はじまりのかくにん







―――――10分後――――――



(よし…色々テンションがハイになってはいたが落ち着いた…)



色々楽しくなっていたが≪分体≫の使用による酔いも良くなってきたので、冷静に自分のスキルに対して考えてみることにする。



(…視点は別々に認識していたから目で2つの視点を見てるわけじゃなくて、脳で見てるから景色なんかはダブって見える訳じゃないのは良かったけど…それでも多分脳がまだ追いついてないんだろうなぁ)



「よし、なら一旦目を閉じてみてー…≪分体≫‼」



目を閉じ、分身体の方に意識を集中してみる。



(お、おぉ‼俺が見える‼)



今度は脳が視点酔いなどは起こさず、ひとまず安心する。

このまま分身体だけを動かす感覚を学ぶ為、頭の中で色々やってみる。



(お?意外に簡単??)



さっきの体たらくは何だ、と言いたくなるほどスムーズに動かせる…そこでライアはふと思う。何かすごく既視感があるな、と。



(あぁーこれVR機の操作に似てるんだ…)



思い出すのは前世に、ゲームや仕事場で使っていたVR機の操作が、今の分身体の動かすのに役に立っている。



(これは前世にVRという文化があった事に感謝だな)



ライアは分身体を頭の中で動かすイメージで色々動かしてみる。



(これならある程度動かせるな…となると、問題は…)



「「んっう”ん……あぁぁー」」



(あぁーやっぱりこんな感じかぁ)




やはり問題は声だ、声はVR機でも関係はない、マイクを使っても電話でも喋るのは一つだ。

別々には喋った事などない、同時に喋れる人が居るなら弟子になりたい、今すぐに。



(ひとまず同時に喋らないようには…)

「…」「あぁぁー」



(出来るな……片方だけの口を閉ざすイメージで片方づつは喋られそうだ。)



仮に同時に喋らないとダメであれば基本喋らないようにしなければいけなかったのでそれは良かった。



(そして…別々に違う事を話すのは…)



「いぃぃー」「…」



(うん…別々に別の事を喋るのは今のとこ無理そうだ…あるいはさっき村長が言ってた≪分割思考≫が手に入れば変わってくるのかな??)



まぁそれは置いておくとして、今は今できる事の確認だ。

分身体の体を動かすのは出来る、しかし今現在は本体と分身体の視点を同時に見るのは練習が要りそうだ。



ならば本体の目を閉じながら、体を動かしつつ分身体の体も動かせるかの実験だ。



「んぅー…中々に難しい…けど、出来ない訳じゃ無さそうかな…」



本体は屈伸をしながら、分身体は周りに落ちている石を拾ったり、そこら辺を移動する。



「…よし、これなら最低限の練習は出来そう‼」



ひと通り確認を終え、次は≪経験回収≫を確かめてみようと考えるが、回収する人もいないし出来ないだろ、と考え≪経験回収≫また別の機会に試すしかないと考える。

そして確認することはひとまず全部確認したと分身体を消そうとする。




「…………?」



なにかに思考が引っかかる…



(≪経験回収≫…同種族…つまり人間………あれ?分身体は?)



あくまでただの思い付きだ、実際分身体で倒した魔物の経験値は入らないとさっき聞いた。



だから経験を回収出来ないのだから意味はない。



だが≪経験回収≫のスキルの発動自体は出来るのでは??と考え少し試してみることにする。




「≪経験回収≫‼」



フォン


^^^^^^^^^^^^^^^^^^

≪個体名:ライアから経験回収の要請 Y/N≫


^^^^^^^^^^^^^^^^^^



「「おぉぉぉぉぉ‼‼」」



出来た事に驚き本体分身体ともに声を上げてしまう。

少し興奮しつつ、分身体の方に出ている半透明の了承画面で了承をする。



シュ



了承すると画面が消えてそのまま契約した状態になったのだと想定するが何とも…



(なんかゲームっぽいなこれ…)



このまま回収すると、ほんの10秒ほどの経験が手に入ると言われて、要るか?と言われても要らないが、元々分身体に経験値は溜らない、いつ回収しても同じだと思うが、一応分身体に空き地の中を走らせてみる。



(あ…コケちゃった)



分身体の操作があまり慣れていなくこけさせてしまった。

分身体から感じる痛みはかなり薄く、“こけた?”と感覚だけではわからないほどだ。



空き地を2,3周走らせた後、回収をしてみる。



「≪経験回収≫‼‼」



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

経験値

□素早さ:僅か

□防御力:僅か


経験

□右ひざの怪我



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



(ん?あれ?)



てっきり回収失敗とかそんな感じになると予想していたが、予想と少し違い驚く。



「これ…経験値って…ステータスにあった素早さと防御力か??」



先ほどのステータスカードに書いてあり、あまり注目はしていなかったがそこに攻撃力やら防御力があったのはちゃんと覚えている。



もしかしてそれを回収できる??



(それにこの右ひざの怪我って…さっきコケて怪我した所だよな??)



先ほどの転倒で分身体は右ひざを軽く擦りむいて赤くなっている。



「…これも回収することも出来るのかな?」



まだ回収できると決まったわけではない、なので素早さと防御力と一緒に怪我も回収すれば目に見えて回収できている事の証明になる。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

経験値

■素早さ:僅か

■防御力:僅か


経験

■右ひざの怪我



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




「……回収…イテッ…」



回収を宣言したとたんに右足から感じるジンジンとした痛みを確認すると、喜びがあふれてくる。



「「おぉぉ……おおおぉぉ―‼‼」」



(これは…すごい発見なのかもしれない…村長は分体に経験値は入らないと言っていたが実際には入っていたけどそれを回収出来ていなかっただけなのかもしれない…)



これは≪分体≫と≪経験回収≫を持たないと気づけない仕様なのかもしれないけど、もし自分の想像通りなら、このスキルは大当たりも大当たりなのではないかと有頂天になりそうになる。



「フフフ…っと!もう日が暮れてる‼‼…もっと≪経験回収≫を試して確認したかったけどかぁさんに怒られるし…帰ってからだな‼うん‼…解除‼」



母親という物はどの世界でも怖いもんだ、と少しこの世の心理を考えながら分身体を解除して帰路に就く。



「フフフ…フフフン‼」



自分はもしかしたら世界一幸せ者か?と思うほど機嫌よく歩く5歳児だった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る