第3-2話人を見た目で判断してはいけない
二人がカウンターに向かう後ろ姿を見送って、しばらく春を感じる白い皿を
「美味しい……」
「それは良かった」
「
「あ、水島ハルトです。初めまして」
男は座ってすぐに名乗った。ハルトも
「……最近、何か変わったことはなかったか?」
黒谷はたっぷりの間の後、言いにくそうにそれだけ言った。
確かに、ある意味最近変わったことだらけなのだが、それをここで言ったところで変人扱いされるだけだろう。ハルトは不自然にならないようにそっとカウンターを確認した。
−997443。やはり大きなマイナスだ。
「……いえ。あの、ちょっと……疲れていて」
ハルトは数字がこれ以上減らないように、慎重に言葉を選んだ。昨夜母親に友人とばったり会ったと嘘をついて三点も減ったからだ。嘘ではない、とても疲れている。今日は一度死んだし、一度気を失った。心身ともにヘトヘトだった。
「そうか」
「なぁにやってんのよ」
ぎこちない二人に呆れた視線を向けながら、シルヴィアが全員分のカップを持って戻ってきた。黒谷の前に
「えぇと……」
「水島ハルト」
「ハルトくんね。よろしく」
何故か黒谷が紹介し、シルヴィアが人好きのする笑顔でにこりと笑う。釣られてハルトもへらりと笑った。
「ハルトくんは高校生なのよね?」
「はい。そうです」
「高校は楽しい?」
「まだ始まったばかりなので……」
「そうかぁ。これからなのね。いいなー高校生」
シルヴィアが
「あたしも昔は若かったのよ」
「誰でもそうだろうが」
「うっさいわね、そういうことじゃないのよ」
横で静かに
ふんわりと
「今日は高校は?」
「初登校でした」
「なるほどねー。早く終わったの?」
「いえ。五時間授業で」
「お昼ご飯美味しかった?」
「食べる前に落ちちゃったのでなんとも」
「落ちた?弁当がか?」
「いえ僕がおくじ………あ」
しまった、とハルトは思った。ポンポンと弾む会話に返事をしているうちに、つい本当のことを言ってしまったのだ。もしもハルトが容疑者なら、シルヴィアの
「……屋上から?」
途中で言葉を止めたはずなのに、黒谷は
「落ちたのか」
「あ。えーと、今のは……」
「なぜ落ちたの?」
「毛玉っ、あ、いや、その……」
「毛玉?毛玉が見えたのか?」
「なんか、たまたま……?」
「なぜ駅のトイレに?」
「羽根が……あ。なんでも、なくて……」
「羽根だと?」
二人に交互に質問されて、しどろもどろになりながらハルトは答えた。もうボロが出たどころでは無い。
「わかった。ハルト」
黒谷が真剣な声で言った。冬の空のような
「どんなに馬鹿馬鹿しく現実離れしていると思っても、それが真実ということもある。全面的に信じるから全て話せ」
でも話に天使とか出てきますよ、それでもいいんですか。と念を押したかったが、黒谷の真剣な顔を見てハルトは決意した。
昨日から本当に色んな事があったが、誰にも相談出来ずに全て一人で抱えてきたのだ。頭がおかしいと思われてもいい、とにかく誰かに聞いて欲しいという気持ちは抑えきれないほど
「実は……」
ハルトはゆっくりと、あの天使との出会いから今までの長い一日半を語り始めた。
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