている間に全て治しておいた」
髭面がそう言う
「そうなんですか?ありがとうございます……それで、彼らは僕よりも重症だ、って言いましたよね?僕も結構重症だったと思うんですけど……」
泰久はそう聞いた
「ああ、君は確かに重症ではあったけど、他の人達ほどじゃあ無かったんだよ。この子達の中には首しか残ってない子や、何なら鼻から上しか無いような子も居たからね。バラバラ死体みたいな状態で連れてこられたようなものだから復活に時間がかかってるんだよ」
青髪がそう述べる
「ちゃんと、生きてたんですよね?」
青髪の方を向いて泰久は聞く
「うん。少なくとも、君達六人はね」
(その言い方をするってことは……)
「他の人達は、駄目だったんですか?」
先程一緒にポーカーをしていた相手は、泰久の見える範囲には居ない
「うん。そうだね」
その言葉に、泰久は固まった
それを知ってから知らずか、青髪がどこかに向かって歩き出す
「まあ、この場で立ったまま話すのもアレだし、ちょっとこっちに来なよ。ゆっくり話そう?」
その言葉を受けて、泰久は青髪の後ろに付いていった
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