第10話

 中国のバブルが弾け、俺の資産は失われた。こんなことならアメリカの株を買っておくんだったぜ、と思うも後の祭り。泣いている妻を放置し、夜逃げ。さらば、タワマン。

 段ボールを拾い、それにくるまって、夜をしのぐ。大したことじゃない。俺はまたやり直せる。生きている限り。

 ホームレス生活が三か月目に入った頃、彼女が現れた。美人とは言いがたかったが、美人ではないとも言いがたかった。あるとき彼女は、俺にこう話しかけてきた。

「大丈夫ですか」

「何が」

「色々と」

「大丈夫じゃないからホームレスしてるんだろうが」

「好きでやってる人も多いみたいですよ、聞いたところによれば」

「どうかしてんだよ、そんなやつら」

「あなたはどうかしてないというわけですか」

「ああ、俺は投資家だったからな。妻と二人でタワマンに住んでたんだぜ。どうだ、すごいだろ」

「でも今は段ボールにくるまってる」

「チャンスを待ってるんだよ、チャンスを」

「そうですか。では私がそのチャンスだとしたら、どうしますか」

「え?」

 実際、彼女はチャンスだったんだろう。それも俺にとっての最後の。俺はまだホームレスをやっている。やり直そうなんて、思わなくなった。これはこれで楽しいんだ。放っておいてくれよ。

 今でも彼女の夢を見る。目覚めると泣いている。馬鹿みたいだよな。

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