Ⅲ 「私小説の成れの果て」


 

 わたしは夢のなかの父親トマスに「東馬」という名前を与え、叔父レイフェルに「伶」と名づけ、わたしが憧れているという設定の近所のお兄さんを「神一郎」とした。残念ながら、夢に「最重要のSF作家ジーン・ウルフ」は出てこなかった。だが、中年男性ばかりでは華がないので青年にもご登場願いたい。

 一九八四年から翌年にかけて、わたしはようやく長い「小説」というものを何編か書き上げていた。今でも自分の書いたものが本当に「小説」になっているのか悩むのだが、現在の逡巡は、当時とはまた違う次元のことであればよいと願っている。そして、わたしはこの夢を「私小説」として描きたいと野望を燃やしたりしたのだが、そうはうまくいかないのが小説というやつで、常套句通りに呻吟している。告白すれば、わたしは自分の「家」や「家族」にコンプレックスを抱いているがためにそこへすんなりとアプローチできない。翠子の親友である綾乃に怒られるに違いないが、そうとしか書けないこともある。それは、「逃げている」のとは少し違う。

 ところで。

 今さら思い出してなんだけど、マーク・トゥエインとラファティ以外は物故作家ではない(※これを書いた当時、ジーン・ウルフはご健在でした)。好き勝手に書きまくっても問題はないのだろうか? これを読んだみなさん、怒ったり訴えたりしないでくださいね。

《この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などには関係ありません》

 それからもひとつ有用な「注意」を!


 【この話に動機をさぐろうとするものは起訴されるであろう、教訓を見つけようとするものは追放されるであろう、また筋をたどろうとするものは射殺されるであろう。】

 

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