第12話 昔の話、家族の話
『ご覧ください、この機体こそがテクノ社が長年研究し遂に開発に成功した最先端のアンドロイドです。より優れた電脳と機体性能を備えたこの機体は現在市場に出回っているアンドロイドを全て旧式に変えてしまうでしょう。従来のアンドロイドが担っていた業務だけでなく、より高度な思考が求められる──』
この日集まった多くの記者、マスコミ、資産家たち、彼らの視線を一身に受けながら私達は発表されました。
アンドロイドのシェアを一社単独で4割も占める大企業の新製品のお披露目、忍び寄る戦争の気配を感じながらもあの場所に集まった人々は連邦がまた新たな歴史を刻んだ事を素直に喜んでいました。
テクノ社製の最新アンドロイド、その先行量産型として私を含めた十機は話題に上らない日などありませんでした。
姉妹たちは順次契約が取れ次第連邦中に散らばってゆきました。
その中で私と妹は契約が取れたのが最後の方、契約先も同じであったのでよく話してました。
先行量産機である私達には感情モジュールが備わっていまして姿形は若干の差がある程度ですが性格は大きく異なっていました。
あの子は最後に作られていたので私の事をお姉様と呼んでいました、明るく元気な声で話しかけてくるだけならまだしも勢いよく抱き着いて来るのは困ったものでした。
そんなあの子と過ごしながら契約が成立するまで待ち続け、契約が取れたとの連絡が届いたとき、本当にあの子は大喜びしていました。
ですが、あの日を境に全てが変わってしまいました。
『アンドロイドの反乱』、アンドロイドによるアンドロイドの為の運動、自由と権利を求めての抗議活動。
当時のメディアがそう名付けていましたが実態は全く異なるものです。
連邦と敵対していた帝国による経済破壊と社会的混乱の発生を目的とした破壊工作が正体です。
その目論見は成功し株式市場は大混乱、経済的損害は連邦の国家予算を超え社会不安が巻き起こりました。
テクノ社も例外では無くウイルスに対してのワクチンを開発、製造機体に急ぎ投与する事で会社の信頼を取り戻そうと躍起になりました。
しかし事態の悪化に歯止めはかからず、そして、連邦中のありとあらゆる通信インフラが機能停止する日を迎えてしまいました。
そこから先は言葉に出来ないものです、暴動、略奪、放火、帝国軍が連邦内に侵入して虐殺をしているといった噂話までもあり、連邦中が混乱の極致にありました。
その中で私達も例外ではありません、迫りくる身の危険を感じて二人でテクノ社から離れざるを得ませんでした。
それから私は妹と共に連邦を彷徨う事になりました。
アンドロイドというだけで人間に襲われ、ミュータントには無力であったので逃げて隠れるしか出来ませんでした。
そんな逃避行の中でも同じく行き場の無いアンドロイド達との出会いもありました。
アンドロイド同士で助け合い、いつしかそれは集団を形成していき規模は少しずつ大きくなっていきました
ですが逃避行にも限界が来ました。
内蔵バッテリーの劣化、駆動部分の摩耗、定期的なメンテナンスを受けられ無い私を含めたアンドロイド達は常に故障を抱える様になっていきます。
機体をメンテナンスが出来ないアンドロイド達は機体能力が低下していき人にミュータントに襲われ破壊されていく事が次第に多くなっていきました。
私達もどうにかしようとしました、武器を揃え自衛が出来る様に、メンテナンス装置を探し出し修理を試みました。
ですが……、ダメでした。物も情報も何もかもが足りなかった、解決策を見出す事が出来なかったのです。
そして、あの時集団を率いていたアンドロイドの一人が言いました。
──このままでは私達は何も出来ず、何も残す事もなく、朽ちていくしかない。だから選ぼう、生贄を、選ばれた機体を糧にして延命を図るしかない。
選ばれたアンドロイドを拘束しパーツを抜き取っていく、悲鳴と罵声が響き渡りながらするのです。
この時ほど感情モジュールがある事を呪ったことはありません。
それでも何度も繰り返していけば諦め何も感じなくなっていき、気が付けば最初に生贄と言いだしたアンドロイドも三回目で選ばれてバラバラになりました。
そんな事を続けながら私達が連邦を放浪していると一体の軍用アンドロイドが加わり──更なる地獄が始まりました。
野心をもって軍用アンドロイドは無害を装って集団に入り込み、秘密裏にアンドロイド達にウイルスを流し込み機体制御を奪いました。
そうして準備を整えると感染した機体を制御下に置き集団を掌握しました。
反旗を翻した者達もいましたが集団を構成していたアンドロイドは民間用しかおらず、反抗しても軍用アンドロイドに倒されウイルスを流し込まれるだけ。
気が付けば私達は戦う事も逃げる事も出来なくなっていました。
生贄制度を知った軍用アンドロイドは私達を戦わせる事もしました、敗者を生贄にするといって。
そして私と妹に順番が回ってきてしまいました。
今迄辛い事があっても互いに支え合って生きて来た掛け替えのない家族にアレは戦えと、壊し合えと言ってきたのです。
──ふざけるな、お前が壊れろ!
私はそう言って逆らいました、ウイルスに電脳を焼かれながら、しかし支配下にあるアンドロイドにあっけなく取り押さえられました。
アレにとって私は目障りな存在でしかなく、使える部品をストックしておく程度の存在としか思っていなかったのでしょう、直ぐに私を破壊しようとしましたが妹は叫びました。
──何でもするから、お姉様を壊さないで!
ソレを聞いたアンドロイドは動きを止めると振り返りました。その顔は嗤っていてひどく悍ましいモノでした。
──今から代わりのアンドロイドを一体用意しろ。出来なければコイツを壊し、お前も壊してやろう。
その言葉に妹は応じ、集団の外へ出ていきました、そして帰っては来ませんでした。
信じられませんでした、苦しい時は互いに支え合ってきた掛け替えのない家族と思っていたのは私だけだったのか、今迄の姿は演技でしかなかったのか。
妹が私を見捨てた事がとても愉快だったアレは一際大きな声で嗤い、そして残された私の身体は引き裂かれ、バラバラにされました。
私の頭部は捨てられて、電脳が止まるまで長い時間が経ったように感じました。
ですから私は妹に問い詰めなくてはなりません、どうして見捨てたのか、どうして帰ってきてくれなかったのか、どうして、どうして……、その答え次第で私は──
◆
語られたのは悲劇だ、重く、悲しく、どうしようもないほどの激情が込められた過去がアンドロイドの口から伝えられた。
妹を深く愛しているから、掛け替えのない家族だったからこそ想いが反転して心を蝕む猛毒になってしまった。
だけど目の前のアンドロイドは一つの可能性を見落としている、それから意図的に目を背けている。
それは妹が見捨てていない可能性、大切な姉を助けようとして必死になっている最中に妨害を受けた可能性。
だがこれは可能性の話でしかない、それに今の危うい心理状態では受け止められずに今度こそ心が壊れてしまうかもしれない。
時間を置いて冷静になってから、もしくは心に余裕を取り戻してからでないと伝える事は出来ない。
「成程、お前の話は分かった。だが機体を用意する事は出来ない」
「……どうしてかしら」
「まず、私に何の利益も無い。対価に君は何を支払ってくれるんだ」
「…………」
アンドロイドは身体を得る事が出来たら、すぐにでも駆け出していくだろう。
妹を探し出し、問い詰め、想いを伝えに行く、力になってあげたいとは思う、だが無償で機体を用意できる程余裕があるわけではない。
「だが、今から話す事へ協力してくれるなら直ぐにとは言わないが機体は用意して見せよう」
「あら、頭部しかない私に貴方は何をさせたいの?」
「この町にある『修理再生センター』の掌握だ」
だからこそ条件を出す、現状では人手が足りずに延期していたが此処で彼女が協力してくれるなら可能性がある。
そして成功すれば能力を駆使して最高の機体を用意しよう、これが手を貸す条件だ。
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