子どもの頃住んでいた家がほぼお化け屋敷だった

龍輪樹

団地での話①黒い人とエレベーター

 幼稚園児だった時の話。


 私は13階建の団地の4階に住んでいた。

 落ち着きのない子どもだったので、エレベーターでじっとしているよりも階段を駆け上がる方が楽しくて、普段エレベーターを使うことはほぼ無かった。


 ある日いつもの様に階段を昇ろうとしたら、2階の手前に妙な人が座っていることに気がついた。

 顔も体も真っ黒で、更には全身から黒い煙のようなものが立ち上っている様にも見えた。

 ちょうど当時見たばかりの、トトロのまっくろくろすけに似ているな、と思った記憶がある。


 何となく近寄るのが怖い気がして、その日はエレベーターで家に帰ることにした。



 降りてきたエレベーターには誰も乗っていなかった。

 4階のボタンを押して動き出し、そのままぼんやりドアの方を見ていたら、ドォン!!!と凄い音がして、いきなりエレベーターが止まった。

 何が起きたかわからない。

 半ばパニックになって立ちすくんでいたら、もう一度ドォン!!!と鳴って、ドアが内側に揺れた。


 ドアの向こうから、何かが体当たりしている。


 そんな筈はない、エレベーターは筒状のトンネルみたいなものを上下してるんであって、こんな、助走をつけて体当たりしてくる様な、そんなものがいる筈がない。そんなことが出来るわけない。


 子どもの頭でもそれはわかってるんだけど、その「ドォン!!!!」は続いている。ドアが目に見えてわかるほど、ひしゃげて揺れている。


 そして数回目の「ドォン!!!!」の後、エレベーターの灯りが消えた。

 周りが真っ暗になって、その時やっと悲鳴をあげたと思う。


 ほとんど声にならない悲鳴をあげてすぐ、ドアが開いた。

 明るい夏の日が差し込む団地の廊下が見える。

 転げるようにエレベーターを出ると、そこはまだ2階だった。


 階段の方に走ろうとして、さっきの黒い人を思い出した。


 共用階段は2つある。さっきとは違う階段に行かなくちゃ。

 あれが原因かはわからないけど、もう絶対あれに会いたくなかった。

 脇目も振らず、もう一つの階段の方に走って、そのまま4階まで駆け上がり、家に帰った。


 少しホッとしてドアを閉めようとした時、黒い煙みたいなものが見えた気がした。

 ドアのすぐ向こうにあれがいる。

 全速力で家の奥に逃げ込み、ベランダにいた母に抱きついた。


 母にもう少し静かにしなさいと叱られたけれど、普段から落ち着きがない私には日常のことだったから、異常には気づかれなかった。


 今でもエレベーターが怖い。

 階段も、途中で曲がって先が見えないタイプは、一番外周に寄って先を確認しながらでないと、怖い。


 この黒いものに似たものに、これ以降も何度か遭遇した。

 それはまた改めて聞いてほしい。

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