妊娠と報告。










「ご懐妊ですね。おめでとうございます」



「あ、あ、は、はい…」



現在、ヒンメルの町にある小さい診療所に先程、衝撃的なサプライズをかましてきたリネットを無理矢理連れて来て約30分。



どうやら本当にリネットは本当に妊娠していたらしく、診察室から出て来た看護師に告げられた懐妊の知らせに、脳が追い付かなくなるライア。



「ほら言った通りだったのですよ?これで王都で買った子供の服などが役に立つというものですね!」



看護師と一緒に診察室から出て来たリネットはあっけらかんとした態度で、妊娠の事もあまり驚いた様子の無いまま、普通に喜んでいる。



ライアとて、子供が出来るのはとても嬉しい事だし、アイゼルの催促の件もあって喜びたい気持ちで一杯なのだが、如何せん驚きの感情が先行してしまう。



「はぁぁ……子供……俺の子供か……」



「なんですライア?今更悩んでいるのです?もうライアはお母…お父さんになるのですよ」



「お父さん……」




リネットがお母さんと言い間違えそうになった事にも気が付かない程、ライアの心は子供の事に関心が行っており、ボーっとしながら宙を見つめる。



「リネットさん……俺、頑張りますね…」



「ん?よくわからないですけど、頑張るのは良い事ですよ」



そうしてライアは、夢心地の中でリネットに手を引かれながら屋敷まで帰宅し、暇さえあればリネットのお腹に触れるという初々しい姿を使用人のセラ達に発見され、微笑まし気に見られるのだった。








―――――――――

―――――――

―――――






――――リールトンの街side(アハト)



「おぉぉ!!ついに念願の孫がッ!」



「はい!私とリネットさんの子供です!」




数日後、色々と心の中の整理が付いたライアは、今まで散々子供はまだか?と催促してきていたアイゼルの元に、分身体の1人である【アハト】がアイゼルの領主邸に報告をしに来ていた。



「いやぁ2人の子供となれば、さぞ可愛らしい子なのだろうなぁ……ふふふ、ライア君?親になるというのは存外に嬉しい物だろう?」



「はい……はっきり言って、子供自体好きでしたし、自分の子供が出来れば目一杯愛する自信はあったんですけど……なんかもう色んな感情が溢れて、ヤバいです!」



「アハハハハハ!!これは私も娘の顔を見にヒンメルの町に行かねばな!アイリスも姉に会いたがるだろうしな!」



「アイリス様にはこの後遊ぶ約束もあったので、そこでお話ししようと思います……ぜひお2人ともヒンメルの町においでください」












――――――アーノルドSide(王宮の分身体)




「ライア殿もついに子供か……それはとてもめでたいね」



「おかげでここ数日、仕事やらなんやらが殆ど手に付かなくて…分身体を操作するのを忘れてちょっとした失敗を幾つかしてしまいました」



「なるほど…それで一昨日は壁に向かって歩き続けるという面白い状態になっていたのか」



「その節は本当にご迷惑を…」




アーノルドとの恒例の女装評論会後に行われるお茶会で、ライアの婚約者であるリネットが妊娠したと報告をすれば、アーノルドは素直にお祝いの言葉をくれる。



それに伴い、ライアのちょっとした失態も公に晒されるが、子供が出来た事で分身体の操作を誤ってしまっていたのは事実なので、反論など出来ない。



なんだったら、帝国の【ラウル亭】で働くライに至っては、注文を間違えたり、ボーッと棒立ちになったりと失敗のし過ぎで、病気を疑わられ宿に返されたりもしたので、スパイとしては気の緩み過ぎであろう。



もちろん今は普通に働きながら、噂話などに耳を傾けながら諜報活動を再開させているので、ご容赦願いたい。




「しかし、ライア殿の子供か……出来れば女の子であってほしいものだね」



「女の子ですか?どうしてです?」



この国には男女の差別的身分差などはあまりないが、それでも男子の方が優遇されている部分があるのは事実なので、貴族側の考え方としては領主を継がせる目的で男子を願う方が適切だとは思う。



なのにアーノルドは女子を願っているような発言なので、ついライアも気になってしまい、疑問をぶつける。



「私もそろそろ子を作らねばならない歳だからね……王位は原則、長男に譲るモノだから私の未来の息子の婚約者として、ライア殿の子を迎えたいと思っているからね」



「いやいやいや!流石に身分とかの問題で周りが許しませんよ!?というか一応私は元平民の出ですからね!?」



というか、未だ王位はアーノルドの父親であるアズベルト王の物なのに、気が早過ぎる。



今までの聞いた話や書物の知識から一般的に王位の継承は王位継承者第一位の王子が30歳ちょい前くらいにされる事が多いらしい。



既にアーノルドももうすぐで25歳……王としての責務を学んでいる様子から王位継承には問題は無いのかも知れないが、だからと言って未来の王子の花嫁にライアの娘を欲しがるのは未来を見過ぎである。




「平民の出と言ってもすでに子爵位の貴族……それにライア殿はどうせ帝国の戦争の際に新たな功績で伯爵…もしかすれば侯爵になるのだから問題などないさ」



「そんな軽い感じで侯爵位になれたらダメですよ!?」



強くそう否定の言葉を口にするが、ライア自身、心の中では『平民の俺が今や子爵だしな……ありえそうで怖い』とアーノルドの言う事に一理あると考えてしまっていたりする。





「……というかアーノルド様に婚約者様っておられるのですか?」



「候補は結構いるらしいけれど、顔は殆ど知らないね。一応父上が選んだ婚約者候補だから見合いのようにあったりはするのだが、何故か私と見合いをした令嬢達が『王子に会いに来たのに、王子に会えない』と文句を言う始末でね……実際に会っているのに失礼な人達だ」




……それは貴方が完璧な女装(美少女)になっていて、王子だと気が付かれていないだけでは?



ライアは、心の中で思った事を口に出そうになったが、仮にこの事を伝えてもアーノルドは女装をやめる訳が無いので、アーノルドの事を見破れる令嬢が出て来るのを待った方が、後々の結婚生活が円満になるのでは?と考え、手に持った紅茶を口に含み、言葉も一緒に胸の中へ流し込む。





「なんにせよ、ライア殿の子が出来た事を祝おう。婚約者云々はまた今度話す事にしよう」



「あはは……」




自分の子の将来が平穏ではなくなりそうな話題に、未来の我が子へ心の中で静かに合掌をするライアなのであった。







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