裏切り者の歌う夜 5人用台本

ちぃねぇ

第1話 裏切り者の歌う夜

ルッツ:なんだ、リー…お前も呼ばれたのか

リー:ルッツか。君も呼ばれたなんて、次の仕事はどうやら骨が折れそうだね

エル:ちょっと!リラが来てるなんて聞いてないんだけど?

リラ:あらエル、奇遇ね。私もあなたが呼ばれているなら辞退したかったわ

ルッツ:辞退なんて出来るわけないだろう。ボスからの招集なんだから

リー:それで?そのボスはまだ来ないの?

フェイ:ボスは来ませんよ

ルッツ:…フェイ!あんたも来てたのか

エル:ボスの腹心まで出てくるなんて…次のヤマやばくなーい?

リラ:それで?ボスが来ないってどういうこと?

フェイ:ボスから掃除を頼まれまして

リー:掃除?

フェイ:…裏切り者を消せと

エル:はぁ?何言ってんの?


0:フェイはゆっくりと拳銃を構えた。


ルッツ:おいおい、何の真似だ

フェイ:先日、アジトの一つが当局に割れました。取引の情報が流出したんです

リー:…ボスは、その犯人が僕らの中にいると思ってるの?

フェイ:ええ。調べたところ、その情報を知りえて…かつ、流せそうな人物はあなた方の誰かと言うことになりまして

リラ:で?怪しいから全員消しちゃおう…なんて思ってるわけ?

フェイ:まさか。そんなもったいないことしませんよ。…あなた方はスパイになりうるほど優秀なコマなんですから。被害は最小限にとどめたい

エル:ちょっと!コマとか言わないで欲しいんだけど!

ルッツ:…それで?スパイ容疑のかかった俺らを集めてどうしろと?一人一人尋問でも掛けるか

フェイ:尋問なんてまどろっこしいこと、どうして私がしなきゃいけないんです?

リー:じゃあ、どうやって裏切り者をあぶり出すのさ

フェイ:一週間前の9日、ディナータイムからの6時間…それぞれどう過ごしていたか…お聞かせ願いましょうか

ルッツ:なんで9日の夜なんだ

フェイ:情報が流れたとしたら、おそらくこの夜だという結論に達しましたので

ルッツ:ほー?9日ねぇ…

エル:プライバシーの侵害よ!

リラ:あら、そんなことを話すだけでこの茶番から解放してくれるなら、私は喜んで話すけど

エル:口の軽い女ね!ちょっとフェイ、この女すぐ歌うわよ?情報売ったのこの女なんじゃない?

リラ:ボスに疑われているのよ?それなのに調査に協力しないなんて…それこそ怪しいわ

ルッツ:調査なんて可愛いもんじゃねぇだろ。…情報売った奴、誰だ。お前らん中にいるんだろ。さっさと吐いてさっさと死ね

リー:…9日はBarで飲んでた

フェイ:それを証明できる者は

リー:ふらっと入った店だ。マスターが覚えていてくれることを願うだけだ

フェイ:店の名は?

リー:路地裏の寂れた店だ。名前は憶えていない

フェイ:なるほど?…他は

ルッツ:俺は酒場で女を口説いてたな

フェイ:誰を?

ルッツ:行きずりの売春婦だ

フェイ:場所は

ルッツ:さーな?しこたま酔ってたから覚えてねぇよ…ああ、胸のでけぇ女だったな。金髪に茶色の瞳だった

エル:そんな女、ごまんといるわよ

ルッツ:仕方ないだろう?こんなこと聞かれるってわかってたらちゃんとアリバイ作っておいたさ

リラ:私はアパートにいたわ

フェイ:証人は?

リラ:残念、その日はデートの予定が無かったの

ルッツ:ってことはアリバイ無しってわけだ

リラ:そういう事になっちゃうわね

フェイ:なるほど…それで、エルは?

エル:…あたしもアパートにいたわ

フェイ:一晩中?

エル:ええ、そうよ…

フェイ:……分かりました

ルッツ:おいおい、こんな尋問とも呼べない問答(もんどう)繰り広げて、どうする気だ

リー:埒(らち)が明かない

フェイ:いいえ…一人、疑わしいネズミが出ました

ルッツ:なに?

フェイ:…エル、あなた嘘をつきましたね

エル:えっ

フェイ:9日の夜、在宅はリラただ一人です

エル:なっ…!

フェイ:ほー?

リラ:あら、よく調べたわね

リー:…答え方を間違えたね、エル

フェイ:言い残したことがあるなら聞きましょう

ルッツ:おいおい、すぐに消しちまう気か?もったいねぇなぁ…いい身体してんのに

エル:違う…あたしじゃない…あたしボスを裏切ってなんてっ

フェイ:では…あの夜、出かけていたあなたがなぜ在宅などと?

エル:だ、だからプライバシーよ!あたしがどこで何してたってあんたたちに関係ないじゃない!

リラ:ええ、関係ないわ。そしてあなたが今から肉片になっちゃったって、私には一切関係ないわ

エル:(憎しみを込めて)リラ……!

フェイ:…エル、あの夜はどちらへ

エル:どうしても…言わなきゃいけないの…?

フェイ:これが最後です。…あの夜はどちらへ


0:フェイがエルに銃口を向ける。


エル:わかった!わかったから待って!…あたし、あの夜はモーテルにいたわ!

フェイ:どこの

エル:川沿いの…オリーブってところよ

ルッツ:モーテルってことは、男か

フェイ:相手は?

エル:…………

リー:スパイ?

エル:違う!…………ボスよ

フェイ:はい?

エル:ボスに確認してよっ!あたし、あの夜ボスに抱かれてたのっ!

エル:そもそもあたしがこんな集まりに呼ばれること自体おかしいのよ!だってっ、あたしのアリバイの証人は他ならぬボスなんだからっ…!

ルッツ:へぇ?お前ボスのお手付きかよ

リー:じゃあどうして今日ここに呼ばれたの

エル:知らないわよっ!だからさっさとボスに確認してよっ!

フェイ:では、そのボスからの伝言を伝えましょう

エル:えっ?

フェイ:「死ぬまで私とのことを喋るなと言っておいたのに、お前にはがっかりだ。さようなら」…だそうです


0:フェイがエルの頭を吹き飛ばした。


ルッツ:おいおい…撃つんなら前もって予告しろよな

リー:…血…飛んだ…

リラ:綺麗に頭、吹っ飛ばしたわね~

ルッツ:あーあ、もったいねぇ。いい乳してんのに

フェイ:惜しいならこの死体あげましょうか?好きにしていいですよ

ルッツ:ほざけ、俺は死体で遊ぶ趣味はねぇよ。…んで?俺らはボスに担がれたってことでいいのか?

フェイ:ええ。…ちょうどエルに飽きたボスが「俺のことを歌うなら殺せ」と命じてきたので

ルッツ:んだよ!ビビッて損したわ!…んじゃ俺は帰らせてもらうぜ

リー:僕も

フェイ:ええ。ご苦労様でした


0:リー、フェイ退場。


リラ:綺麗に吹き飛ばしたわねぇ…ボス、怒るかしら?

フェイ:どうでしょう?飽きてきていたのは本当ですから

リラ:でも、もう少し遊ぶつもりだったでしょう?あの人

フェイ:じゃあ消さない方がよかったですか?

リラ:まさか。…私以外の女なんて要らないでしょう?…こんなに愛してる美しい女がいるのに、どうして…よそに目を向けるのかしらね

フェイ:それこそ…どの口が言うんですか

リラ:この口よ。…いつもみたいにふさぐ?

フェイ:こんな血なまぐさい所であなたを抱けと?

リラ:ふふふっ!ボスにバレたら殺されるかしら?「あなたの愛人を撃ち殺した現場で、その犯人が、あなたの最愛を抱いた」…伝えたらどんな顔するのかしら

フェイ:やめてくださいよ…僕の胴体と頭が離れることになる

リラ:にしても…この死体、どうしましょう?あの人に「あなたと付き合ってるなんて吹聴(ふいちょう)するから処分したわ」って伝えたらいいのかしら

フェイ:アジトを歌った犯人だと言うことにしてしまいましょう

リラ:あら、スパイがいたのは本当なのね

フェイ:ええ

リラ:アバズレに裏切り者のレッテル…お似合いじゃない

フェイ:そうですね…歌えば「ボスとの約束を破った」裏切り者…沈黙を守れば「仲間を売った」裏切り者…どちらも行き先は【裏切り者】ですから

リラ:あなたには感謝してるわ。ボスとあの女の逢引きの日時を特定して、こんな茶番を演じてくれて

フェイ:これくらい…あなたの為ならなんでもないですよ

リラ:ああ、私の可愛いフェイ…あの女の汚い血なんか、さっさと洗い流して…早く私を抱いて

フェイ:ええ。マイ、ディア…


0:場面転換、路地裏にて。


ルッツ:あっぶねー!死んだと思ったわー!

リー:茶番でよかったね

ルッツ:9日!マジで終わったと思ったわ

リー:…尾行されてたら終わってたね

ルッツ:あの売春婦、ヘマしたかと思ったぜ

リー:僕も…マスターが金で動いたのかと思ったよ

ルッツ:次の取引まで、大人しくしてた方がよさそうだな

リー:目立つ行動控えないとね

ルッツ:ああ。ったく…スパイなんて割に合わねぇぜ

リー:じゃあ辞めたら?

ルッツ:やなこった。女抱くにも金が要るんだよ!

リー:ほんと、ルッツはそういうとこブレないよね

ルッツ:そういうお前は何のために危ねぇ橋渡ってんだ?

リー:ん?正義の為?

ルッツ:ぬかせ!今日付き合えよ。とことん酔わして…お前の腹ん中暴いちゃるからな!

リー:僕潰れたことないよ

ルッツ:んじゃ潰れたほうが全奢りってことで

リー:ふふ、タダ酒ご馳走様です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

裏切り者の歌う夜 5人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ