第121話 窮地にあって

『作戦の進捗はどうだ』


『難航しています。想定以上に強固な警戒網を敷いているようで陽動が悉く無力化されていきます』


『此処までお膳立てさせておいて何一つ仕事を熟せない……。ふん、囮程度になると考えた我々が愚かだった、所詮は帝都の外で生きる人の姿をしただけの『野蛮人』に過ぎないか』


『では作戦は』


『予備プランに切り替える』


『分かりました、投入する数は──』


『すべて投入しろ』


『は、それでは──』


『聞こえなかったか。私は全てを投入しろと命じた筈だが』


『了解、潜伏状態にある全てのП兵器を覚醒させます』


『そうだ、それでいい。所詮は『野蛮人』、放っておけばすぐに増える。突入部隊の最終確認を行え、今回の作戦は失敗を許されない重大な作戦である事を理解しろ』


『了解しました!!』


『────』


『──そうだ、アレは『野蛮人』が持つには分不相応の代物。帝都でこそアレは有効に利用される、そうするべきモノだ』

 される、そうするべきモノだ』


『アレを持ち帰れば私達は……、私は、帝都の末席に漸く加わる事が出来る。この肥溜めから漸く解放されるのだ』


『──隊長、よろしいでしょうか』


『なんだ』


『帝都からの客人が作戦に参加したいと言っているのですが』


『しつこい奴だな、何度も言うが認める事は出来ない。それに奴は所詮部外者、同行は許したが作戦への参加は認めない、とあの気狂い科学者に伝えろ。この作戦を指揮するのは私だ、帝都からの客人であろうと文句は言わせない』


『分かりました。そのように伝えます』


『それでいい。さぁ、行くぞ、我が部隊よ。野蛮人共が隠し持つ『宝』、それを在るべき場所に我々は届ける。任務を達成した暁には我が部隊は栄えある帝都への栄転が確約される。この肥溜めに捨てられた我々が掴んだ千載一遇の機会である。諸君、全身全霊を懸け作戦を遂行せよ!!』


『Ураааааааа!!!!』






 ◆






 其処には笑い声があった、驚く声があった。


 親を引き摺って出店まで連れて行く我が子の様子を両親は苦笑しながら見守り、また大人二人も楽しんでいた。

 商人は抜けのない目で多くの出店を覗き何か商売のタネになるモノは無いのか、あれば見つけて一稼ぎしようと頭の中で虎視眈々と考えていたが何時しか空気に呑まれ酒を片手に大きな声で歌っていた。


 老人が初めて目にする本格的な祭りに驚いている。

 そして今までの遅れを取り戻すかのように今迄コソコソと貯めていた貯蓄が凄まじい勢いで無くなるのを理解していながら楽しむことを辞められなかった。

 キャンプの彼方此方に笑顔があり、誰もが楽しみ喜んだ。

 新しい一年を迎えるための祭りとしては最高の日、掛け値なしに『新年祭』は大成功と言えただろう。


 ──だが突如鳴り響く甲高いサイレン音、その音と共に『新年祭』は中断された。


 浮かれていた雰囲気は全て霧散した。

 キャンプの住民がサイレン音に異常事態を感じ始めたと同時に何処からか爆発音が轟いた。

 それを聞いた誰もが否応なく理解させられた、キャンプで何かが起こっている事を。

 そしてキャンプの本部が置かれるビルの正面玄関では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。


「くそ! 何で撃たれても倒れない!! 奴ら痛みを感じないのか!」


「本部から命令! 人間爆弾の脚を潰せときた!」


「拳銃で動き続ける相手に出来る訳が無いだろ!」


「口を動かす前に手を動かせ! 銃を撃ち続けろ! さもないと殺されるのは俺達の方だ!」


 本部正面玄関に構築されたバリケードに隠れながら武装職員達は銃撃を行いながら襲撃を仕掛けてきた相手を観察していた。

 それで判明したのは現在本部に押し寄せている敵は2つのグループ。

 一つ目はマフィアや共産党の破壊工作員らしき外部の人間、二つ目のグループは怪しい足取りで本部に近付いてくる人間爆弾と化した住民達に分かれている事が判明した。

 隠し持っていた銃器で攻撃をする破壊工作員は今回の『新年祭』に参加できるよう身形を整えてきたらしく一見した限りでは外部から来た参加者にしか見えない。

 そして全ての陽動が失敗に終わった事を知らないのか無謀にも潜伏していた工作員を全て動員して纏まった数を揃えると本部に銃撃を仕掛けてきたのだ。

 とは言っても怪しまずに持ち込める銃器は拳銃かよくてサブマシンガン、数だけを頼りに攻撃を仕掛けるにしても火力は貧弱であり脅威度は低い。

 彼らが幾ら怒りと憎しみに染まり明確な殺意を抱いて銃撃をしてきても制圧は時間の問題、それを理解している破壊工作員達は人間爆弾と化した住民達を矢面に立たせるという最悪な戦術を選択した。

 数は破壊工作員達に比べれば少ない、とは言え無視するには余りにも人間爆弾は危険であった。

 最初に本部の目の前で爆発した人間爆弾はキャンプの住民達ではない外部の人間であったからこそ精神的な衝撃は大きかったが見知らぬ赤の他人として処理出来た。

 だが次に来たのは。意識があるのか疑わしくなるほどの怪しい足取りで本部に近付く何処かで見知ったキャンプの住民達である。

 その正体は何時爆発するか分からない爆弾を抱えた自爆兵器であると理解しているがバリケードに隠れている職員達の引き金が重くなることは避けられなかった。


「また監視所からはさらに多くの人間爆弾が此方に接近していると報告があります!!」


「畜生、なんで、なんで目出度い日にこんな事が起こっている!!」


「顔見知りを撃ち殺したくなければ足を狙え、そうすれば運が良ければ死なない筈だ!」


 悪い知らせは重なるものである。

 今も銃撃を仕掛けてくる破壊工作員であれば容赦なく発砲して排除できるが自爆兵器と化した住人達がそれを阻む。

 その正体が自爆兵器とは理解している、それでもついこの前まで会話をしていた見知った人物を撃ち殺すのは心理的な抵抗がある。

 ならば死なせない様に住民達の脚を撃ち抜こうとするが支給された拳銃で動き続ける脚を正確に撃てる熟練者はいなかった。

 そんな職員達の事情を襲撃者達は気にも留めずに銃撃を続けながら本部に近付く。

 窮地に立たされた職員達──その多くはタチアナが推薦した元帝国軍人達──は苦渋の決断を下すしかなかった。


「あった! ゴム弾を持って来たぞ!!」


「そんなものまで此処にはあるのか!?」


「いいから使え! それはうちのボスが一から設計した物だ!!」


「それを先に言え!!」


 だが殺さずに済むのであればそれに越したことは無いのだ。

 職員の一人が何かないかと1階に集積してあった物資を漁り見つけたケース。

 それには大きく太字で『非殺傷用弾丸<試作>』と書かれており今正に人間爆弾に苦戦を強いられている職員達に必要とされる武器であった。

<試作>と書かれている様に本来は使う予定の無かった装備なのだろうが切羽詰まった状況に立たされた職員達には関係ない。

 バリケードを突破されない様に動きながら職員達はケースを開けると中には拳銃用のゴム弾が大量に入っていた。


「これは有難い。此処にいる半分はゴム弾で人間爆弾に対応、残りは銃を撃ってくる犯罪者に実弾をお見舞いしてやれ!」


 バリケードに詰めていた職員達は役割を分担する事で状況は変化した。

 人間爆弾に対してはゴム弾による銃撃で無力化し、盾を失った破壊工作員には容赦なく実弾をお見舞いして数を減らしいく。


「アアアァア!?!?」


「うわぁ……、えっぐ」


「流石ボス謹製。拳銃を当てるよりも楽だ」


「弾は足りるだろうが無駄撃ちはするな。一発で一人、確実に拘束しろ」


 特にケースの中にあった特製の散弾銃とゴム弾の組み合わせは一発で人間爆弾を無力する程の威力。

 拳銃とは違う重く大きな音を出して撃ち出された弾頭は食らった人間爆弾を勢いよく吹き飛ばし意識を一瞬で刈り取った。

 無論吹き飛ばされた事からして無傷ではないだろうが死ぬよりもマシと考えた職員達は人間爆弾と化した住民達に向ってゴム弾を情け容赦なく撃ち込んでいく。

 これにより最初は押し込まれていた正面玄関の形勢は何とか持ち直した。

 その光景を監視カメラ越しに観察していたタチアナは戦況を分析しながら襲撃者の正体に、目的に関して考えを巡らせていた。


「自殺攻撃、いや違う。彼らには死の恐怖を超えさせる信仰がない、行動、表情からして普通じゃない」


 映像から判別できる人間爆弾と化した住民達の表情は宗教、或いは信ずる神に心酔し自殺攻撃によって自らが達成する偉業に陶酔するような表情では無い。

 意識は不明瞭であり歩行も千鳥足の様な有様である事から考えらえるのは薬物か暗示、或いは両方を併用して強制行動されている可能性が非常に高い。

 自爆方法に関しては不明な点が多いが後回し、正面玄関では持ちこたえている事から優先順位は低くしても大丈夫だろう。


「キャンプの破壊工作は無力化、人間爆弾も遠からず制圧は可能。そのどちらも失敗に終わった敵はどう出る」


 ボスが用意していた武器で一番の問題であった人間爆弾も無力化。

 正面玄関で銃撃をしている破壊工作員も排除されるのは時間の問題、キャンプは一先ずの平穏を取り戻すだろう。


 ──それが望まない状況であれば、既に手持ちを使い切った敵が選択できるのは撤退か、或いは僅かな可能性に掛けて最後の勝負を仕掛けてくるか、その2つしかない。


「防衛に参加していない全ての職員は厳重な警戒を行うように。人間爆弾も無力化された敵が最後の勝負に出てくる可能性が非常に高い」


 タチアナは一連の騒動を企てた何者かが最後の勝負、──残った全戦力を投入してくる可能性に備えた。

 そしてタチアナの予想をなぞる様に監視カメラがキャンプの外から接近してくる集団を複数捉えた。


「大佐! 異様な身のこなしの集団が接近!」


「南西から近付く小集団!」


「北東からも同規模の集団が接近!」


「来たか!」


 周囲の雪景色に溶け込もうと白い装束で身体を覆っていたが職員達は誰一人として監視カメラに映る僅かな異変を見逃さなかった。

 だが乗り物を使用せず雪原を駆ける集団の速度は異常、生身の人間では到底出せない速度でキャンプに近付き周囲に設置してある障害物を一足跳びで踏破する身体能力。

 止めはミュータントからキャンプを守るために作られた防壁、着工し始めてから日が浅くともそれなりの高さがある防壁を僅かな出っ張りを足掛かりにして乗り越えたのだ。


「生身ではあり得ない身体能力。相手は身体の広範囲を改造したサイボーグ、まさか現在も稼働可能な機体があるとは!」


 監視カメラ越しの映像であっても相手が身体の大部分を改造しているサイボーグであるとタチアナは容易に判断でき、同時に驚いた。

 タチアナは目覚めてから周囲の情報収集を怠った事がなく部下を通じて集められた情報を整理統合し現在の文明レベルを正確に読み切っていたと考えていたがそれは間違いであった。

 キャンプが相手にしてきたマフィアや共産党とは一線を画す、当時のインフラや技術を失わずに継承した存在が敵になった事が明らかになったのだ


「これが本命です。1階に配置された職員は直ぐに避難、侵入してくるサイボーグに手を出さずに通しなさい。直通エレベーターは電源を切って停止」


「一階の壁に複数個所の破壊を確認、侵入経路を作られました!」


「構いません、職員は人間爆弾の対処に専念。サイボーグには小口径の弾丸など無意味なので間違っても手を出さない様に。2階から4階フロアまで配置された職員はプランAに基づき行動を開始せよ」


「命令通達、職員は人間爆弾の拘束を最優先。移動する本命は此方が受け持つ」


「3階守備隊はプランAに基づき行動。対人地雷、セントリーガンは全機起動、配備職員は殺傷兵器で迎撃!」


「4階守備隊はプランAの準備完了、対人地雷、セントリーガンは全機起動完了です」


「2階守備隊は侵入者と交戦! 対人地雷、セントリーガンが次々と破壊されていきます!」


「構いません。突破された階の職員は武装を確認後1階の応援に向かいなさい」


 監視施設の大型画面に映る映像は刻々と入れ替わり、凄まじい勢いで状況が進行していく事を言外に物語っていた。

 タチアナの申請によって最悪を想定し2階から4階フロアを全面改装して作り上げた侵入者迎撃用陣地は侵入者を慈悲の欠片も与える事無く牙を剥いた。

 対人地雷が炸裂して脚を吹き飛ばし、セントリーガンが統制された射撃に加え配置された職員が繰り出す銃撃で侵入者の身体を削る。

 如何に身体を改造し機械化したサイボーグ部隊であっても装甲を貫通できる大口径の銃撃を加えられれば対処しようが無い。

 無論、侵入者であるサイボーグ部隊も一方的にやられるばかりではない。

 持ち込んだ武装で地雷を破壊し、セントリーガンに取り付いては銃座を破壊して組み込んであった銃器を強奪する動きを見せた。

 だが最初こそ勢いよく本部まで侵入してきたサイボーグ部隊であったが2階のキルゾーンを突破するために少なくない数の仲間が倒され数を大きく減らした。

 3階に侵入した直後は同じ轍を踏まない様に持ち込んだ携帯式のバリケードを即座に展開。しかし持ち込めたバリケードの数自体が少なく身を隠せない仲間が次々と倒されていく。

 そして多くの仲間を犠牲にして踏み込んだ4階。

 だがそこもキルゾーンであると分からされた侵入者はバリケードの後ろで身体を小さく丸めるしかなかった。


「彼らの狙いはキャンプではなくボスの命だったようですが終わりです。このまま殲滅しますが問題ありませんか?」


「いや、生きた状態で捕虜を取りたい。何人か生かせるか?」


「分かりました。効果があるかは分かりませんが降伏勧告を出します。──侵入者に告げる。貴方達の企みはすべて失敗した、これ以上の抵抗は無意味である。もし降伏するなら命は保証するが抵抗すれば即座に攻撃を再開する」


 ボスであるノヴァの言葉を受けてタチアナは戦闘を一時停止させると放送設備を通じて4階にいる侵入者に降伏を呼び掛けた。

 侵入者達も戦闘の停止と同時に放送された降伏勧告を聞いてバリケードに隠れているサイボーグ部隊は奇襲を警戒しながらも恐る恐る顔を出し始めた。

 そして実際に戦闘が停止した現状を確認するとサイボーグ達の中から部隊を率いていた隊長と思われる人物がバリゲートから姿を現した。


『クソが! 貴様がノヴァだな、貴様のせいで私の部隊は半壊! どうしてくれる!!』


 だがそれは降伏を受諾する返事ではなかった。

 追い詰められた状況にあってもなおスピーカー越しでも分かる程に差別意識と傲慢さが織り交ぜられた声がスピーカーを通してフロア全体に響き渡った。


『隊長!? 落ち着いて──』


 部隊を率いる隊長以外は冷静に状況を認識出ているのか窮地でありながら吐き出された罵声に顔を青くしながらも荒ぶる隊長を何とか取り成そうとした。

 だが全ての言葉を言い切る前に口は閉ざされた、銃声が鳴り響き取り成そうとした部下の頭を隊長と思わしき男は躊躇いもなく撃ち抜いた。


『敗北主義者は我が部隊には一人もいない!! 我々は此処までコケにされて虜囚の辱めを受けるつもりはない!! 其処で待っていろ、今すぐに貴様を殴り倒して代償を──』


「マイク、代わって」


「え? あ、はい」


 四階で今も口汚く罵り続ける男を見てタチアナは攻撃再開の命令を出そうとしたがその前にマイクを横にいたノヴァに渡した

 一体何を言い出すのか、部下であるタチアナの心配を他所にノヴァは大きく息を吸い込んで空気を肺に取り込み、そしてマイクに向かって口を開く


「キャンキャン吠えるな、三下がぁ!! その錆び鉄の四肢を引き千切ってダルマにしたるわ!!」


「ボス!?」


 スピーカーによって増強されたノヴァの声が四階通り越して監視施設まで大きく響く。

 その声を聞いた侵入者も職員も呆気にとられ動きが止まるがノヴァは止まらない。


「ふざけるな! 人が下手に出れば祭りを台無しにした下手人風情が吠えやがって、代償を支払ってもらう? それはこっちのセリフだ、錆び鉄が!!」


 最早我慢の限界、堪忍袋の緒が切れたノヴァは止まれない、止まるつもりはない。

 大勢が楽しみにしていた祭りをぶち壊し、挙句の果てに住民達を訳の分からない人間爆弾に仕立て上げられたのだから。

 理性を振り切り勘所の赴くまま叫んだノヴァ、だがそれで終わりではない。


「搭乗型強化外骨格改め自立稼働防衛兵器『キメラ2号』起動!!」


 ノヴァは手元の端末を操作すると同時に四階の隅に布で覆われて配置された大きな何かが駆動音を響かせながら動き出す。

 侵入者達は駆動音に気付いた直後に装備された武器を布で覆われた何かに向けると躊躇う事無く発砲した。

 吐き出された銃弾が姿を覆い隠している布を容易く貫き、──しかしその直後に弾丸が弾かれた事を知らせる甲高い音が鳴り響いた。


『キメラ2号起動信号を受信しました。ターゲット指定完了、モード<半殺し>で戦闘を開始します』


 そして覆われて布を弾かれた弾丸が巻き込んで引き摺り下ろした事で侵入者は動き出した物の正体を漸く見る事が出来た。


『なんだ……アレは』


 スピーカーから聞こえてきた言葉通りであるなら原型となったのは人型の外骨格かそれに近い何かだったのだろう。

 だが侵入者達が目にしたものは人型からかけ離れた姿を持つ異形の大型機械。

 脚部は大質量を支えるために大型化と共に増加されて四脚となり背部からは金属製の尻尾の様な物が伸びている。

 肩部からは長大な砲身が、また幾つもの可動式アームに保持された小口径の銃器が姿を現した。

 両腕は肥大化と共に延長され五指にあたる部分には指の代わりに銃器が固定されていた。

 おおよそ一切の常識を投げ捨てた異形の兵器、それが侵入者達に身体を向けると同時に何かが発射された。


『がぁああ!?』


『なっ、バリケードごと!?』


 隊長らしき男が悲鳴を上げた仲間を見れば隠れていた携帯式バリケードを貫通されていた。そして背後に隠れていた部下の片腕が吹き飛ばされ、断面からは血ではなく潤滑油が流れ出して床を黒く染めていた。


「どうだ、俺が作った特別製の炸裂徹甲弾頭は? 防御に自信がありそうな身体の様だが見掛け倒しか? あぁぁ?」


「ちょっと!? 落ち着いてくださいボス!?」


 異形の兵器の肩から覗く砲身からは煙が昇り、新たな弾丸を装填したのか大型薬莢が排出されると甲高い音を響かせながら床を転がっていく。

 だがノヴァの攻撃はまだ始まったばかりである。

 今度は肥大化した両手が侵入者に付き出されると同時に変形、指の代わりの様に装着されていた銃器が動くと互いに連結を始め五連装銃身を持つ機関銃に姿を変える。


『散れ!!』


 危険性を本能で感じ取った隊長の言葉に従う部隊、だが行動が一拍遅れた仲間が吐き出された大量の光弾によって手足が容易く消し飛ばされた。


「脳さえ無事なら情報なんて幾らでも吸い出してやる!! 情けは不要、邪魔な手足をもいでダルマにしてから尋問してやる!!」


『クソっが!! 野蛮人風情がああぁぁぁ!!』


「野蛮人に倒される屑鉄が粋がってんじゃねぇぇぇえ!!」


「戦闘に巻き込まれない様に4階配置職員は上階に避難を!」


 ノヴァと侵入者互いに罵声を吐き出しながら戦闘は再開された。

 だが幾ら侵入者達が身体能力を活かして立ち向かおうともセントリーガンと地雷の制御を掌握した『キメラ二号』の前には成す術がなかった。

 全力稼働させた演算装置が敵対者に反撃をする暇も、逃走する隙も一切与えない攻撃を加えていく。

 逃げれば脚を吹き飛ばされ、隠れたバリケードごと身体を撃ち抜かれ、されど反撃を行っても侵入者達が持ち込んだ武装では装甲を突き破ることが出来ない。

 このままでは文字通り全滅すると確信させられた隊長は何か打開策がないかと考え──手足を吹き飛ばされたまま放置されている部下を見つけた。


『隊長、何を!?』


『黙れ! 勝つための必要な犠牲だ!』


 そう言って四肢を吹き飛ばされ起き上がらない仲間を盾の様に構えながら隊長は猛威を振るう異形の兵器に向けて走り出す。

 無論キメラ2号は男の行動を監視カメラ越しに確認出来ていた。

 だが、接近する隊長に向って銃火器の銃口を向けるもノヴァによって戦闘モード<半殺し>と設定されていたため盾とされた侵入者の身体ごと撃ち抜くことが出来なかった。

 それを理解している隊長は窮地にありながら部下の身体を盾としながら嫌らしい笑みを浮かべた。

 そして兵器に接近すると同時に懐から施設破壊用の大型爆弾を取り出し部下の身体に押し付けた。


『ぶっ壊れ──ろぉおおお?!?!』


 しかし部下を巻き込む形で爆弾を爆脱させるつもりであった隊長だが行動は中断された。

 隊長の身体を横合いから突如として伸びてきた金属製の拘束具、兵器の背面から伸びる金属製の尻尾の先端が展開して男の全身を捕らえたのだ。

 同時に盾とされた部下は別の可動式アームによって取り押さえられ爆発部を剥がされると同時に床に投げ飛ばされた。

 運良く死なずに済んだ部下は床に這いつくばり、されどそれ以上の事は何も出来ずに捕らえられ高く吊り上げられる隊長の姿を見る他なかった。


『離せ!! はな──!?!?』


 そして兵器は男を拘束したままの尻尾が振るい遠心力が乗った勢いを保持したまま床に叩きつけた。

 床が砕ける音と改造された身体の何処かが壊れる濁った音が響く。

 全身から異常を知らせる信号が隊長の脳内に鳴り響く。

 このままでは殺されると恐怖した隊長は何とか拘束から抜け出そうと何とか身体を動かし──しかし兵器に未だに意識があると知られ再び吊り上げられ地面に叩きつけられた。


『命令達成、侵入者の無力化を完了しました』


「…………四階職員は無力化した侵入者の拘束をするように。貴重な情報源です、不本意ですが可能な限り死なせない様に」


 戦闘は終了した、ノヴァの暴走によって。

 そして四階にて四肢を失い横たわる侵入者の拘束をタチアナは疲れた声で命じるのであった。

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