飛竜ーワイバーンー













――――――ライアSide






『えぇ、本日は我ら全員が手掛けていた飛行船の完成を祝し、快晴である本日に皆で初飛行式を行いたいと思います』




「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」





飛行船計画が始動してあっという間の半年間。ライア達はひたすらに魔道具の製作にかかりきりではあったが、そのおかげで大工組の作業がストップするといったハプニングも起きず、ノンストップで完成までこぎつけた。



ライアがマイクの魔道具を使って演説をしている目の前には、飛行船の製作にかかわった大工や作業員、そしてその後ろにはこの飛行船の完成を今か今かと見守っていてくれた街の住民達。



そして、ライアの後ろには全長300メートルを超す超大型の飛行船が発表前の定番として、姿が見えないように布で隠されている。




『それでは早速、完成した飛行船のお披露目に移りたいと思います!我らが錬金術師の総力を挙げて計画し、【働きアリハウスマン】様所属の大工達、そして我が領地に住まう大工達やその従業員達の協力をもって完成した“飛空型魔道船舶”【飛竜ひりゅう】ですッ!!』





―――バサ……




「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」




飛行船にかけられていた布を取り除くと、全体的に白と赤の2色が風を表しているかのようなデザインで装飾された巨大な建造物が目に入る。



全長は約300メートル、縦は100メートルの奥行きも100メートルの流線型をしているのは元からの計画通り。



そして、当初の設計図と違う点は飛行船の船体の直上部分。そこに何やらでっぱりの様な部分が存在している。



……ここでわかる人もいるかもしれないが、あそこの部分は行ってしまえば操縦席兼【重力】の魔石を使った魔道具の心臓部である。



まぁ簡単に言ってしまえば、当初の飛行船は流線型を取る事で風の影響を最小限にする代わりに、船体のバランス問題があったのだが、それを解決する為にあのでっぱりの様な操縦席を拵えたのだ。



つまり、あのでっぱり部分で【重力】の魔道具を使用し、飛行船全体を“引っ張り上げながら”進むと言った方法を考えた訳である。



(まぁもちろん、あんなでっぱり部分で飛行船全体を持ち上げるなんて事をすれば、船体が引きちぎれただろうけど、船体の方にも少し出力を絞った魔道具を幾つか設置してるけどね)



そのおかげでワイバーンを乱獲する必要が増えたのはご愛敬という物だろう。









『では、早速飛行式に入りたいと思います!乗員は開発関係者達を含め、100名に制限をして行います』



ライアの言葉が言い切られると同時に、元々告知していた乗組員達が一斉に動き出し、飛行船に乗り込んで行き、今回乗る事が出来ない街の住人達はそれを羨ましそうに眺める。




本来、初飛行などは事故の可能性や離着陸の失敗などを考えて、分身体達だけで飛ばした方が安全なのだろうが、一応数日前に分身体達だけで起動できるのかは確認しているし、魔道具などの作動チェックは入念に行っている。



それに何より、恐らくこの世界で初の人類飛行実験に命の危険などを考慮して参加しないなどと冷静に判断できる人がまず存在しなかった。



バンボですら『俺は絶対乗りますよ!?乗らせてくださいよ!?』と興奮気味にライアへ詰め寄ってきたほどである。




そんな訳で、多少の危険は残る中、飛行船の有人飛行は決行される事になった。










――――――――――

――――――――

――――――








「……いざ乗ってみると、結構緊張するもんですな……」



「そんなこと言ってももう離陸するので、降りられませんよ?」




飛行船の操縦席である飛行船の一番上の部屋に付き、ライア達について来たバンボやその他大工達が、窓から見える外の風景を目の当たりにし、少しだけ臆病風に吹かれたのか、緊張の面持ちでそんな事を言い出す。



「……あぁ構いません……こんなすげぇもんを作っておいてそれに乗らないって選択肢は元より無いですから…」




バンボは覚悟が決まったのか、キリッとした顔でライアにそう返事をして来たので、あまり長引かせて折角の覚悟を台無しにするのもあれだろうと、飛行船の離陸準備を進めて行く。




『……安全ロープ…全て取り外し完了』



『周辺に人の出入りは無し』



『飛行船各所の魔道具への魔力流入……魔道具の正常起動を確認!』



「メイン動力を起動……“飛空型魔道船舶”飛竜、離陸します!」





ライアの宣言と同時に、僅かにだが飛行船全体が軽く振動すると同時に、操縦席の窓から見える風景に若干のずれが生じ始める。



「お…おぉ……おぉぉぉぉ!!」



「と、飛んでる?本当に飛んでる!?」



「すげぇよ……俺らこんなの作ってたんだぜ!?孫に自慢できらぁ!!」



「すげぇ…けど、お前孫どころか息子もいねぇし、何なら彼女すらいねぇだろ?」







操縦席から見える風景に興奮したように皆が騒ぎ始めるのをライアは何となく微笑ましく見守る。



(……確かにすごいのかもだけど、やっぱり俺は前世の記憶があるからかな……嬉しいは嬉しいけど、皆みたいにははしゃげないかも?)



ライアはそんな風に後方腕組お兄さん的な思考をしているが、飛行船が飛び立つ前の分身体達を介した安全確認的なセリフ全て、本来は必要ない物であるし、何なら分身体なのだからいちいち口に出す必要も無いので、ライアが飛行船の完成に興奮し、ノリとカッコつけであのような中二チックな事をしていたのは、周りの大工達は知らない。



ちなみにだが、リネットやモンド、セラ達やパテル親子などのライアに近しい人達は今回飛行船に搭乗しておらず、ライアが演説をしていた傍の特設の観測所的な場所で待機をしている。



本来ならリネットやモンドも飛行船に乗りたいとは思っていたのだが、2人とも【重力】の魔石を使った単体飛行を経験しているからか、今回は初飛行を地上から観察する事にしたらしい。



それと『どうせ近いうちに一度は王都へお披露目もかねて長い旅路で乗ることになるのです。優雅な空の旅はその時に堪能させてもらうのですよ』と現実的な理由もあったらしい。




「みなさん、興奮するのはいいですがもうそろそろ落ち着いてくださいね?ある一定の高さまで上昇したら、飛行船の各所で点検、確認をしてもらうんですから」



「「「「了解!!」」」」




大工達は興奮冷めやらぬ中、今現在自分達が乗っている飛行船が初飛行の実験中だという事を思い出し真剣な表情を浮かべ、確認作業をする為に飛行船の各所に向かって行くのだった。










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