24


 昨日の希輝の発言を思い返しながら、ニコニコと自分の席に鞄を置く。

 ずっと俺を待っていたのか、やけにソワソワとした友樹が俺の元に駆けてきたから、戻らなくなった笑みを向けた。

 ご機嫌な俺を一瞬だけ不気味そうに見たけど、すぐにどうでも良くなったのか、友樹の顔もニヤニヤとした表情になる。


「紡久! 聞いてくれ。俺に彼女が出来た」

「え?」


 戻らなくなった筈の笑顔が、戸惑いで一瞬にして真顔に戻った。

 俺の予想では、友樹の運命の相手は校舎の外にいるから、高校生の間は彼女が出来ないと思っていたのに。

 確認のために友樹の左手の小指を見るも、やっぱり赤い糸の先は外に向かって揺らいでいた。


「その、彼女って……?」

「昨日帰ろうとしたら、下駄箱で話しかけられてさ」


 他校の相手ならとも思ったけど、下駄箱で話しかけられたのなら、十中八九で在校生だろう。


「俺のことがずっと好きだったんだって! また紡久にも紹介するから……」

「友樹! お前に客がきてるぞ」


 友樹を呼ぶクラスメイトの声に視線を向ければ、廊下から小柄な少女が顔を覗かせていた。

 そのふっくらとした頬は薄っすらと赤く染まっており、友樹の存在しか視界に入っていないように見える。

 俺とは何の縁もないからか、彼女の赤い糸は見えなかったけど、友樹と繋がってないことだけは確かだった。

「友樹、あの子……」

「俺の彼女だ! ごめん、ちょっと行ってくる」


 慌しく廊下へと駆けていく友樹の横顔は緩みきっていて、まるで運命の相手とであったかのような表情を浮かべていた。

 これが運命の赤い糸ではなく、ただの赤い糸だったという事実に一安心すると思っていたのに、何だか素直に喜べない自分がいて戸惑う。


「希輝に報告しないと」


 昨日一緒に帰りながら交換した連絡先に、メッセージを飛ばした。

「昼休みに例の空き教室で」というメッセージにすぐに既読がつき、「了解」という簡素な文が返ってくる。

 友樹が照れ笑いを浮かべ、不自然な距離を開けて歩いていく初々しい二人の背中を見ながら、深く溜息を吐いた。


「――というわけで、友樹に彼女ができた」

「友樹って?」

「俺の友人。あと、俺と縁が深いせいか赤い糸も見えるんだよな」


 使い慣れた空き教室で、いつもなら友樹といる時間帯に、希輝の不機嫌そうに動いた眉を見ながらパンに齧り付いた。

 友樹は出来たばかりの彼女と教室を出て行ったけど、彼女の手作り弁当を一緒に食べるのだろう。

 

「縁が深い、ねえ」

「……? なんだよ。希輝にだって友達の一人や二人……あ」


 そういえば、希輝には心を開いている人が一人もいないんだっけ。

 気を遣うように希輝を見れば、不機嫌そうな視線が返ってきて慌てて目を逸らした。

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