殺人魔

@kimura_masahito

第1話

午前11時、警視庁の受付に1人の青年が現れた。

『人を殺しました』

青年は佐藤明と名乗った。

警視庁捜査一課川島陽子は取調官として佐藤明と対峙する。陽子は佐藤明と名乗る若者の風貌に違和感を覚えた。殺人を犯し自主をして来たという佐藤明の風貌は一言で言うならば、とても美しく魅力的な風貌だった。色白で細面な小顔。鼻筋がくっきりとし、鮮やかな唇とその周辺には、気品を感じさせる微笑みが微かに漂っていた。何よりも眼が美しかった。茶色がかった眉毛がビロードのようにしなやかに見えた。長い睫毛が自然にカールしている。ブラウンの瞳が煌びやかに輝いている。奥二重でやや吊り目。少し長めの髪は、真ん中から自然に分かれ、軽くウェーブがかかっていて、艶のいい髪質だった。身長は175センチくらいの痩せ型だ。基本的には日本人の顔立ちなのだが、溜息が出る程美しかった。そして佐藤明はブルージーンズに白いタートルネックのセーター姿で、持ち物や時計、アクセサリー等は何も身につけていなかった。身分証明書どころか、財布も持っていなかった。本人が佐藤明と名乗り、人を殺したからと言って出頭している。

佐藤明は正面に座り、無垢に見える瞳で、陽子を真っ直ぐ見ている。敵意も悪意も無い穏やかで魅力的な青年だった。25歳くらいに見えるが、確かなのは、美しい風貌のみだ。名前や身元は不明だ。


『佐藤明さん、あなたは殺人を犯して、此処へ出頭した。間違えありませんね』

陽子は佐藤明の目を真っ直ぐに見つめ返しながら尋ねる。


『はい、間違えありません』

驚いた事に、声も良かった。アニメの主人公を演じる声優みたいな声が、陽子の耳を心地よくくすぐった。


『それでは、あなたは、何時、何処で、誰を殺害したのですか?出来るだけ正確にお話し下さい』既に陽子は、佐藤明が殺人者とは思えなかったが、職務上の手順として質問した。


『ぼくは、此処へ来るまでに、1000人の人を殺しました』佐藤明は表情を変えずに、落ち着いた口調で言った。


『1000人?佐藤さん?人数は聞いてません。いつ、何処で、誰を殺したかを聞いています。それと、佐藤さん我々警察官をバカにしていませんか?』陽子の隣りでノートパソコンを閉じ、高山秀樹が呆れて声を荒げたその瞬間。向かい側に座っていた佐藤明が、高山の後ろに音もなく瞬間移動していた。そう、目にも止まらぬスピードでだ。陽子と高山は急いで立ちあがった。




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