ダンジョン遠征
「ギャァァッッ!!」
――ブンッ!
「―――っと……後方!援護は最小限!お互いの動きに注視しながら動けッ!」
「「「はい!!」」」
ダンジョンの第4層にて、集団で襲ってくるエコーテの群れを周りに声をかけながら、連携してさばいて行く騎士団達。
(……うん、危なげなく討伐出来てるし、緊張とかもしないで余裕を持って動けてるね)
ライアはそれを見ながら、万が一危険があった時の為に魔法で姿を消して待機をしていた。
騎士団率いる遠征組がダンジョンに入って早1か月半が経ち、ある程度お互いの動きを把握した連携や魔物との戦闘訓練を経た騎士団員達は、もうエコーテとの戦闘ではライアの手を借りることなくこなせるようになっていた。
(最初の頃は魔物との初戦闘とかで、躓いて足をくじいたりした子もいたけど……成長は早いもんだねぇ)
成長が早いとは言っても、元々スキルレベルや戦闘訓練をこなしている騎士学校の出である人間なので、単に状況に慣れただけとも言えるが、場数を踏むというのも立派な経験なので、成長と言ってもいいだろう。
「ゼェェェリャァァァァッッ!!」
―――ズバンッ!!
「ヤァァァ!!」
―――ズバッ!!
その成長した騎士団達の中で、目を引く者もやはりいるようで、剣を扱うサムライ娘ことシグレは、剣を一閃すると、エコーテ3体の胴体をなぎ倒すかのように切り裂く。
同じ剣を扱うベルベットも他の騎士達に比べれば、頭一つ抜けている印象はあったが、シグレには届かないと言った印象。
(アインは、周りの騎士達に声を掛けつつも、魔物への注意は怠ってないし、剣の腕前と盾の防御力はさすがだね……コルドーさんは……まぁ元々王城で騎士を務めていただけあって、動きは洗練されてるし、シグレやベルベット達ともうまく連携出来てるね)
一応、コルドーは正式にインクリース家の騎士団所属ではあるのだが、役職などには付けずに食客に近い扱いになっている。
元々、モーゼスには正式にこちらに所属させる事を願い出されていたのだが、ライア自身が部下としてコルドーを扱う事に戸惑いの気持ちがあった事と、新米騎士ばかりの騎士団に伯爵家出の王城勤務だった騎士を入れれば、要らぬ不和をもたらすかも知れないと、コルドー自身が申し出た事でこのようなどっちつかずの状態に収まったという訳だ。
……まぁコルドーの考えとしては、ツェーンが王都の方に拠点を移したりした際にすぐにでも追えるように自分の立場を低くしたかったなどの理由があるみたいだが、そこはもう放っておく。
(騎士達は問題ないね……プエリとパテルの方は…)
―――ズババババババッッ!!!
「よっとぉ!!ほい!!」
「………」
(問題は無さそうだね……アハハ)
エコーテの群れをまるで紙や野菜かのようにスパスパと切り裂きながら走り抜けるプエリと怪我の一つでもしようものならいつでも傷薬を渡せるように近くにいるパテルの姿に思わず苦笑いを溢す。
「―――お疲れ様。皆、怪我はないですか?」
「全員、怪我1つ負ってはおりません」
エコーテの群れを討伐し終えた所で、姿を消していたライアが騎士達に声を掛けると、代表して団長のアインが返事を返してくる。
「それは良かった……今の戦闘を見ていましたが、基本的にエコーテ相手だったらもう油断をしなければ問題は無さそうですし、恐らくこれ以上エコーテと戦っても学ぶ物は無いでしょう」
「……という事は…」
「はい!明日からは事前に伝えていた通り、第5層のワイバーン狩りを開始しようと思います!」
ライアの言葉に、いよいよか…と顔に緊張を浮かべる騎士達は多かったが、誰も絶望の様な悲嘆にくれた表情の者はいないし、寧ろ新たな強敵に気合を入れている者も結構いたので特に何か言う必要も無さそうである。
「……大丈夫そうですね…それでは今日は第5層前のエリアで野営をして、明日の朝から第5層に入る事にします!」
「「「「はい!!」」」」
――――――――――
――――――――
――――――
第5層はライアにとって、ほぼ庭と言ってもいいほどに知り尽くしているし、緊張などする必要が無いほどの力を持っている。
だが、それを第3者である騎士団員達に言ったとて、騎士達も緊張をしなくなるという訳も無く、どんなに力を付けようとも、己自身が足を踏み入れていない場所というのは未知であり、不安な物だ。
しかし、その不安や緊張を持つのが悪い事などではなく、人間としての防衛本能の一つなので、無くしてはいけない物であるとライアは考えている。
「刮目して見よッッ!我が剣技ッ!!でぇぇりゃぁぁぁぁ」
―――ザグッ!!
「ご主人様の御前であるぞぉぉ!!頭が高いわこのトカゲモドキがぁぁぁッ!!」
―――ドスッ!!
「わぁー!すっごいよー!お父さん!切った感触が手に伝わるくらい固ーい!!おさるさんと違うよー!!」
――――ズバッズバッズバッ!!!
「ギャァァァ………」
―――バタン……
シグレの剣により翼の翼膜を切り裂かれ、ベルベットの意味の解らない怒りの一撃で足に剣を突き刺し、プエリの縦横無尽の剣戟により身体を幾重にも切り刻まれたワイバーンは力尽きるように地面に倒れ込む。
「「「………」」」
「…シグレ……あまり出過ぎると、他の騎士の分が無くなるぞ?」
「あ、そうであったな……つい、主君にワッチの力をお見せできると張り切ってしまったわッ!!」
(いや、そこ?……もうちょい違う所にツッコミ所なかった?)
ライアは、いきなり現れたワイバーンに一目散に突っ込んで行ったシグレ達に驚きの感情を持ちながら、まさか他の騎士の分も残せと言い放ったアインに対しても「え?」と疑問の目を向けてしまう。
恐らくこの気持ちはライアだけでは無かったらしく、他の騎士達に目を向ければ、皆がアインの方に目を向け「えぇ…?」と若干引いている目をしていた。
「……あの子達に緊張とか不安って言う感情は無縁みたいだね……」
ライアの呟きは誰にも聞かれる事無く、ダンジョンの中に消えていくのだった。
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