豊島区戦線 1

「ふんふんふふーん」


180cmの長身に頭には黒い2本の角がある見るからに鬼という見た目の男が鼻歌を歌っている。着ているのは黒いコートにジーンズとごく普通の物だが,そこから伺える肉体は外からも凄まじい物とわかる。それは他ならぬ五逆天授である。体はあのコンビニを出た時よりも更に凄まじくなっているが、それも当たり前だろう、なにせ天授があの店を出てからもう約一月ほどが経過しているのだから。外に出てみると天授の直感した通り世界は変わっていた。国は崩壊とはいえないまでも各地で大規模なテロが起きていてとても治安が悪い。その治安の悪さに国はまるで対応できていなかった。実際、天授自身外に出てから色々な目的でもう何人も人を殺したがその件がばれている感じもしない。正に正しく秩序が崩壊していると言ってもいい状況だった。

天授からしても望み通りの世界になったと言ってもいい。しかし,天授は未だどこか不満げな様子で天を見上げている。


「足りない、足りないんだよな〜。 もっと徹底的に壊れなきゃ意味がないんだよ。そう、もっと徹底的に秩序なんて言葉を誰も思い出さないくらいにしなきゃダメだ。」


座っているベンチで足をプラプラさせながら天授は嘆いた。そうなのだ、国も馬鹿ではない。いつまでもこの状況を放っておくわけがないのである。必ず近いうちに何か手を打ってくる。天授としてはその前に出来れば先手を打っておきたいと思っている。この国を住みやすい所に徹底的に変えるための先手を。天授はこの1ヶ月変わった世界を回った中で当面の目標をそれに決めていた。しかし現在、この1ヶ月やっていたことが一区切りついたタイミングで天授は悩んでいた。


・・・・本当に,実際のところどうしようか? この1ヶ月で目覚めた力に関してはかなりのことが分かったし、それによる力の増大や戦力の強化も順調だ。だが,どう足掻いても今のままでは国に挑むには時期尚早なんだよな。そうなると国を壊すのはまだにしろ、何かしらの後々効果的な先手を打ちたいが、さて何にしようか。


片手を額に当てがうのは天授の幼少からの癖だった。悩む時、彼は必ずこの癖が出る。この1ヶ月、天授が何をしていたかといえば,それは能力の確認と実験であった。彼はこれまで、各地で色々なものを使って自身の能力を使いこなし可能なら強化しようとしてきた。そして1ヶ月でどうにか自分が納得できる程度まで目的を達成出来たので、一旦目的を果たそうと考えたのであった。修行期間ともいえた1ヶ月の間に分かったことはいくつかある。一つは、天賦とはそれ自体で一つの力だということだ。というのも、天授は最初、自分に複数の力があったので、てっきり天賦とは能力体系の名称でありそのうちに様々な能力が宿ると考えていた。だが、この1ヶ月ひたすらに動物や植物時には人間を使って実験したところどうも違うらしいことが分かってきた。なぜわかったかと言えば、それはこの天賦という物そのものの特性が理由だ。というのも、この天賦とやらはどうやら使えば使うほどそれについての理解が自動的に深まっていくという物らしいのだ。具体的にいえばかつて絶大な痛みとともに脳内に送られた情報が増えていくといえばわかるだろうか。何にしろその便利機能によって天賦が一つの能力で天賦の名さえ唱えればどの特性も使えるということがわかったのだった。そしてもう一つは天賦と共に与えられた命題というものについての詳細だ。これは残念ながら天賦のように便利機能があるわけではなかったが、一月もあればかなりのことが分かってきた。まず,簡単にいえばこの命題とは『外付けの才能』だ。もっといえば、特定の分野に関する成長の権利とも言える。要は命題とはその内容自体やそれに関係する物全てにおいて習得することが容易になるという物だ。例えば天授で言えば命題に則して読んだ生物に関する本などはひと読みで全て頭に入ったほどである。これは天授の命題 命で遊ぼう が生物と密接に関係している物だからだろう。加えていえば、天賦とはその命題を叶えるために更に外付けされた能力だった。つまりは順番として、命題があるからそれに付随して天賦が外付けされたというのが正しい。命題と天賦に関してその概要としての知識で分かったのは現状これしかない。強化方法やら何やらまだ実験したいことは山ほどあるのだが,それよりも今はコチラをやるべきと思ったのだ。天授はあの日以来直感を大切にしていた。


天授はその後も考えに考え続けた、生来あまり頭のいい方ではないが彼なりに何かを見出そうとした。だが、いくら考えても答えは出ない。そうして、しばらくすると集中が切れてきた。そして問題を先送りにしようと考える。


・・・・まぁ、思いつきそうにないし、取り敢えず手頃な街にでも入って色々探ってから考えるよう。もしかしたら、そこで何か手がかりを掴めるかもしれんしな。


天授はそうスパッと見切りをつける。そして長時間座っていたことで寂れた腰を庇いつつベンチから立ち上がって足を進め始めた。行き先など考えない、彼は自由を愛するのだからあえて自分を縛るような真似はしない。だが,彼の直感が感性が精神がどうしようもなく血生臭い戦闘の匂いを捉えている。天授は光に群がる蛾のように無意識にそちらに向かっていった。




一つ言うとするなら、やはり類は友を呼ぶらしい。

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命で遊ぼう 廃色世界 @ryousana

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