ダンジョン修行
「――――という訳で、騎士団の皆さんにはダンジョンでワイバーン狩りを行ってもらいます」
「「「死にますよッ!?」」」
翌日の朝、ライアは事前に騎士団へ早朝から集まるように連絡し、屋敷の隣の訓練場に騎士団全員とパテル、プエリの2人も加えた計34名が集合していた。
朝早くから集まっている所に、ライアがいきなり『ワイバーンを倒してレベルアップしよう』と新米騎士達に無理難題を押し付けられれば、こうも言いたくなるだろう。
「アハハ。大丈夫です、ワイバーン狩りと言っても補助もしますし、命の危機がありそうな場合はすぐに助けます……とは言っても、さすがにいきなりワイバーンは確かにキツイとは思うので、ダンジョンに慣れてもらうという意味でも、まずは第4層の“エコーテ”の討伐訓練をこなしてもらおうかと思っています」
「……エコーテ…確か、集団で行動するサルの魔物ですね」
騎士団の隊長であるアインは、魔物の勉強でもしていたのか、それほど有用性のない魔物であるエコーテの事をどうやら知っていたらしい。
エコーテは基本的に、集団行動で動きながらダンジョンを徘徊しており、戦闘となれば周りの人との連携や周囲への警戒も大事になる相手だ。
以前、冒険者達と一緒にダンジョンへ調査に行った際にも、熟練冒険者達やテルナート達は大丈夫であったが、中堅冒険者や新米冒険者達はほぼ満足に戦えなかったのは印象に残っている。
新米騎士である皆には少々キツイ相手かもしれないが、そこはライアが手厚くフォローするつもりなので、怪我1つさせる気は無い。
「エコーテの戦闘に慣れ、騎士団のみで魔物を一掃できるようになったら、ワイバーン狩りに移行するつもりです。……大体1月…いや、2か月を目標に遠征をしましょう」
「遠征ですか……」
騎士達の表情にダンジョンから2か月間帰る事が出来ないのかと憂鬱そうな顔を浮かべる者がチラホラ。
「ふっふっふ……さすがは主君ッ!!ワイバーンという強大な相手をさも当たり前のように倒すと言いのける圧倒的自信ッ!!ワッチも滾って来ましたぞぉぉッッ!!!!」
「おぉ……さすがはご主人様ッ!!それほどの責め苦を私達全員に施してくれるとは……これは是が非でも乗り越え、自身の
「やっとダンジョンに入れるんだねお父さん!!わたしもライアねぇちゃんの為に魔石とか集める!」
「……無理は禁物だぞ…それにいくらお前が強くなったと言ってもまだまだ動きに硬さは残っている……慎重に行くんだ……」
そして、ダンジョンに行く事に喜びを見出す者達も結構いるようで、一部の者達からやる気(?)に満ちた声が聞こえて来る。
「各自、武器や防具を用意でき次第、またこの場に集合してください!食料や傷薬、その他諸々の物資は私が用意しますので」
ライアの解散の言葉に、すぐさま騎士達は行動を開始し、プエリとパテルも己の装備を整えようと自室に向かう。
「―――ライアちゃん、少しいいかな?」
「コルドーさん?どうしました?」
皆が己の準備をしに行く中、お預かり騎士の立場であるコルドーがライアに声をかけて来る。
「今回のワイバーン狩り……というか、ダンジョン遠征は騎士達のレベルを上げる為のものだろう?」
「はい、そうですね……少しずるいかもしれませんが、自分の騎士団ですし、それ位の贔屓はしてもいいかと思ったんですが…」
ライアが行おうとしているのは、言うなれば高レベルのプレイヤーが初心者プレイヤーの為にモンスターを弱らせ、最後の一撃を譲って強制的にレベルをあげさせる寄生行為、またはキャリーとも言えるあまり褒められる行為ではない。
この方法が行われれば、戦闘経験の殆ど無い者でもレベルを上げれる為、お金に物を言わせてステータスをあげる貴族などが増えるかもしれない。
今回に限って言えば、寄生相手であるライア自身が提案した事だし、何より騎士団はライアを守るいわば部下である。
世間に知られたとしても悪い印象は与えないだろうが、下手をすればそこら辺の貴族が『ならば私の息子も強くしてくれ』と言ってくる可能性もあるので、出来ればあまりバレたくはないと考えるライア。
「ん?別にライアちゃんが決めた事なら何も問題はないだろ?念の為に訓練方法は広めない方が良いとは思うけど……俺が聞きたかったのは理由の方だよ」
「理由ですか?」
その事でコルドーも話しかけてきたのだと思ったのでそう言ったのだが、どうやら聞きたい事は別の事らしい。
「あぁ。ワイバーン狩りはレベル上げとしては確かに効率は高いだろうけど、無理に行うほど安全な物という訳じゃない……時間を掛けて新米騎士達を魔物に慣らして行き、年単位でワイバーン討伐を成功させる物のはずだ」
「それは……そうですね。私も普通だったら騎士団の人達には地道に力を付けて行ってもらいたいですし、有用なスキル取得をメインに動いてもらった方が良いと思います」
騎士達は基本的な武器スキルは全部取得しているらしいし、5歳児の時に得たスキルの中にはかなり便利な物も所持している騎士も数人いるらしい。
だが、殆どの騎士達は未だ≪自己回復≫や≪潜伏≫と言った、戦闘を有利に進めるスキルは取得出来ていない者ばかりだ。
本来であれば、そう言ったスキルを取得する為の訓練を施すのが正解だとライアも思っているが、今回は事情がある。
「つまりは、この騎士団は帝国との戦争に参加する……いや、情勢を考えるなら、小競り合い自体がこのヒンメルの町で起きるという感じかな?それもそう遠くない未来で」
コルドーは、帝国との戦争自体はすでに騎士達全員に伝えていたとはいえ、ライアが急なレベル上げ訓練を提案しただけで、そこまで予想したらしい。
「……驚きました……ほぼ正解ですね。…と言ってもまだ確定情報ではないので、他の人に伝えては欲しくないのですけど」
「まぁ単純な予想だね……あまりライアちゃんとは話せてなかったけど、そこまで性急に動くタイプじゃないと思ったから、ある意味ライアちゃんに惚れこんでいる俺だから気が付いたって感じだね!」
「あははは……」
何やら、自分の予想が合っていた事にご満悦なのか、ドヤ顔でこちらを見て来る。
「一応、この事は皆には黙っておくよ……ただちょっとだけお願いがあるんだけどいいかな?」
「お願いですか?」
自分の言い当てた情報を黙っておく代わりに口止め料として何かを請求したかったらしいコルドーは、茶目っ気たっぷりのウインクを一つしながら口を開く。
「ダンジョンに行ってる間、出来ればツインテ―ルで過ごしてくれないか?」
「………はぁぁ……」
先程まで、すごい考察力と直感に感心していたライアは、結局の所ツインテ―ルの為の布石でしかないのかと、疲れたため息を漏らすのだった。
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