第15話 アンドロイドホイホイ
荒れ果てた荒野をアンドロイドが錆び付いた身体を無理やり動かして進む。
一歩踏み出す毎に関節は嫌な音を立て、錆び同士が擦れ合いフレームを削っていく。
想定された機体寿命を超えた身体はもはや動くだけで精一杯、それでも無理をして動くしかなかった。
その理由はアンドロイドが受信したデータが原因だ。
『おやおや御客さん、その機械を廃棄処分に出すのですか、ホントに棄ててしまうのですか?
もしかしたら機械の中を見ればネジが一個飛んでいるだけかもしれないのに?
え、メーカー保証が切れている?
保守パーツの生産が終わっている?
だから直せない、そんな風に諦めているお客さんはいませんか?
そんな方たちに嬉しいお知らせです!
なんと我が社の工場であれば最新の設備で壊れてしまった機械達をリーズナブルな価格でありながら迅速に修理することが可能です!
メーカー保証が切れた貴方も、保守パーツがない貴方も是非ご利用下さい!
お申し込みはミズーラタワン修理生成センターサイトから予約の申し込みをお待ちしています』
かつて連邦各地で流されていた様々なネットCM、各社が知名度を上げ、購買意欲を刺激するように作られた、それらは時に前触れもなく送られてきたものだ。
それは遠い過去の話、ネットが断絶して優に百年が過ぎた今では送られてくるデータは皆無となりネット接続機能など不要な機能と化した。
だが過去に流れていた数々のネットCM、その内の一つをアンドロイドは前触れもなく受信した。
突然の出来事にアンドロイドはまず己の電脳をセルフチェックする、ウイルスに感染して早期にワクチンプログラムを入れた筈だが、僅かに残ったウイルスが増殖して活性化したと考えたからだ。
だが調べてもウイルス感染の兆候はなく、老朽化しシステム接続異常を起こした機体パラメータが表示されるだけだ。
それで漸くこの受信したデータが本物であると理解する。
そうなると問題となるのは誰が何の目的でこのデータを送り付けたのか。
データ形式を見る限り特別なアクセスキーを必要としないタイプである為、ネット接続機能があるなら誰でも見る事が出来る。
だが気になるのは目的だけでなく、データ送信を行える設備が現存している事である。
当然のことだが過去の大戦の影響でネット環境は壊滅している、今でも現存するネットは都市に限られローカルネットと化している。
そこに接続できるものは都市生まれの者に限られ、それ以外は基本的にネットに接続される事はない。
そうである筈だが、データを受信できてしまっている以上、ネットが何らかの理由で復旧したのだろう。
そうなると一番可能性が高いのは復旧と同時にCMが機械的に流されているだけなのだろう。
そして一番あり得ないのがネットを復旧させた人なり組織がいる──そうであれば多少どころではなく、相手は相当頭のいかれている奴である。
態々崩壊したネットの一部を復旧する、それができる程の能力があればこの様な失態は起こさない、物によっては大金となるモノを見せびらかしているのだから。
──まぁ、他にやりようはあっただろうがアンドロイドには関係の無い事、そんな事をつらつらと考えながら荒野を進んで行く。
ネットが稼働している施設であれば使えるパーツがあるかもしれない、以前にメンテナンスしてから長い時間が経ってしまい機体は限界だった。
適切なメンテナンスが無ければアンドロイドと言えど壊れてしまう。
そして動けなくなったアンドロイドの末路は死である、其処に生物や機械の違いは関係ない。
未来も何も無い世界で稼働し続けるのは困難だ、満足なメンテナンスを受ける事が出来ず消耗の早い部品から順次壊れていく。
そして壊れても直す事も、交換する事も出来ない、それらを可能とする産業基盤や施設が丸ごと残っていたらそれは奇跡である。
アンドロイドも壊れたくて壊れているわけではない、直せるのであれば直したい、活動を続けていきたいのだ。
だからこそ、この送られてきたデータは貴重な修理部品を手に入れられるチャンスでもあるのだ。
◆
核融合炉の奪還からノヴァの生活は熾烈を極めた。
安全を確保したうえで核融合炉の精密調査、不具合が発見された部分の修理、運用前事前テストの実施。
全ては安定した電力を得る為、器材を運び、器材を修理し、装置を運び、装置を修理する、精魂全て燃やす勢いで取り組んだ。
そして作業開始から五日後、核融合炉の修理が完了、炉に再び火が灯った。
「あぁ、文明の光だ……」
無事な蛍光灯が供給された電力を糧に空間を照らす。
そして修理再生センターに電力を供給する事が可能となった今、施設にある大型工作機械を動かす事が出来る……ようにはなれた。
だが地下にあった核融合炉は非常用電源でしかない為、施設にある全ての工作機械を同時に稼働させる事は出来ない。
使用可能な電力は限られ、何を目的にどんな機械を稼働させるのかが重要だった。
ノヴァは最初に施設に設置されていた大型金属製3Dプリンターを修理、稼働させると施設に残されていた利用可能な資材を全て使い核融合炉の保守部品の生産を行った。
保守部品の必要量が確保できると施設にある装置を順次修理して稼働できる状態にしておく。
そして最優先で一号の身体を新たに作成する。
元々が修理再生センターの運用維持用のアンドロイドであるため施設の維持管理の為には欠かす事が出来ない人材である。
元の機体を参考にしてノヴァが設計した機体、資源備蓄量に余裕が無い為簡素な設計をしているが業務には支障がない程度の動きは可能である。
「どうだ、久しぶりに自分の足で歩けて」
「……あぁ、動くたびに関節が軋まない、それだけの事がこれ程心地よいとは」
「取り敢えずは、その機体で我慢してくれ。資源やパーツが揃えば作り直すから」
「よかったですね一号、同じアンドロイドとしても非常に喜ばしいです。ところで私の身体は?」
「お前のも同じ機体を用意している。望んでいる性能ではないだろうが、今はこれで我慢してくれ」
「そうですか、では早速機体を交換してください。動く度にエラーメッセージが出たりはしませんでしたが、間に合わせの機体ですので動き難いのです」
そう言って二号は機体の交換作業に入る。
メンテナンスポットに入った二号のデータを端末で閲覧、蓄積されたデータの整理、電脳に異常がないかの確認をしながら考えるのは復旧した修理再生センターの運営だ。
「一号、この施設を運営していくのにアンドロイドが何体必要だ」
「最低でも十機、これでも機能を制限した現状からの試算です。今後拡張していくのであればアンドロイドは何体いても困りません」
「そうか……、そうだよな、私と一号、二号だけでは手が回らなすぎる」
今の施設の状態は人手不足による自転車操業でしかない。
運営と言っても施設の警備、清掃、資材の運搬から管理、するべき仕事は多くあり施設機能を上げていくのであれば圧倒的に人手が足りない。
解決策としては一号、二号の様に野良アンドロイドを捕獲して運用人員に変えることだ。
だが野良アンドロイドは大戦後の混乱期であれば見つけやすかったかも知れないが、あれから優に一世紀が経過しているので探し出すのはかなりの労力を必要とする。
一号、二号と出会えたこと自体が奇跡のような確率なのだ。
よって現状においてのベターは機能を制限した状態で施設を運用、少しづつ作業用自動機械を製作して省力化と自動化を構築していく事になる。
だがノヴァの計画は最初から予定通りに進むことは無かった。
「アンドロイドの集団が近付いてきている?」
「はい、ここから離れた北東方向に一つ、南西方向に二つ、どれも少人数のアンドロイドだけで構成されてます」
「えっ、何がどうしてそんな事になっているの?」
見つからないと高を括っていたアンドロイドが現れた、しかも集団で。
これは、あれかボーナスタイム?それとも今までの苦労と不運を埋め合わせる様に幸運が舞い込んできたのか。
「取り敢えず彼らを捕獲してから理由は調べればいいのでは、抵抗する機体はぶっ壊して部品取りをしましょう」
「さらっと怖い事を言わないでくれ……、だが二号の言う事にも一理ある、捕獲用の装備作るから二号と私、ポチでアンドロイドに対応する。一号は全体の監視で最悪でも施設を閉鎖、地下の核融合炉を死守するように」
「分かりました。向かわれる際はお気を付けください、どのような目的で彼らが近付いてきているのか分かってませんから安全を最優先で対処して下さい」
「了解、安心してくれ、危険と判断したら破壊に切り替える、やりたい事が沢山あるからな」
ノヴァは一号にそう告げると端末に向かい、捕獲に向けた装備の設計に入る。
プレイヤー時代に作っていた武器類があるが、その時と違い資材も施設も制限され、尚且つアンドロイドを破壊しないように捕獲するのであればゲームで作った武器では駄目だ。
破壊力や攻撃力を可能な限り落とし、捕獲能力を持たせる。
ゲームでそんな装備は無く、無いのであれば作るしかない。
それに、どんな理由かは分からないが、必死になって復旧させた此処を襲うのであれば容赦はしない、捕まえて馬車馬の如く利用してやろうとノヴァは決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます