第16話:ちひろと美桜
「えっとね。みおは本当に不器用。不器用だけど、とっても優しいってことを私は知ってる。そして、逆にこれは今まで知らなかったこと」
「みおが学校に来なくなっちゃって、それで、何度かみおの家にも行って、みおのお母さんと話した。ただ…………本当に失礼なことを言っちゃうけど、ごめんね。私、私、みおのお母さん、嫌い。みおのお母さん、みおのことを心配していていたけど、自分のことばっかり考えてたし、みおのこと、何も分かってなかった。『ご近所から恥ずかしい目で見られちゃう』とか『学校に迷惑がかかる』『親の教育が悪いって思われないか』『みおの心が弱い』『ちょっとした気の迷い』とか。私が「そんなことない、みおに会わせて下さい」ってお願いしても、全然会わせてくれなかった。みおのことを何もわかってないし、むしろ傷つけてるんじゃないかって思った。そう思ったら、すっごく悲しくて、家に帰ってたくさん泣いちゃった。それと、もっとちゃんと言い返せなかった自分が恥ずかしかった」
「だから昨日、みおの家に行ったの。会えて本当によかった。だから……だから……私、嫌い。みおのお母さん、大っ嫌い。私の大好きな友達を侮辱するな! 自分の子供だからとか関係ない。みおはすっごくいい子なんだぞ! 私の大切な、大切な友達をバカにするな…………!」
ちひろは、最後はもう言葉にならなず、ただ歯を食いしばって、手を握りしめて。下を向いてポロポロと泣いていた。
私は、目の前で俯きながら涙を流す友達に近づき、ゆっくりと抱きしめた。
ちひろは、私の腕の中で泣いている。
いや、泣いてくれた。
私が小さい頃、布団の中で泣いていたのと同じように…………。
(変わろう。私のために。そして、私を信じてくれた、ちひろのために…………)
もう一泊して月曜日は一緒に学校へ行こうとちひろから提案を受けたけど、学校に行く用意を何もしていなかったから、丁寧にお礼を伝えてちひろの家を後にした。
部屋から玄関に向かう途中、目の前にちひろと背格好がよく似た女性と出会った。
姉妹いたっけ? と思っていたら、ちひろから「うちのお母さま……じゃなかった、お母さん」と紹介された。
一瞬何がなんだかわからず、あまりの見た目の若さからちひろのお姉さんにしか見えなくて、ちひろの家の滞在中で一番驚いてしまった。
「あら、ちひろちゃん、お母さんだなんて、いつもと呼び方違うのね。あなたがみおちゃん? はじめまして。ちひろの母です。みおちゃん、ちひろちゃんがいつもお話してくれるのだけど、すごく可愛い子ね。これからもちひろちゃんと仲良くしてあげてね。ちひろちゃんは、みおちゃんのことが大好きだから。そうそう、この前も…………」
「お、お母様、その話はいいから! みお、いくよ!」
何だかものすごく慌てた様子で話を遮り、さっさと玄関に向かって行ってしまった。
本当はちひろのお母さんじゃなくて姉さんじゃないの? と考えてしまい、私はちひろのお母さんから目を離せないでいると、ちひろのお母さんは不思議そうに私の顔を見た後、とても優しい顔で笑い「大変なときは、いつでも来ていいからね」と言ってくれた。
その言葉を聞き、私ははっと我に返る。
「あ、あ、初めまして。こんにちは。風間 美桜と申します。ご挨拶が遅れてしまってすみません。急に泊まってしまってすみませんでした。ご飯もいただいちゃって、すごく美味しかったです。ありがとうございました。あと、うちの母にもお電話をしてくださったと聞きました。あ、ありがとうございました。うちの母、失礼はなかったですか?」
「ぜーんぜん。気にしなくて大丈夫。ただ、みおちゃん、これまでとっても大変だったみたいね。「いつでも来ていいよ」っていうのは本当だから。辛かったり、悲しかったり、誰かに話を聞いてほしい時は、遠慮なくちひろを頼ってうちにきてね。もちろん、私でも大丈夫よ」
「はい。ありがとうございます」
自然にお礼が伝えられた気がする。
ちひろのお母さんも巻き込んでしまって申し訳なかったけど、やさしい言葉をかけてもらって本当に嬉しかった。
「それじゃーちひろ、ありがとう」
「本当に送って行かなくて大丈夫?車だして貰うこともできるけど…………」
「大丈夫。歩きながら少し色々考えたいから」
「そっか。わかった。また何かあったらすぐに連絡してね。あと、私も連絡するから、きちんとスマホ充電して返信すること!」
「はいはい。頼りにしてます」
「へへへー」
「月曜日、迎えに行くから一緒に学校行こうね。」
「わかった。ありがとう。それじゃあね。お家の方、お手伝いの方にもよろしくお伝えください」
ぺこりとお辞儀をすると、
「心得た!」
と、腕組みをしながら胸を張るちひろをみて、ふふっと笑ってしまった。
『今から帰ります』
家に帰る道中、一応家に連絡を入れておく。
色々心の整理がついたからといって、何か状況が変わったわけじゃない。
親と距離を取る。
そう決めた以上、干渉されないようにするのが一番だと思った。
だから、帰宅の連絡もしておく。
遺伝が、どこまで影響があるのかは知らないけど、やっぱり一番身近なところにいる大人の影響はどうしても受けちゃうのかな。
ちひろは私のことを好きと言ってくれたけど、やっぱり私は私のことが嫌いだ。
自分自身の嫌だと思う部分が母親とかなり重なっているという事実。
反面教師にしようとしているが、それでも根本的な物事の考え方を含め、嫌な部分が似てしまっていると思うことが多い。
ただ、それが全て親のせいとしてしまうほど無責任になれず、それも含めて自分だということを理解しなければならない。
自分は自分。
最後の責任は自分で取らなければいけない。
(私は変わるんだ)
その時私は、青井のことで、どうしてもまだ1つ分からないことがあることを思い出した。
「青井はなんで、他の友達と一線を引いているのかな…………」
青井は友達が多い。
いつも誰かが近くにいる。
それはこれまで青井のことを見ていたからよくわかっていた。
ただ、彼女は自分のことはあまり話さないし、友達が言ったことには基本的にどんな話題にも同意する。
そこには自分の意思が無いように見え、それに対しても私はイライラしてしまっていた。
これはおそらく私しか感じていないことだと思う。
彼女から目が離せなかった自分だからこそ感じた違和感なのだろう。
そして図書室での出来事。
周りとの距離を一定以上開けるようにしている青井が、連日図書室に現れ、しかも決まって私の隣の席に座り、そして、私に自分のことが嫌いなのかを聞いてきた。
単に私に嫌いかを聞くだけなら、あんなに時間をかける必要はなかったと思う。
私は、彼女と友達になる資格はない。
ただ、彼女が……青井が何を考えてそうしているのかは、どうしても知りたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます