アンファング国立騎士学校【4】










「……はぁ…ゼヌア君、これは面接なのだぞ?大人しく元の場所に戻りたまえ……インクリース子爵の元に行きたいのであれば、正規の方法で選んでもらえるように努力をしなさい」



「むむ……アンデルセン校長ッ!ワッチを呼ぶ時はシグレと呼んで欲しいぞ?……しかしてアンデルセン校長の言う事も一理あり……しからばッ!インクリース子爵様……いやッ!!主君に選ばれるように努めようではないかッ!!とぉうッッ!!」




ステージの上から飛び降りるようにライアの元に来た女性は、ウィリアムの言葉に納得したのか色々とツッコミ所のあるセリフを吐きながら、まるでアクロバティックのようにステージの上へと飛び戻って行く。



(……ウィリアム様の呆れた表情を見るに、あの女性騎士は恐らくいつもあんな感じなのかな…?って言うかまだ正式に騎士団入りした訳じゃないんだから主君呼びは早いんだけど……)



ライアはあまりの衝撃に、ほんの少し惚けてしまったが、ある意味しょうがない事であろう。



しかし、これで一応はライアの所に来たいという騎士が居なかった場合の想定は要らなくはなったので、ライア的にはかなり気が楽にはなった。



……まぁ最悪の事態は回避出来たとはいえ、もし仮にあの女性騎士以外の人がヒンメルの町について来てくれなかった場合は、あの人をヒンメルの町の騎士団団長に任命しなくてはならないので、出来れば他にも来てくれる人が居て欲しい所なので、面接には依然力を入れたい所だ。




「えっと……それじゃぁ質問を続けますね?」



「む?あ、あぁ」




ウィリアムも我が校の恥を晒したとでも考えていたのか、若干ため息を吐いていたが、ライアの言葉で気を取り直し、しっかりと正面を向き、ライアへ返事を返す。




「それじゃぁ…――――」





そこからは特に問題という問題がある訳でもなく、騎士としての対応やヒンメルの町に来た時にしてもらう事、それに明言自体はしなかったが帝国との戦争をどのように捉えているのかと言った質問をしていき、如何にも仕事内容に納得がいっていない者や戦争自体を『ある訳ない』と軽んじ、質問の意味を正確に捉えられなかった者を除外していき、大体30人程まで騎士団候補を選んでいった。




もちろん最初に子爵だからと良い顔をしなかった数人も当然仕事内容に不満を抱えているようだったので、除外はさせてもらったのは言うまでは無いだろう。











―――――――――――

―――――――――

―――――――










「この者達32人でよろしいか?……先程のインクリース子爵の条件の通り、選ばれた騎士達の中に辞退を選ぶ者がいればさらに人数が減るだろうが……」




「構いません。寧ろいきなりあんなことを言って申し訳ありません……今までの習慣というか決まりなんかもあったでしょうし、色々と迷惑をかけてすいません……」




騎士達との面接を終わらせた後、先程の応接室に戻って来たライア達は、ウィリアムに渡された騎士達の名簿に面接で【採用】とした者達の名前に印をつけるように言われ、32名の騎士達を選んだ。



本来であれば、ここで選ばれた騎士達に拒否権などは無いのだが、ライアの一言で騎士団入りを拒否する事は容認されている(ちなみに複数の貴族から選ばれている騎士だった場合はもちろん拒否権を持つ)。



その事でウィリアムには要らぬ面倒をかけてしまった部分もあるだろうとライアが謝れば、ウィリアムは特に気にしていない様子で「問題ない」と言ってくれた。




「騎士とは本来国に準ずる者だが、この騎士学校の生徒達の殆どはまだ経験の少ない者達が多い……自分の未来への選択肢を与えてくれただけで、感謝こそすれ迷惑には思わんよ」



「そう言ってくれると助かります……」



「しかし、先程も言ったが、もし仮に殆どの騎士が拒否をしてしまえばどうするのだ?ゼヌア君は異様にインクリース子爵の事を気に入っていたが、他の者達もそうだとは限らんぞ?」




ウィリアムの懸念は最もだし、ライア自身も懸念していた事だ。




「……一応ゼヌアさんは来てくれる事は多分信用出来ますし、最悪ゼヌアさん1人だったとしても騎士団設立は可能なので、入団拒否される方はそのままで構いません」




「……つまりゼヌア君が騎士団長……?何ともため息が漏れそうな心境になるな……」




「あ、あははは……」




やはりあのお転婆ぶり?はいつもの通りらしく、ワンチャンライアへのアピールとしてはっちゃけてしまっていたという線はどうやら無いらしい。




「……まぁその時はその時で頑張らせてもらいます」



「ボクはあの子結構好きそうだったのですよ?」



「……リネット……いや、仲良くできそうなのであれば何も言うまい……」




アイゼルはツッコむ元気が無かったのか、それとも友人の少ない娘が『結構好き』と言えるだけの女性が増えただけでも喜ばしいと思考を放棄したのかはわからなかった。











それからはウィリアムが選ばれた騎士達の考えを確かめる為に部屋を出て行って大体30分くらい経った頃であろうか?



何やら応接室の近くで騒ぎの様な声が聞こえて来る。




『インクリース子爵!!インクリース子爵は何処だッッ!!!私以外に女性をはべらせようと多くの女性騎士を呼び込むとはなんと下劣ッッ!!!このベルベット・ハング・ツィンガネが成敗してくれようッッ!!!』





(……騎士学校には濃いキャラしかいないのかッ!?)




廊下から聞こえて来る厄介な叫び声にため息とともに顔を覆うライアなのであった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る