第6話 始まりの追憶 2

 絶望。

 生まれ変わってどんなに意味不明な状況でも絶望なんてしなかったけど、俺は今心の底から絶望している。

 いや、言い過ぎかな……


 順を追って説明しよう。

 魔法を教えてくれるにあたり最初にやったのは、適正のある属性を調べるという事だった。よくあるやつ。


 魔法には『火、水、風、地、雷、氷、癒』の7属性があって、誰でも全部当たり前に使えて生活の基盤になっているんだ。


 その中で個人の適正によって1つの属性に特化する。

 数値化するなら、下限は0ではなく1。適正だけが10、20と伸びていく感じ。


 例え物凄い実力者だろうがそれは変わらない。精々他の下限が5とか、ちょっと伸びる程度だ。

 あくまでイメージね。ゲームみたいに数値化なんてされてないし。



 で、何故絶望しているのかというと、俺にはその適正というのが存在しなかったからだ。

 お母さんも戸惑って何回も調べたが変わらなかった。


 それでもとりあえず基礎を教えてくれたわけだけど、最低限故にとっかかりさえ分かればすぐに使えるようになった。

 前世の影響もあって属性ってイメージしやすいしね。魔法が得意なエルフだからってのもあるのかな。


 この世界の魔法は詠唱や呪文なんてのは無い。第6の感覚として、手足の様に意思のまま扱う。

 これ以上俺がやれるのは、よりスムーズかつ高精度に操れるように練習するだけだ。

 どう足掻いても小規模のままでね……


 俺エルフだよ?

 魔法が得意な種族らしいんですけど?

 せっかくファンタジー世界に転生したのに、まともに魔法が使えないんじゃ面白くない。


 一通り属性魔法の練習が終わったところで、悔しさと悲しみを抱えて逃げるように部屋に戻ってきた。

 最低限とはいえ魔法が使えたことは純粋に嬉しいんだけどね。


 こんな例は無いらしいし、これは前世の影響で普通じゃないのかな……なんて、グスグスと鼻を鳴らしてベッドの上で膝を抱えてる。



「シア、仕方ないとは言え落ち込んでばかりいないで授業の続きよ」


 と、お母さんが来てまた魔法の授業に連れてかれた。まだ終わってなかったのね。

 多分聞いてたかもしれないけど、ショックで頭から抜け落ちてたみたいだ。


 別に興味を無くしたわけじゃないから大人しく手を引かれて行く。

 家の庭に出て授業再開。


「適正が無かったのは残念だけど、魔力には他にとても大事な使い方があるわ。さっきは分かりやすかったけど、こっちはコツを掴むまで難しいからね」


 まだちょっと引き摺ってはいるけど、気持ちを切り替えて話を聞く。


「それって属性魔法とはなんか違うの?」


「ええ、さっきは魔力を属性という其々のエネルギーに変えたでしょう? だから分かりやすく火や水を出すなんて現象が起こせる」


 そう言うと実際に火を掌に出して見せた。俺も真似してみる。

 さっきも練習してちゃんと出来てたから問題無い。


「でも今から教えるのは魔力を魔力のまま使うの。魔力は基本的に見えないから、最初はイメージが難しいのよね」


 魔力のまま……ということはもしかして属性がダメな俺でも、普通に使えるってこと?

 これは救いが見えてきた。前のめりに鼻息荒く説明を待つ。

 ワクワクが戻ってきたぞ!


「魔力を全身に漲らせて身体能力の強化、それと体を覆って身を守る魔力障壁。同じく武器とか物を魔力で覆う魔装。この3つは物凄く大事なのよ」


 強化と防御か……確かにそれは命に係わるな。

 魔物なんていう化け物が街の外をウロウロしてるんだし、身を守る術は必要だよね。魔装ってのも武器の強化って認識で良いのかな。


 もし戦うとしたら魔法をドカーンとやりたいけど、それが出来ないなら身体能力を上げて物理で行けばいいのか?

 いや、好んで戦いたいかって言われるとそんな事も無いんだけど……やっぱりこう、ね?


「身体能力の強化は文字通り体が強くなるわ。頑丈になったり力が強くなったり、感覚を鋭くすることが出来るの。だけど体に負担がかかるから、体の弱いシアにはあまり良くないかも……」


「え゛っ…!?」


 結局ダメじゃん。なんにも出来ないじゃん。

 上げて落として虐めないでよ。泣くぞ。


「あぁ、泣かないで……よしよし」


 頭を撫でられた。これ落ちつく……じゃなくて!


「とりあえず強化については明日またやりましょ。実際に使ってみなきゃどうなるか分からないからね。もしかしたら普通に使えるかもしれないし」


「ん」


 まぁたしかに。悲観するのはまだ早いよね。


「次は魔力障壁。命を守る為にこれだけは絶対に出来るようになって貰うわ。魔力を体に纏って守るの。魔力の鎧……透明な服を着る感じかなぁ……」


 なるほど、言ってみればHPの上にあるアーマーとかか。


「透明な服を着る……? なんかよくわかんない」


「魔力は基本的に見えないんだもの、感覚で知るしかないわ」


 難しい事を仰る……というかそれちゃんと防げるのか不安すぎるぞ。


「見えない物で守るって……怖いね」


「確かにそう言われると怖いけれど、やってみれば感覚で分かるとしか言えないわ……ごめんねー」


 そういって微笑むお母さんと、魔力の使い方を学び練習し始めた。


 ひとまず今日は障壁の練習。

 魔装は障壁の延長線上だから後回しで、身体強化のお試しは明日だ。

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