~閑話、帝国スパイ後編~








「はぁむ……うぅ~ん……味は悪くないな?」



「味の評論などは別にいいだろう……それで?話とは一体なんだ?」



店長の料理が出されて程無く、恐らく呼び出された側である白衣の男性が痺れを切らしたかのように本題に移ろうと話題を振る。




「たまに、市民の食事でも味わってみようかと思ったが……貴方には先に話した方が良いでしょうな」



ぽっちゃり男性は言葉を溜めながら、勿体ぶるように発言をする。




「……ダルダバは健在のようです」



「なっ!?」



(うっそやろ!?めちゃくちゃド本題やん!!)



余りにも自分の知り得る情報とマッチし過ぎた情報に、ライアは思わず表情に出そうになり、すぐさま誰もいない壁の方に向かって、顔をバッと動かす。



「???」



その変な挙動に、唯一店長が不思議そうな顔でこちらを見ていたそうだが、特に騒いだり不信感を持たれたりはしなかった。




「……ダルダバには秘薬も持たせていたのだぞ?」



「情報は確かですよ……おかげで、我々の作戦も振り出しに戻りましたな」



「……くっ!せめて、フェンベルトの奴がしくじっていなければッ!!」



「……あまり具体的な名は出さないようにお願いしますよ……ただでさえ我々の立場は面倒な位置付けなのですから」



(……はぁ~ん?もしかしてこの人達、実は帝国の中で疎まれてる、もしくは立場の悪い状況にある人か?)




この2人は多分、フェンベルト子爵事件の関係者なのは間違いない。



恐らくフェンベルト子爵と裏で繋がっていた帝国の貴族が、この2人のどちらかなのだろう。



であるならば、奴隷の仕入れや王国での貴重な情報源であったフェンベルト子爵の失墜したあの事件は帝国側の責任者であるこの2人が責を負う事になったと仮定する。



王国は、帝国よりも国土は大きく、数百年前から睨み合いを続けている云わば宿敵国。



そんな大国の大切な情報源を失ったとすれば、かなりの信頼を失った可能性は高い。




だとしたら、この2人がこの一般市民用の【ラウル亭】を貸し切って、ここで話をしているのは、帝国の貴族ご用達なお店が使えないとかではないだろうか?



そう言ったお店は、どこぞの貴族の息がかかっていたり、チップと称した賄賂の値段次第で情報を渡したりもする場所もある物だ。




一応貴族として、位が高い者の情報はいくらお金を積まれようとも、信頼を糧にしている店側は情報は売らないだろうが、没落とまでは言わなくとも、かなり評判を落とした貴族の情報は簡単に売り買いされる可能性がある。




だから、多少喋っている内容を聞かれても、隣の国の名前や詳しい情報を持たない大衆食堂で密談する方が、情報漏れのリスクが無いと踏んでここに来ているのかも知れない。




もちろん、これらはただの妄想と予想の産物だが、少なくとも矛盾は少ないと思うし、仮に違っていたとしても特に困る事は無いので、ひとまずその過程で考えてみる。





「……しかし、事前に集めていた情報だと、奴ら王国秘薬黒の巨人に対応する手立ては無かったはず」



「……何か、私達の知らない何かがあったのでしょう」



「くそっ!サルども王国め!大人しく我らの奴隷属国となればいい物を!」



「落ち着いてくだされ……今は何よりも情報が必要。そこで一つ提案があるのです」




「ん?」



ぽっちゃりの男性が、ニヤついた顔をさらにあくどく表情を歪めて、名案とでも言うように言葉を放つ。




「あの忌まわしき事件フェンベルト事件の少し前に、あの火竜の山付近でダンジョンが見つかったらしいと連絡が来ていたでしょう?…王国にはダンジョンを発見した者にその周辺の土地を与え、領地として開拓村を開くらしいのですよ」



「それがどうしたというのだ?」



「つまり、今王国で2年程の出来てるかもわからない開拓村が存在していて、そこは一番近い街や村でも1月は掛かる程遠い場所らしく、救援にはすぐに来れない……そこの住民を奴隷として狩れば、王国の情報もきっちり聞き出せ、ついでに奴隷も集まる」



「!!!……なるほど……わかった!すぐに兵を集めさせよう!」




貴族2人が、もうすでに興奮からか声を抑えずに、恐らく一般市民に聞かせてはならない発言を公然としている事を忘れて、すぐに動き出そうと護衛の兵士達を集め始める。



ちなみに、話の内容がかなり危ない物だと理解しだした店長達は厨房に隠れたり、まるで聞こえてないよと言わんばかりに使っていないテーブルを拭いたりして誤魔化してはいたが、恐らく全員記憶に留めているのは確かだろう。



そして、壁を向いたまま2人の話を聞いていたライアはと言えば…。




(いやいや~…思いっきりヒンメルの町の事ですやん……えぇ…ここ数年の事件の殆どの黒幕がわかってしまって動揺が隠せないんだけど……壁に顔を向けたまま振り返れないんだけど!)




もうすでにこの店のスタッフの事を忘れている貴族達は、もうすでに店を出ようとしているが、まともにお見送りしているスタッフは誰もいない。




(……はぁ……この情報をアーノルド王子に伝えるのは必ずとして……よりによって、ヒンメルの町を襲いに来るんかい…)



ライアは疲れたようなため息を漏らしながら、何とかいつも通りの営業スマイルを浮かべて、店から出て行く人達の後ろ姿に目線を向ける。




ありがとうございまし完膚なきまでに倒すた~」




自分の大切な人達を奴隷にしようなんて考えるクズにライアの堪忍袋の緒が切れていたらしく、お見送りに浮かべている営業スマイルには確かに殺気と呼べる物が含まれていたが、それに気が付く者はいなかったという。














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