赤ちゃんの頃の記憶を覚えてる! それって嘘?本当?

エテルナ(旧おむすびころりん丸)

赤ちゃんの頃の記憶を覚えてる! それって嘘?本当?

皆さんは幼い頃の記憶を覚えていますか?

筆者は大体、幼稚園くらいからの記憶がうっすらと残ってます。

しかし人によっては胎児の時、つまり母親のお腹にいた時の記憶を残しているそうです。これを胎内記憶と言いますが、産婦人科の池川明先生によると、およそ3人に1の割合で、胎内記憶を残しているというアンケート結果が得られました。


なぜ赤ん坊の時の記憶を無くしてしまうかというと、脳は生まれて間もない頃には未だ成長途中であり、複雑な脳組織ができあがっていないそうです。

未成熟ゆえに不安定な記憶であり、成長とともに失われていく傾向が強くなるそうです。

また、赤ん坊は1歳半ごろまでに言葉を話しはじめます。つまり言語は徐々に記憶している訳で、まったく何も覚えていない訳ではないですが、しかし複雑な言語の組み合わせで構築するエピソード記憶ができない為に、記憶が固着されにくい傾向もあると言えるでしょう。

これらの理由でほぼ全員、3歳未満の記憶は失われると言われています。


……ほぼ全員。

アンケート結果は3人に1人。

いやいや、割と覚えている人いるじゃんよ。


おや? おかしな矛盾が発生しますね?

とはいえアンケートの件については、子供を対象としたものである為、成長と共に失われていくという面を考えれば、これから消えていくのだろうと納得できるかもしれません。

しかし実際には、子供たちの証言する記憶の大半は偽りである可能性が高いです。

子供も、そして今でも覚えているという大人も含め、現実には起きていないことを語っているのです。


これには事後情報効果という心理が由来します。

下記はその実験の内容です。


・少年に小さい頃の出来事を書いたノートを読ませる。

・その中には4つの出来事が書かれている。

・その内1つは嘘の出来事が書かれている。

・少年は嘘の記憶も含め本当の記憶のように話し出した。


少年は存在しない記憶をさも事実かのように話し出します。おまけに本人は、嘘を話しているつもりは毛頭ありません。実験の後に偽りだと明かしても、それを認めない被験者まで現れました。

人はこれほど容易に、己の記憶を捏造します。


では赤ん坊の頃の記憶について。

通常の母親ならば、生まれた赤ん坊に色々と語りかけるでしょう。

たくさんの物語を聞かせてあげるでしょう。


あなたはお母さんのお腹の中から生まれたのよ。

このちっちゃな足でお母さんのお腹を蹴ってたの。

生まれた時、元気よく泣いてたわ。

ママのことをじっと見つめてたね。


赤ん坊の視力は0.01。ほぼほぼ何も見えてません。

言語も知らなければ、全ては音としてしか認識しません。

時間の概念も無ければ、時系列を組み立てられず、ストーリーを紡ぐことができません。


だというのに、その後に順序立てて話すことができるのは、事後的に与えられた情報をもとに、言語で構築し、記憶を生み出したからに過ぎません。

私の子は幼い頃の記憶を覚えている! そう感銘を受けるのも当然です。

だって、あなたが話した言葉で生まれた記憶なのだから。辻褄が合うのは当然のことなのです。


更に記憶の捏造は、己の中でより大きく世界を広げます。

絵本で読んだ内容、父親に聞いた内容、保育園や幼稚園で聞いた内容をもとにして、更に情報が付け加えらえていきます。


ママはこんなこと言ってたよ。

パパはあんなことしてたよ。


それを聞いた両親は、身に覚えがないと否定するでしょうか?

子供が繰り返し話す内に、そんなこともあったかもしれないと、大人まで記憶を捏造しはじめます。


こうなれば、もはやその記憶は事実となんら変わりありません。

己も周りも含め、その記憶を本当のものだと信じ込めば、真実がどうであれ、それは実際にあった出来事になるのです。


大人まで記憶を捏造することも、心理学の実験で明らかにされています。


・実験参加者に交通事故の映像を見せる。

・その後に、車の速度に関する質問をする。

・その際の質問の仕方を二通りに分ける

 ①どのくらいの速度でぶつかったか?

 ②どのくらいの速度で衝突したか?

・一週間後、被験者に改めて、車のフロントガラスは割れていたかどうかを質問する。(実際は割れていない)

・①の質問をしたグループに比べ、②の質問をしたグループは、割れていたという回答する被験者が2倍以上に達した。


ぶつかったと質問するより、衝突したと言った方が衝撃の強さをイメージさせ、後々の事故の記憶までをも偽造させてしまいました。

言葉一つで変わってしまう記憶の曖昧さが顕著に見て取れます。


人間は常日頃、様々なものを見聞きし体験します。

それらの経験全てを、脳が正確に記憶していると思いますか? たった一つの実験程度でも、記憶がブレてしまうというのに、毎時毎秒の刷新され続ける記憶には嘘偽りがないと、自信をもって言えますか?


人は自分を特別視しがちですが、自分だけ例外ということはありません。

あなたが確固たる自信をもつ記憶も、周囲の証言を得られる記憶でさえも、偽りである可能性が大いに含まれます。

筆者がうっすら覚えているとしている、幼少の記憶も偽りだらけかもしれません。


仮にこれが想い出であったら良いでしょう。

嘘であろうが本当であろうが、周りがそれで幸せならば、事実として受け止めて、なんら問題はありません。


しかしこれが二番目の実験のケースだったら、どうでしょう?

犯人逮捕の情報を提供する場合だったら、どうでしょう?


現状の裁判では、証言は証拠になり得ます。二転三転すると信憑性は失われますが、一貫性のある証言は証拠能力が高いです。

しかし、その証言は本当に真実なのでしょうか?

偽造の記憶であっても、本人はそれを真実だと思い込んでますから、仮に精度100%の嘘発見器が存在しても、偽りを探知できません。

おまけにストーリーまで組み立てますから、次第に一貫性まで生まれはじめます。


たった一つのフレーズを変えただけで、割れてないガラスを割ってしまう、儚い人間の記憶です。

怪しかった、不審だった、残忍だった、悪意に満ちていた。この程度の印象は、容易に生まれます。


また加害者側にしても、過度な警察の取り調べにより、存在しない罪を認める虚偽自白というものがあります。

これは苦痛に耐えかねて罪を認めてしまうという面もありますが、同時に記憶を己で生み出して、本当に罪を犯したのではないかと疑心暗鬼になってしまうケースもあるようです。

他にも、深く深く信じ込めば、付き合ってもいない人との恋愛も捏造します。重度のストーカーが相思相愛を信じるのも、こういった記憶の捏造が関与している可能性が高いです。


記憶力に自信のある方も、事後情報効果には気を付けなければなりません。

その自信が自他ともに、ありもしない罪を認めてしまう可能性があります。

とはいえ、これらの根底には想像力が起因していて、ゆえに人は存在しないストーリーを紡ぎ出し、魅力的な創作物を生み出すこともできます。


割と否定的に書かれがちな事後情報効果ですが、全ては表裏一体です。

何事も鵜呑みにせず、疑問を持ち続けることが大切な心構えだと言えるでしょう。

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