第6話:美桜と母親
この高校に入学して世の中を知った。
中学生の頃は成績の上位に毎回入っていたが、部活もやりつつテストの数週前から必死に勉強して、それでも間に合わない場合は徹夜を何回もしていた。
その上での成績だった。
他の子がどれだけやっているのかは知らない。
ただ、あれだけ勉強したのだから、当然その苦労は報われると信じていたし、実際に結果がきちんと順位として評価されるのは嬉しかった。
でも……。
「美桜ちゃんは頭良くっていいな〜」
「美桜ちゃんは勉強できてすごいね」
などと同級生から言われたときは、褒められたというよりは、むしろバカにされた気分になった。
もちろん、彼ら彼女らにそのような意図はないのだろう。
ただ、みんなも同じようにすれば同様の結果になのにやらないということは、どこかで諦めているのだろうし甘えていると思っていた。
努力しない人は気楽でいい。だからそんなに軽い言葉がかけられるのだと思う。
私の性格がめちゃくちゃ悪いということは自覚していた。
自覚していたが、こればかりはどうしても割り切ることができず、そのように感じざるを得なかった。
そんな性格のねじ曲がった中学生活が終わり、高校に入学。早々に行われた実力テストは中学の範囲がほとんどで、勉強も今までと同じようにしたつもりだったが、順位は真ん中より下という結果だったし、まったく手につかない問題もあった。
そして、私の同級生には、それを軽々とクリアする人間がたくさんいることを知った。
その後何回か行われた定期テストでも、いつも以上に、それこそ死ぬ物狂いで勉強したがさほど順位が上がるわけでもなく、今は真ん中より少し上で落ち着いている。
このような結果でも諦めずに勉強しているのは、絶対にかなえたい目標があるから。
あと安っぽいプライド。
恐ろしく出来の良い宇宙人のような生徒が数多いる世界に紛れ込んでしまった凡人たる自分は、何としても頑張るしかない。
私が部活に入らなかったのは、こういう理由もあり勉強に集中したかったからだ。
両立できるほど器用ではなく、才能もない。
(なんだか、私の人生つまらないなぁ)
そう感じることは多かったが、それを口に出してしまうと本当にそうなってしまいそうな気がして、何とか堪えていた。
「テストも近いんだから、ボーっとしてないで勉強したら?」
「もう少ししたらするよ」
母親は何も応えないとそれはそれで機嫌を損ねるので、無難な返事をする。
帰宅後、特に理由もなくリビングで本を読んでいたことを後悔しても今更遅い。
(自分の部屋にいればよかった)
というか、本を呼んでいるのをどう見たら、ぼーっとしているように見えるのだろう。
カバンを手に、いそいそと自室に移動した。
『本は読んだ方がいい』
そもそも、そう言っていたのは母親だったと思う。
それなのに、いつからそれは重要なことじゃなくなったのだろうか。
「勉強はしっかりやりなさい」
「遊ぶのは勉強のあと」
「友達と遊びすぎじゃない?」
「何でこんな点数とったのよ」
教育熱心なタイプだと思うけど、私は母親から言うことに違和感を持っていた。
私なりにきちんとやっているのに、なぜ、そこまで執拗に言われなければならないのだろうか。
「お母さんはなんで本を読まないの?」
「お母さんは勉強できたの?」
「勉強はなんで大事なの?」
「お友達と仲良くしちゃダメなの?」
「お母さんは、昔このテスト100点だったの?」
あまりに理不尽な言われ方をしたときは、純粋に質問した。
ただ、それは完全に悪手だった。
ヒステリックになってしまい、感情的で理解不能な罵倒が返ってくるばかりで、まともな答えを貰ったことはない。
確かに可愛くない質問だったかもしれないけど、なぜ母親が、自分が出来もしないことや、重要性を説明できないことを人に押し付けるのかが本当に疑問だった。
その後も納得のいく話はしてもらえず、徐々に諦めの気持ちが強くなり、恐らく母親は『本は読んだ方がいい』『勉強はした方がいい』というそれっぽい教育の一般論を彼女なりに実行していただけなのかなと思っている。
高校入学後の成績にも彼女的に満足しているわけではないだろう。
ただ、進学校に入学したので、さすがに周りのレベルが高いということは自覚しているようで、勉強している様子さえ見せればひとまずは満足しているようだった。
受験シーズンになったらどうなってしまうのかと思うが、まだ時間的な余裕があるので、できるだけ考えないようにしている。
(こっちが納得するような理由を話して欲しかったし、何よりも感情的になるのはおかしいでしょ…………。いつもいつも会話にもならないじゃん)
あー、今日はダメな日だ。
いつもここまではイライラしないのだが、今日はだめだ。
外から見ればさほど親子仲は悪くないように見えるだろうし、おそらく母親は私との関係を良い、もしくは普通と思っているだろう。
ただ、当の娘としては母親に対しての信頼感はゼロ。
表面上は波風立てないようにしているだけで、もはや絶望的に親子関係は歪み破綻している。
「めんどくさいなぁ」
とりあえずそう言葉にすることで気持ちを切り替え、大人しく勉強をすることにする。
いくら自暴自棄になったところで宿題は減らないし何か物事がよくなるわけでもない。
こんな時は、早くやることをやって寝るに限る。
「なんて彩りのない毎日なんだろう」
これは口にしても大丈夫だろう。
まだ、なんとかがんばれる。
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