酒場

長万部 三郎太

セーブしてもらう

人生はロール・プレイング。


わたしは職場のベテランとして先輩らしく振舞い、よき模範として働く。

その一方で頼られる夫として、または尊敬される父として。



ある日、仕事仲間を見送るために飲み屋へと出向いた。

新天地で一旗揚げるべく、住み慣れた街を離れる男。

彼にエールを送るため、わたしは休みを返上して馳せ参じた次第だ。


今生の別れとは言わずとも、おそらく顔を突き合わせるのは今日が最後だろう。

わたしは彼の肩を叩きこう激賞した。


「君にはこっちで培った確かな経験値がある。向こうでも必ず成功するさ。

 それに、奥さんもいっしょじゃないか。息子さんはいくつになったんだっけ」


「今年大学を出て、俺の事業を手伝うと言ってくれた。頑張れないわけがないな」


こいつなら上手くやれる。

共に戦った日々こそ短いものの、濃密な時間を過ごしたいわば戦友だ。


「今日の出来事を記録しますか?」

一部始終を見ていた店員がこう声をかける。


わたしはスマホを渡すと、デジタルデータとしてセーブしてもらうことにした。


仲間と別れたわたしは名残惜しさを感じつつも、飲み屋を後にする。

いつも出会いと別れを取り持ってくれるのがこの店だ。



お店の名前は「ルイーダの酒場」という。





(ドラクエⅢシリーズ『酒場』 おわり)

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酒場 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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