さらばギルティ:破

 ―――「後悔の仕方」。「生徒会長は許嫁」において重要な場面。


 主人公であり、ヒロイン。別名、鬼の生徒会長である彼女は、その立場上、許嫁への思いを隠しながら、生徒の模範となるように日々過ごしていた。そんなある日、家庭間の事情で幼馴染の彼と許嫁関係を解消することを告げられる。


 今まで彼に迫られても我慢しつづけてきた思い。自分の信念を曲げてまでも伝えたいこと。しかも相手のことを一切考えないタイミング。当然、相手にとって迷惑他ならないと葛藤し、気持ちを伝えるかどうか躊躇する。そんなときに彼の言っていたこと。


「自分の気持ちを貫くとどこかに迷惑をかけてしまい後悔する。そして次から行動するのを躊躇してしまう。でも行動を起こさないとさらに後悔というジレンマ。……ならば俺は、自分の信じているものを貫いて前向きに後悔したい。それが間違っていたとしても。」


 なんて自分本位な考えなのだろう。そう蔑んでいた彼女だったが、まさに自分を貫くか傍観するかの選択を迫られたとき、彼の言葉に前を向いた彼女は……。


「あなたに迷惑をかけてもいいですか。」


その発言に後悔し、そして自分に納得できたのであった。


―――



 ……告白すること自体が彼女に迷惑をかけることは分かっている。自己中心的だと辞めようとする自分がいた。けれどこのシーンを読んで、自分の気持ちを貫いてみることにした。この後悔はいつか役に立つと信じて。


 で、バッサリ振ってくれると思っていたのだが。ん。ん?


「……」


「あの連絡先交換するのってラインでいいですか?」


「あ、はい。」


「じゃあ、私がQRコード出すので、読み取りお願いします。」


「あ、はい。」


 言われるがままに業務をこなした。……この状況はなんぞ。


「あの。私、あなたに伝えたいことがあるのですが、今いろいろと準備できていないので後日また会ってもらえませんか?」


「え。ああ、もちろんなんですけど、また8時にここ集合ですかね?」


「あ、いえ、お互い、都合の良い時間帯で大丈夫ですか。もしそれで良いならこの後ラインで日程を調整したいです。」


 なにこの展開。


「了解です。ありがとうございます。あ、忘れてた。俺の名前、佐田修哉っていいます。あなたは……」


「あ、北島春乃です。今日はありがとうございます、じゃあ私はこれで失礼します。」


 彼女は一礼し、この場を後にする。俺はというと彼女の後ろ姿に見惚れていた。後ろ姿も可愛いのは反則すぎる。


……さっきのは幻だったのだろうか。未だに真偽は分からない。


 改めて先ほどの出来事を振り返る。それにしても春乃ってお名前可愛すぎんか。……あ、ライン追加したんだっけ。「ハルノ」というアカウント名を見つける。ああ夢じゃなく現実だったのか。


「……」


 緊張と安堵そして感動。他にも形容しずらい感情が一気に入り混じって押し寄せてくる。


 ……やばい、叫びたい気分。叫んでいいですか?

あああああああああああああああああああああああああああああ※ディアルガ


 またしても心の中で叫ぶことができなかった。近隣にお住みの皆様、今回だけは見逃してほしい。







「……これで良かったんだよね。」


 自分の先ほどの選択に後悔しつつもどこか昨日まで心に棲みついていた不安が少し取れた気がする。しかし。


……彼の好意を利用して謝罪の場を造ろうとした。


 また新たに生じた罪悪感に苛まれる。彼は私のことを嫌うだろう。謝罪の件はおろかそのことを伝えたかっただけと言ったなら、彼は自分の気持ちを踏みにじられたと思うに違いない。


 でも。謝罪したからといって彼は欲していたものを自分で得ることができなかった事実は変わらないし、私が特典を譲る趣旨を伝えたら拒まれることも見当がつく。最初から分かっていたことだった。


 それでも。どれだけ自分本位だとしても。罪悪感を持ちつつも辿り着いて読み切った「後悔の仕方」に刺激されて。自分が迷惑をかけてでもしたいことをした事実に後悔はないのだから。




 自分が嫌い。それでも前へ進もうとあがく。昼よりも少し涼しい風が帰路を急ぐ北島春乃の髪をなびかせていた。







 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る