~閑話、ヤヤ村に向かう道中とツェーンの躍進?の小話~
――――――ヤヤ村道中ライア観察記録
俺の名前はパテル。現在俺は、プエリとクストを救ってくれたライアという恩人に付いて、ヤヤ村に向かっている所だ。
「どぉどぉー…ここら辺が良いかな…?
今日はもう遅いし、ここで野営しようか」
馬を操っていたライアがパテルに振り返りながらそう言ってくる。
「…わかった…すまなかったな…馬の乗り方が分かんなくて…」
「大丈夫だよ~元々神樹の森で、馬は使わないんだって聞いてたし、迷惑でもないから」
俺達エルフ一族は、木々の上を素早く移動する事は出来るのだが、森を出て草原などで馬を操った事は無いので、この道中はライアに前に乗ってもらって運んでもらっていた。
「……だが、バランスのとり方が悪く、思いっきり掴んでしまった…痛めてはないか…?」
「ん?そうだったの?全然気にならなかったよ?分身体だしね!」
始めて馬に乗るのでパテルは予想以上に緊張をして、ライアの腰を強く掴んでいた自覚があったのだが、ライアは気にしないと言ってくれる。
「……そうか、助かる…」
それから俺はライアと話した後、野営に必要な薪拾いや料理を手伝いながら、アインスとは違うライアの姿を観察していた。
(…どう見ても女の子にしか見えん…この子がアインスと同一人物…一応顔の作りが似ているから、そう言われても納得できたが……髪が長く、顔の作りを少し弄るだけでここまで違うとは…)
俺はアインス達と3日間ずっと同じ家で生活したせいか、ライア…というよりもアインスのイメージの方が頭に残っている為、何とも不思議な気分だった。
「……ん?どうかした?俺の顔になんかついてる?」
「…いや、そういう訳じゃないが……一つ確認していいか?」
「いいよ?どうしたの?」
俺はライアに疑問に思ってる事を質問する。
「…アインス達と別れ、お前の姿をした…本物?の姿と言っていたが……?
…すまん、なにか喋っていてよくわからなくなった……もう単刀直入に聞くが、ライア本人の姿は今のお前の姿でいいのか?」
俺にとって、アインスの正体がライアであると言われ、女の姿の分身体が目の前にいる中、さらにその正体は男と言われたんだ。頭が追い付かない所もある。
「あぁ…えっと、この姿は本体のライアと全く同じ姿だよ?
…今の所、分身体にライア以外の名前を付けてる奴しか、顔を変えてないからね」
「…では、本当にその姿で、男なのか…?」
俺は失礼に思われるかも知れなかったが、どうしても確認しておきたかった疑問をぶつける。
「あははは!うん、ごめんね?わかりずらくて?」
「…いや、構わない…それが確認できれば装いに文句などはない…」
そうか…これで男なんだな。
「ありがと、それじゃ明日も早いし今日は休もうか?」
「……わかった、最初の夜の見張りは俺がやろう…あんたは休んでてくれ…」
俺がそう伝えると、ライアは「そう?ありがと」と言って、すぐ傍で横になり、すぐに眠りについてしまった。
「すぅ…すぅ…」
「うぅん…」
「むぐっ…」
「…男…か…」
俺は、ライアが寝入り、しばらくすると寝息を立てながら、寝心地が悪いのか分身体3人がお互いを抱きしめながら眠っている。
(…こうしてお互いを抱きしめながら寝ている姿を見ていると、どう見ても小さい女の子達にしか見えんな…)
パテルの心に、温かい何かを感じつつ、ライアの寝顔を見ながら夜が更けていく。
―――――ツェーンの躍進?
「それじゃぁツェーンちゃん!!よろしくお願いします!!!」
「えっと…はぁーいー…」
今現在、受付嬢であるはずのツェーンは、街にある憩いの場的な公園で、冒険者達やら街の住人やらに熱い目線を送られていた。
(あははー…なんでこんな目に……)
――時は少しだけ遡る事2時間前…
「ツェーンちゃん!!みんなで話し合ったんだが、皆譲らなくてね…しょうがないからトーナメント戦方式で戦ったんだよ!」
「え?…えッとぉ…いきなりどうしたんですかー?」
ツェーンが受付で座っていると、一階から上がって来た冒険者がいきなりそんなことを話し始める。
(…握手の件…そんなことになってたのか…)
ライアはツェーンとの両手を握る的なご褒美と聞いていたが、いつの間にか握手が景品になっているらしい。
「それが、ツェーンちゃんとの握手をかけて、皆で戦い合ったんだが、決着がつかなくてな…。
皆ボロボロになるまでやりあっちまうんで、もう一回話し合ったんだよ」
「えぇ…」
ツェーンの居ない所で、ツェーンの握手をかけた戦いが行われているのも初耳だったが、話を聞く限り、怪我もしているらしく、ライアは少しだけ引いてしまう。
「でだ!握手は惜しいが、今回の火竜戦に関しては、アインス達以上に活躍できたパーティは居ないって感じになったんだよ」
もしかしなくても、活躍した冒険者パーティはどこか?と聞かれれば、自分で言うのもあれだが、アインス達で間違いはないだろう。
「だから、俺達の誰かに握手をしてもらうのは間違ってるって話になったんだよ…」
「なるほどー!」
ツェーンは、握手やご褒美をしなくていいのかと安心して、少し笑顔をこぼしつつ、相槌をうつ。
「そう…だから、ツェーンちゃん…俺達みんなの為に歌を披露してくれないか!!」
「はいー!……はいー?」
「!!!ありがとうツェーンちゃん!!場所は決めてあるから、中央通りの大きい公園に来てくれれば、ステージは用意しておくから!!!」
その冒険者はツェーンの誤った返事を了解の返事と誤認し、すぐさまそう話しきると、ギルドを飛び出す様に出ていく。
「え…え?」
ツェーンは何が起きたのかよくわからず、呆然としてしまう。
――――――――――
――――――――
――――――
そして現在…
「…あははー…皆さんこんにちわぁー…」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
ギルドを出て、大通りに面している大きい公園に着くと、冒険者達がドデカいステージを用意しており、大勢の人が集まっていた。
ツェーンが来ているのを冒険者達が見つけると、あれよあれよとステージに上げられ、このような状態になっている。
「それじゃぁツェーンちゃん!!よろしくお願いします!!!」
「えっと…はぁーいー…」
ステージの上まで連れてきた冒険者の一人がそう言ってステージを離れ、ツェーン1人ステージに残される。
ライアはもうどうしようもないし、求められているのは歌だと思うので、やるだけやろうと諦めの心を持ちながら返事を返す。
(…いや、だとしてもいきなり過ぎない?ツェーンにそう伝えてきたの2時間前だよ?このステージとか絶対許可出す前に作り始めてるレベルじゃん…いや、許可も厳密には出してないけど!!)
ライアは心の中で色々と文句を垂れながら、ステージに集まった人たちを見渡す。
(えぇ…ツェーンが歌ってた時だって、殆ど冒険者しかいない、1階の酒場だったじゃん…あんな子供とか、絶対ツェーンのこと知らないでしょ…)
集まった人たちの中には、この人だかりを見て、やじ馬で集まった人たちも大勢いるだろうなと当りを付ける。
(…いいよ…見せもんでも、ここまで来ちゃったんだし、下手なもん見せてがっかりさせるよりはいいもんね!もうこんな状況“アイドル”みたいなもんでしょ!やってやるし!!)
「みなさぁーん!火竜討伐作戦やー各村々の護衛依頼お疲れ様でしたー!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
ライアは半ばやけくそになりながらも、目を光らせている子供達をガッカリさせまいと、気合を入れて話し始める。
「皆さんの頑張りを讃えて―今から歌を歌いますねー!!それじゃまずは…“ファントム”!!」
―――スゥゥ…
ステージ上に幻魔法のファントムでツェーンに似た幻影を作り出し、グループっぽく演出する。
「「「「えぇぇ!!すげぇ!増えたー」」」」
大人達もその光景には驚き、子供達も見た事ない魔法に興奮する。
一部の冒険者はアインス達が使っていた物を見ていたからか「あれって確か…」みたいな反応だったが、そんなのにかまうか!と言わんばかりに進めていく。
「それじゃ聞いてください!」
~~~♪
歌うのは元の世界の歌
楽器は無いのでアカペラで、増やした幻影は歌に合わせて踊る、物静かなライブになる
だが、それじゃ面白くないと、ライアは幻魔法も併用し、歌の歌詞に合わせた幻想的な空間を作り出し、ツェーンの世界に引き込ませる。
「~~♪……ふぅ…ありがとうございましたー!」
ツェーンが歌い終わると、皆真剣に聞いていたのか、目線をこちらに向けている。
だが、歌い終わったにもかかわらず、誰一人動きださないのはさすがに怖くなる。
「…えぇっとー…大丈夫ですかー?」
パチ…パチ…
声をかけると、遠くの方から、手を叩く音が聞こえ、それを皮切りに続々と拍手が聞こえてくる。
パチパチパチ…
パチパチパチパチパチパチ!!!
「「「「「ううぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
「ひゃっ!?」
拍手が盛大に鳴り響き渡るとツェーンの歌を聞いていた観客全員が叫び出す。
「すごい!」「すごすぎる!」「こんなの初めて見た!」そんな声が聞こえ、ライアはちゃんと成功したんだと、一安心する。
「俺、決めたぞ!!」
そんな中、ひときは大きな声をあげる男性がいて、注目を集める。
「ツェーンちゃんの歌はもっと周知されるべきだ!!俺はツェーンちゃんの為に楽団を作るぞ!!!」
「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」
その男性は身なりが良く、どこぞの商会のお金持ちなのか、いきなりそんなことを提案し、周りの大人達もそれに興奮し、声をあげる。
「え…あの…さすがにそこまでは…」
都合のいい耳なのか、ステージの上でツェーンの声は届かず、置いてけぼりになっている。
(なんか、大事になりそうになってない!?)
公園にて、本人そっちのけで大騒ぎをしている人だかりを見つめ、どうしようと悲嘆にくれるライアだった。
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