空の旅~出立~
二日後。ヒンメルの街の飛行船発着場(建造広場)には大勢の人達が集まっていた。
飛行船の飛び立つ所を何度も見たいと見学に来る者、飛行船という大型の乗り物に流通関連で興味を見出す商人達。そしてライア含め、今回の王都への遠征に同行する乗員が約31名。
「おっそら!おっそら!おっそらの旅~!」
「ほらプエリ?あんまり興奮して先に行かないでね?」
「おほぉ!すげぇ!ホントにあたしが乗っていいんだよね!?」
「「楽しみ!」」
飛行船に乗り込む際にプエリとクストをはじめ、スロンやアル姉妹は間近で見る巨大な飛行船に興奮冷めやらぬと言った感じのようだ。
クストの方はプエリの興奮具合を見てある程度落ち着いているようだが、目は期待の色で輝いているし、連れてきてよかったとライアは安堵の気持ちになる。
ちなみに今回王都に向かう遠征メンバーの内訳だが、この間言ったライア組と称される11人に加え、バンボ達【働きアリハウスマン】の従業員が15人とヒンメルの街で商会を立ち上げたいと名乗りを上げた商人が3人、それにツェーンのパトロンであるカルデルとその補佐の人で2人の計30人が遠征メンバーである。
バンボ達は王都の方で少し細々とした仕事があるらしく、それを片付けておきたいのだとか。
そして3人の商人達に関しては、今後のヒンメルの街での流通関係で役に立ってもらいたいと言った下心ありきで飛行船への乗船を許可した。(他にも乗船希望の商人は結構いたが、比較的まともそうな3人だけを選んだ)
で、最後にカルデル達なのだが、基本この人達が動くのはツェーン関連の事だけな訳で…。
「さぁ!次のライブ告知も盛大に行いますよ!まだツェーンちゃんの事を知らない人達に真の世界を知らしめる為に!!」
「はい!プロデューサー!!」
飛行船に意気揚々と乗り込んで行くカルデル達は、ツェーンの布教活動の一環で王都に向かうのである。
(……てかカルデルさん、あの補佐の人にプロデューサー呼びされてるの…?)
カルデルは何処に向かっているのか、最近ますますわからなくなってきたように感じるライアであった。
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『それでは乗船の皆様、まもなく飛行船【飛竜】が飛行状態に移りますので、揺れにお気を付けください』
操縦室から船内に声を送る魔道具を使い、それぞれの客室に向かわれた乗員達に注意喚起を送る。
現在、飛行船に乗り込んだ人達はライア組を除き、全て操縦室への出入りを禁止させてもらっている。
別に操縦室を見られた所で隠す様な物などは無いし、触れられて危険な物もそれほど多くは無いのだが、こういうのは風情であったり、後の事などを考えれば関係者以外立ち入り禁止のエリアなどはきちんと区分けして作った方が問題なども少ないだろうとの考えだ。
……これは例えばだが、もし今後、飛行船開発の中で武装関連の研究などが行われ、飛行船に武装を施すと一般人に見られると困る場合があるだろう。
それに前世ではよく聞くハイジャック事件……この世界では馴染みがないかも知れないが、飛行船を操る操縦室へフリーパスで入れる環境のままでは、いずれそんな問題が発生するかも知れない。
そんなわけで、初飛行式の時は例外として、基本操縦室への出入りは立ち入り禁止に指定した訳である。
「……発進」
ライアが注意喚起を発信してから数十秒後、飛行船の周りで危険などが無いのを確認してから飛行船を出発させる。
「「おぉぉぉ!」」
操縦室にはライアを抜いてリネットとセラ、それにパテル親子の5人しかいないが、子供組の2人が大きな歓声を上げる。(後の5人は客室の具合やら飛行船の中を探検しに行くらしく、今はこの場にはいない。)
「……ホントに…このような大きな物が飛ぶんだな……」
「ふふーん、驚いた?」
「……あぁ…素直にすごいと感じる……」
ライアの言葉にパテルは嫌味など全く含まない賞賛の言葉を口にする。
ライア自身自分達の成果である飛行船を褒められるのは嬉しいので、誇らしい気持ちで胸を張る。
「よし!それじゃぁ最初の目的地であるリールトンの街へ出発です!」
「「「「おぉぉ!!」」」」
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――――――
―――ガチャン…
「ライア君、順調そうかい?」
「お疲れ様ですモンドさん。はい、こっちは大丈夫ですよ」
飛行船をリールトンの街に向け出発させて約5時間程経った頃、飛行船で機能している魔道具の確認に行っていたモンドが操縦室に戻ってくる。
「……さすがに子供達の興味も他に移ってしまったのかな?」
「あははは!まぁ5時間もあまり変わらない空の風景を見てたら飽きは来るでしょうね……プエリちゃん達は先程自分達の客室に向かいましたけど、多分飛行船の内部の探検にでも行くんじゃないですかね?」
「この飛行船の内部はかなり広い造りだからね、設計者の一人として思う存分楽しんでもらいたいよ」
飛行船の内部は主に客室部分が占めているとはいえ、他にも訓練場や地上を見渡せるテラス、それに現在は稼働していないがテナント通りとアミューズメント施設などが設けられている。
(…まぁアミューズメント施設が稼働し始めれば、カジノ的な物も導入予定だし、お子様方は入場制限をかけるつもりだが…)
この世界にもギャンブルはあるらしいが、王都やある程度大きな街でないとやってはいないらしく、余りメジャーな物ではないが、モンド曰く飛行船のメインの利用客になりそうな富裕層には大変人気のコンテンツらしいので、導入を決定したのだ。
「私は魔道具の確認も終わったし、する事が無くなってね…よかったら飛行船の操縦を代わろうかと思ってね」
「いいんですか?元々数日おきにお願いする話でしたけど……」
ちなみにだが、飛行船の操縦自体はとても簡単な物で上昇と下降のスイッチ以外に進みたい方向に重力を発生させるレバーが一つ付いているだけなので、基本的に誰でも操縦は可能である。
一応船体の向きを変える用の操作レバーも存在するのだが、操作を誤れば飛行船が逆立ちしてしまうような事も可能な為、基本は操作出来ないようにロックをかけている。
そしてメイン動力の魔道具にも無属性の魔石を使用し、≪魔力操作≫が使えない一般人でも大丈夫な仕様にしている為、ライア以外でも操縦方法を学べば誰でも運転できるという訳だ。
今回はライア、リネット、モンドの3人で持ち回り担当しようという事で事前に話はしていたが、どうやらモンドは暇という理由で操縦役を変わってくれるらしい。
「私は構わないよ…言ったろ?する事がなくて暇なんだ……工房の一つでも作れば研究に没頭出来たのだが…」
「それは俺達が工房に引きこもってしまうからボツにしましたからね……それじゃお願いしてもいいですか?ちょっとステータス確認と夕ご飯を食べたかったので」
そう言ってライアはモンドに操縦役を変わってもらう。
「大体何時間後に交代しますか?」
「なら事前に話していた通りライア君が明日起きた時で構わないよ」
「……わかりました。それじゃありがとうございます」
モンドに「行ってらっしゃい」と見送られながら、自分の部屋である自室へと足を進めるのであった。
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