18  結婚式に出たくない〈過去〉

 姉、ミフユはコハルの結婚式当日まで、「出たくない……」と、ごねていた。

 親族は着物! と母が決めていて重荷だったのかもしれないが、つまるところ、妹の結婚式に独身の姉として出席するのが、いやだったんだと思う。


「きつくなったら途中で、洋装に着替えればいいわよ」と、母が、いいこと思いついたみたいに言うので、あわてて止めた。

「やめて。会場、レストランだから。披露宴会場みたいに親族席、うしろの席で、こっそり抜けてもわからないとかじゃない。会場、親族席から高砂席の前、通らないと会場の外に出られない。もちろん、ゲストから丸見えだよ」


 ——花嫁に続いてー。花嫁の姉、ミフユさま、お色直しで登場ですー。

 笑えるのかな?


 妹思いの姉だったら自分の病を押しても、がんばるところだが、ミフユは、そうじゃないんで。コハルの結婚が決まったことで、病状、悪化したもんで。


 だが、人前では妹思いのふりをする人だ。

 結局、ミフユは着物で過ごした。できるんである。

 それから、ゲストに新郎新婦への質問をカードに書いてもらって、無作為にコハルとコハル夫がカードを引いて質問に答える余興で、なんと、コハルはミフユのカードを引き当ててしまった。


(こういう巡り合わせなんだよなぁ)

 神さまのイジワル。

 コハルは笑顔を張り付けて乗り切った。ミフユも、やさしい姉を装っていた。家ではコハルに笑顔なんて向けてこない。あ、何か自分に得になることをさせるときだけ、笑顔だった。

 質問は何だったのか。もう忘れた。


 この日、両親はミフユのことばかり心配して、コハルは気がつくと花嫁控室で、ひとりだった。

(今までも、「コハルは大丈夫だから」というスタンスだったなぁ)



 不協和音な家族だった。

 それでも、結婚前に最後に家族として旅行に行きたいというコハルは願っていたが、ミフユの「行きたくない」の一言で、つぶされた。

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