第11話:放課後尾行タイム②

 退屈な授業が終わって、放課後…………。

 

「うーーん。終わったー」

 

 ノビをしつつ、誰に向けるでもない言葉で自分を労う。

 さてさて…………。

 

「ひよりー。今日ひまー? ちょっと買い物いかない?」

 

 そう声をかけられ一瞬考える。

 

「ごめん。今日ちょっと用事あるんで無理かなー」

「えーまたー? 最近付き合い悪いぞー」

「ごめんごめん。次は行くから」

 

 そこまで怒っているわけでないことは理解しているけど、メンドウという気持ちが勝ってしまったことは悟られないようにする。

 「次は絶対ねー」と言われてしまい、少し憂鬱な気分になる。

 

(けど仕方ないか。適度に付き合うのも大事だし)

 

「さて、と」

 

 すでに風間さん姿は教室にないけど、なんとなく図書室にいるという自信があった。


 屋外に出るわけはないので、コートは手持ち。

 今日も読みかけていた小説を持ってきた。

 手持ちの小説が少なくなってきたので、明日は図書室で勉強でもしようかと思う。

 そしてこの週末に本屋巡りをして、お気に入りの作家の未読作品や、ジャケ買いをして読む本のストックを増やすことに決めている。

 

「失礼しまーす」

 

 図書室への入室時に挨拶をすべきなのか入り口で迷ったが、しても間違いじゃないと思い、小声でする。中学の時はどうだったか思い出すが、まったく記憶にない。

 

(そもそも本は買う派だったしな――。お! いたいた)

 

 風間さん昨日と同じ席に座っていた。席の予約制度のようなものはなかったと思うが、常連にはそれとなく決められたお馴染みの場所があるのだろう。

 風間さんも図書室の常連なのかもしれない。

 

 都合よく、昨日と同じく風間さんの隣の席も空いていたので、迷うことなく向かっていく。

 

「あの〜。ここいいですか〜」

 

「ひゃっっ!」

 

 変な声で返事をされた。人間、本当にびっくりした時は、マジで飛び上がるのだと学んだ。

 

(……また悪いことしたかな)


 からかっているのを気づかれたかもしれない。

 

「どうぞ!」

 

 まさか二日連続で来るとは思わなかったのか、面白い声を出したにもかかわらず、今日は気持ちを立て直した澄ました声で許可を出してきた。

 ただ、その様子が背筋を伸ばし、目をつむった明らかなおすましポーズと声だったので、悪いとは思ったが声には出さず笑ってしまった。

 

 私の様子に気が付いたのか、さっきのおすまし顔はどこへやら。風間さんの顔がみるみる赤くなっていく。

 

「な、なにがそんなにおかしいんですかっ?」

 

(表情がコロコロ変わって、面白い子だなぁ――)


 素直にそう思った。

 

「はー、ごめんごめん。ありがと」

 

 笑いすぎて涙目になった目をこすりながら、隣の席に座ることの許可を得たお礼を伝える。

 

「で、何がそんなにおかしいんですか!」

 

 風間さんが少し涙目になって聞いてきた。


(少し悪いことをしちゃったかも……)

 

「だって、また敬語。私とあなた。同級生。風間さん。」

 

 嘘をついた。

 

 そこが面白かったわけではない。

 これまで散々悪態をついてきて、想像の中でどんなに性格が悪い人間なのかと考えたこともあったけど、コミュニケーションスキルがちょっと特殊な、表情がとても豊かな子だったというギャップに拍子抜けし、そこが面白かったのだ。

 ただ、それは今伝えるべきことじゃないと思った。

 

「同級生だからって、敬語で話しちゃいけない理由はないじゃないですか…………ないでしょ?」

 

(自分でもおかしいと思ってたのか! 即座に修正してきたよこの子! 面白い!)

 

「確かにねー。でも、そんな人いなかったから新鮮なんだよねー。「東京とかのお嬢様学校だと違うのかな。ごきげんよう。とか?」

 

(風間さんが「ごきげんよう」み、み、見たい!)

 

 本音を言えないから咄嗟についた嘘だけど、自分でも思いもよらない言葉が出てきた。想像しただけで面白く笑ってしまう。

 

「そ、そんなこと知らないですよ。あなた、おかしいんじゃない?」

「確かにそうかもねー」

 

 これは本音だった。

 

「あ、ここ座るね。いやー、どーもどーも」

 

 これ以上話をするとボロがでる可能性もあったので、会話はこれで終了と意思を示すため着席し、今日読むために持ってきた小説を取り出した。


(満足、満足! さてさて、物語の中に…………)

 

「勉強しないの?」

 

(えっ?)

 

 今度は私が驚く番だった。

 これまで悪態しか向けられてこなかった私だったけど、今は至って普通のトーンで自然に話しかけられた。

 

「あぁ、これ? 続きが気になっちゃって」

 

 これは嘘ではない。ただ、もう少し気の利いた回答もあったと思う。

 

「それだけ? だったら、別にここじゃなくも…………わざわざ私の隣で読まなくてもいいんじゃない?」

 

『もっともだ』と思った。

 ただ、ここに来た本当の目的をこのタイミングで伝えるのは違うという気がしてしまった。

 

「いや、ここ気に入っちゃって。昨日は勉強もはかどったし……だめ?」

 

 嘘だ。

 昨日は勉強を一切していない。小説を読んでいただけ。

 この席に座り続けるための理由が欲しくて、咄嗟にまた嘘をついてしまった。

 

 彼女は自分より早く帰っていたから、本当のことはわからないだろう。

 どのタイミングで帰ったかがわからなかったので、少し苦しいのは否めないけど…………。

 

「だめ…………じゃない。それを決める権利はそもそも私にないし」

 

 なんとかなった。

 

「そっか、どーも」

 

 やっぱりこれ以上はボロが出る。

 小説に意識を戻したけど、動揺からか同じ行を2回読んでしまい、内容が頭に入ってこなかった。


(バレていないかな…………)

 

 少し不安だったが、ちらっと隣を覗くと、ものすごく集中して勉強をしている風間さんがいた。

 赤い顔はもうしておらず、正に真剣そのもの…………。

 

(……こういう顔もできるんだなぁ)

 

 今日1日だけで、風間さんの新しい一面が発見できた。

 私も落ち着きを取り戻して、物語の中に深く、深く、落ちていった。


 


 どのくらい経過しただろう。

 物語の終盤、涙が頬を伝って流れる。

 いい小説にあたると、本当に幸せになるし、このために生きているという気持ちにさえなる。

 

「なっ、泣いてる?」


 唐突に風間さんから話しかけられた。

 

「あ、ごめんごめん。結構感動的な内容で泣いちゃった。みっともないところを見られた! めんごめんご」

 

「いや別に、謝ることじゃないけど…………」

 

 本を読む時の癖で、別にどこにいようが泣く時は泣く。

 

 以前、感動シーンを電車の中で読んで思いっきり泣いて周りの人をドン引きさせてしまった。

 それ以降は電車の中では読まないようにしているけど、いいところで本を閉じなければなので、かなりストレスになる。

 

(いかん、いかん。風間さんにマズイところを見られちゃったから、今日はさっさと帰るかな…………)


 今日はこれでお終いっと、小説をカバンにしまい、帰り支度をする。

 

「風間さん、お疲れ様〜」


 一応、帰るし、先ほど話しかけられたので風間さんに声をかける。

 

「あ、はひぃ」

 

(……はひぃって。本当にこの子おもしろいな)

 

 逃げるように帰ったが、下校時刻も近づいていたので、一緒にならなくてよかったかもしれない。

 流石に帰宅のタイミングが被るのは気まずいし、何を喋っていいかわからない。


 風間さんは、昨日は気が付いたら帰宅してしまっていたが、今日はまだこの時間でもいる。

 真剣に勉強していたので、おそらくいつもは下校時間ギリギリまで勉強しているだろう。私は次から、下校時間の30分ほど前に帰ることを心がけよう。

 

(次……次かぁ)

 

 少し仲良くなれた気もするけど、風間さんは私のことが嫌いだ。

 彼女が自分の周りの人全員に絡んでいるわけではないので、それは間違っていないだろう。

 あくまでも私だけ。

 その理由を聞くために図書室に来たけど、目的が果たせない代わりに、思いがけず居心地がいい場所を見つけてしまった。

 

 そして私が居心地がいいと感じている条件に、どうやら風間さんがいることも入っている。

 これが厄介。


(私、どうかしちゃったのかな。確実に私から何か変えようとしているよね。なんで?)

 

 


「ここいいですか〜」

 

 用事が無い日は放課後図書室に行って、こう聞いてから風間さんの隣に座ることが日課となった。

 

「いちいち聞かなくっていい」

「そうなの?礼儀かと思って」


 こんなやり取りが少し心地いいとも感じている。

  

 もちろん、友達から遊びに誘われることもあったので、断ってばかりにもいかず、そこそこに付き合う。

 

 友達付き合いをある程度した方が、学校生活は何かと円滑に物事が進む。

 流されるように参加し、ただただ時間が過ぎているだけという自覚もあるけど、それでいい。

 

 別につまらないわけではない。

 ただ、あまり深い関係になってもろくなことがないから。

 友人関係なんてそのくらいの距離感でいい。


「そういえば日和、用事あるって日が多いけどどうしたの? バイトでも始めた?」


(とうとう指摘されちゃったか……なんて返そう…………)

 

「うーん。そんなとこ。でもうちのケーキ屋だけどね」

 

 咄嗟にまた嘘をついてしまった。

 ただ、図書室に通っていると言えば「なぜ?」と返ってくるだろうし、その理由を説明する方が面倒だった。

 私は図書室に友達が付いてくることをどうしても避けたいと思っている。

 

「え、そうなん? 正式にバイトになったってこと?」

「うん。いい加減ちゃんとお金頂戴って言っちゃった。そしたら、あまり高くないけど、ちゃんと時給で貰えるようになった」

「そーなんだ。でも、とか言って、実は別のバイト始めたんじゃないの?ま、まさかエッチなバイトだったり……」

「怒るよ……」

「ジョーダン、ジョーダン。本気にしないでよ」

 

 この位の関係がちょうどいい。近くもなく、遠くもなく。

 

「でもさ、日和はいいなー、バイトできて。私なんて成績下がるからってバイト禁止されてる。確かに部活やってるし、バイトもしたら確実にヤバいのは分かってるんだけどね。」

「別によくないよ。遊ぶにもなにをするにしても、何かとお金がかかるし。あまり親に負担かけたくないし」

「親の負担を考えているところがすごく偉いよ」

「そうかな」

「そうだよ。さーてと、それじゃー部活いく」

「がんばってねー」

「じゃーねー」


(偉いか………………そうかな)

 

 嘘をついたけど、家の手伝いは結構やっているし、最近はそれでとても少ないバイト代ももらっている。

 その範囲で学校生活も友達との外出も困っているということはない。

 何がしたいのか、自分でもよくわからなくなってきた………………。


「バイトしてるなんて嘘じゃん。毎日図書室にいるくせに」


 友達との会話を聞いていた風間さんが話しかけてきた。

 

「普通に話しかけてくるなんで珍しいねー。手伝いしているのは本当だし、それで少しお金もらってるから嘘じゃないし、図書室にいるんだって毎日じゃないよー。風間さんは毎日いるけどね」

「ま、毎日いちゃいけないの?」

 

(図書室にいるのに、バイトしてるってことにしたことから話しを逸らせたかな)

 

「あなた、本当は図書室にいるっていうこと、友達にバレたら気分悪くされるんじゃない? 言っちゃおうかな〜」

 

(ちっ、誤魔化せなかったか……。悪い顔しちゃって。って、意地悪な顔もかわいいな)

 

「意地悪な顔、かわいいね」

「なっ、なに…言って……ふ、ふざけてる!」

 

 顔を真っ赤にして行ってしまった。

 その様子をヒラヒラと手を振り見送るが、向こうは気づいていないだろう。

 

 正直に言えば「意地悪な顔、かわいいね」と「バラす友達いないじゃん」のどちらを言おうか迷った。

 仮にバラされたとしてもなんとかなると思っているし、それくらいの意趣返しは問題ないだろう。

 

 ただ、実際に口をついて出た言葉は自分でも少し意外だった。

 

「私ってそんな性格だったっかな。はてはて」

 

 誰に言うまでもなく、そう言って、耳まで真っ赤になってしまった自分を誤魔化すのが精一杯だった。


  

 図書室では相変わらず、小説を読むのがほとんで、たまに勉強。

 最近は図鑑を眺めるのがマイブームになっている。動物、恐竜、乗り物、鉱石、なんでもよかった。

 

 本は買う派の私も、流石に図鑑には手を出せずにいる。何せ、デカい、重い、高いの三拍子が揃っている。

 ただ図書室には、多種多様な図鑑が常備されており、気分転換をしたいときや手持ち無沙汰のときに最適だった。


 気ままに過ごして下校時間の30分前に帰る。そんな生活が続いている。おかあさんも、規則正しい時間に帰ってくるようになったと機嫌がいいので、一石二鳥だった。

 

 そして最近、風間さんが図書室に限らず、教室、廊下などで私の方を見ていることが多くなった気がする。

 目が合えば「こっち見ないで」とか言われたり、友達と話した後で「常におしゃべりしてて疲れないの?」などとちゃちゃを入れてくる。


 会話の量は少ないし、マイルドに批判してくるような内容だけど、教室でも図書室でもそんな感じなので以前より会話の量は確実に多くなっている。

 

 となると、普通は仲良くなってきていると思うけど、私の触れてほしくない部分に土足で踏み込んでくるような質問をしてくることが気がかりだった。

 

「あなた、なんで言い返さないの?」

 

 これが、今日風間さんから受けた言葉。


 昼休みに、友達から私の実家のケーキ屋と、先月隣町にオープンしたケーキ屋の内装を比較し、うちのお店の内装が少しくたびれていると指摘された。

 

 それに対して私は「そうかもねー」と返事をしたことに、風間さんは納得がいかなかったみたい。


「長く営業してれば、最近オープンしたお店と比べて多少内装が古くなったり、流行と離れるのはしょうがないじゃん。それくらい言えばいいのに、そんなことも言えないの?」


 確かに、私だってそう思ってる。

 それに内装は、季節に応じて大切に管理している小物を入れ替えて季節感を出す努力もしている。

 自己満足と言われてしまうかもしれないが、私は、また1年季節が巡ったことを実感できるこの入れ替えの作業が好きなので、友達も悪気は無かったと思うが『くたびれている』と言われた時は悲しかった。

 

 その気持ちを隠してでも、波風立たないようにしてその話題を終わらせることができたのに、それを風間さんに指摘されたことで、モヤモヤした気持ちが再燃してしまっている。

  

「なんでいつも一方的に相手の話を受け入れるだけなの?」

 

 これもそう。

 

 私は基本的に友達との会話は聞き役に徹している。

 意見を求められた時も、意識して無難なことしか言わないようにしている。


 それでいいと思っているから。


 その方が相手も、私なんかの意見に惑わされることはなく、キチンと自分の頭で判断ができると思う。

 

 風間さんのこの問いかけに対しては「いつもじゃないよ」と返したけど、彼女は「私に対しては必ず言い返してくるじゃん」と言ってきた。

 

(何も知らないくせに……)

 

 これは言えなかった。

「かーもね」と返し、曖昧に笑って終わった。


 面倒臭いことはしたくない。

 面倒臭いことは、結局面倒臭いことを招くだけだから。



 面白くもないやり取りをするようになったと思っているけど、今日も放課後は図書室に行き、小説を読んでいる。

 先日の本屋巡りで大量に購入した小説のラスト1冊。

 恋愛ものの小説だったけど変に泣かせようとする演出に冷めてしまい、売ってしまうか、可能性が低いけどラストのどんでん返しに期待するか悩んでいる。

 

「今日は勉強しなくてよかったの?」

 

 唐突に風間さんから話しかけられた。

 

「うーん。今日はこれ読むって決めてたから。気になって勉強どころじゃなかったかも。今から…………は無理か。でも、授業で少し分からない部分があったから帰ったらやるよ。うん。メンドウだけど、そこはちゃんとしないとね」

 

 別になんてことはない会話だった気がするが、やっぱり最近の風間さんは何だか、私の深い部分、触れてほしくない部分を探っているような感じがしている。

 今の質問もそう。

 私が何をしようと彼女には関係ないはずなのに。

 

 ちょっと不快な感情が出てしまったかもしれないと思い、風間さんをみると、驚いたような、ショックを受けたような顔をしている。

 

「どうした? 気分悪い?」

 

 なんであなたがそんな顔をしているのかがわからない。

 でも、みるみる顔から血の気が引いている。

 

「保健室行く?あ、もう先生帰っちゃったかな」

 

(ちょっと、どうしたどうした…………)

 

「風間さん、本気でやばそうだけど…………大丈夫?」

 

「だ、だいじょうぶ、です」

 

(全然大丈夫そうには見えないけど…………)

 

「そっか、気分悪いなら保健室いきなよ。最悪、職員室なら誰かいると思うから。あとは家族に連絡するとか」

 

(私が介抱…………そんなことをする関係じゃないか)

 

「それじゃー、私は帰ろうかな」

 

「…………うん」

 

 そう言って下を向く彼女を見ていると、なんだか押し殺していた感情が湧き上がってきた。

 

「じゃあね」

 

 風間さんがこちらを向く。

 

(そもそも、なんで私はここにいるんだっけ、なんで私はいつもこの子に言われっぱなしなの、イライラする)


 何がきっかけだったかはわからない。

 理由はわからないけど、弱っている風間さんをみて、なんだかわからないけど『今だ』と思ってしまったのかもしれない。

 

(………………もう、どうでもいいや)


「体調が悪そうなところ申し訳ないけど、1つだけ聞かせて…………風間さんって、私のこと嫌いなの?」


「えっ?」


 そこまでキツイ言い方にはなっていなかったと思う。

 これを聞こうと思い立ったときと今とでは、ずいぶん彼女との関係も変わっていると感じている。


 でももう遅い。

 もう遅いのであれば、正直になろう。


「勘違いだったらごめん。ただ…………ただ、聞いてみたかったんだ」

 

「風間さん、私に冷たいじゃん。図書室ではそうじゃなかったかもだけど。ただ、私もちょっと辛いんだ。なにか私がやっちゃたのなら謝るけど、そもそも、私のことが嫌いなのかなって」

「だから、最近ここに来てた。それを聞きたくてここに来てたんだ。ただ、なかなか言い出せなくて今になっちゃった。自分でもびっくりだったけど、この場所の居心地がよくて………………。ごめんね」

 

「えっと……………ごめんなさい」

 

「やっぱり、私のことが嫌いってこと?」

 

「いや…………」


「今度話させてください…………」

 

(今度って何? まったくわからないじゃん!)

 

 単純にそう思った。

 ただ、いきなりこんなことを言われて、風間さんも混乱しているのかもしれない。

 もし私が逆の立場だったら、適当な嘘をつくかもしれない。

 

 悪いことをしてしまったとも思う。八つ当たりだったことも認める。

 

「わかった。じゃーね」

 

 図書室を出ると、ちょうど下校時刻を告げる放送が響いた。


 

 自転車置き場から自分の自転車を持ってきて、帰路につく。

 本当にこれでよかったのだろうか、とか、明日からどうしよう、とか、思うことはたくさんある。

 ただ、不思議と後悔の気持ちだけはなかった。

  

 だけど、風間さんほど突っかかってくる人間はいなかった。私の友達に対する関わり方に疑問を持つ人はいなかった。

 

(………………そうか)

 

 私は、もう完全に取り返しのつかないタイミングで、自分の間違いに気がついた。

 私は、風間さんが私のことを嫌いなのかを聞きたかったわけじゃない。

 本当は私のことを、どう思っているかが知りたかったのだった。


 風間さんの私に対する、正直な気持ちを。

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