3  脳内訓練 葬儀編〈未来〉

 家族3人には広い家族葬の通夜の間。

 そろそろ、姉がやってくる。


 来た。

 さぁ。先手必勝。今まで黙ってきた分を十倍返しする。

 夫にも息子にも今日の決意はかくしてきた。

 きっとドン引きするだろう。


 姉がコハルをみつけて、こっちへ来た。


「あら~」

 コハルはワントーン高い声で迎える。


「どちらさまですか~。もしかして、妹の私物を勝手に2回も友人にあげてしまったお姉さんかしら~。今日はお元気そうで何よりです~。母が生きているときは、病院のつきそいも1回もしなかったけど、今日は父の時と同じに、大泣きする予定ですか~。あれは、今、思い出しても圧巻のパフォーマンスでした~。床によろめいて泣いて何もできないって~。おかげさまで、こちらは小さな息子まで駆り出して、父の遺影を持たせました~。生きているときの父を、何百メートルも離れていないポストに、『このハガキ、出してきて』とか、あごで使ってた人には思えなかった~」


 なおも辛気臭く、姉が泣きはじめれば。


「お姉さん、言ってたじゃない。重陽の節句の菊の花を食べると運気があがるわよ。あとは、ビバルディの『四季』を聴くのも、おすすめ。どっちも、父に『買ってこい。すぐに買ってこい』って困らせたわよね~。あら、やだ、私ったら。母の通夜なのに、父のことばかり思い出して」

 一息置く。そして、なめらかに続ける。


「それか、妹にいやがらせをするのも、おすすめ。すっきりするわよ~。私には妹がいないから、できなくって残念。さ。お母さんにお別れを言ってあげて。私の約束は、お姉さんがらみで、ぜーんぶ、やぶったお母さんだから、お姉さんが来てくれて、よろこんでるわ~」


 ちーん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る