身長185cmの公爵令嬢は婚約破棄されたので、冒険者になって自由に人生を謳歌します!

葵彗星

第1章 高身長公爵令嬢の旅立ち

第1話 まさかの婚約破棄要請!

「ナタリー、すまないが君との婚約を破棄させてくれないか……」


 王子から大事な話があると聞いて、何事かと思っていたら信じられない一言だった。私は耳を疑った。


「えぇと、ジョージ様。今なんとおっしゃられて……」

「だから、君との婚約を破棄……したい」


 しばらく沈黙が続く。私はやっと皇太子の言葉が理解できた。


「……どうしてそのようなことを?」

「すまない。父がどうしてもということで……」

「ヴェイン陛下が? でも……そうね。元々反対なさっていたようですし」

「知っていたのか?」

「えぇ、耳に挟んでおります。なんでも私の身長が高すぎるのを、懸念されていらっしゃるようで……」

「いや……それはあくまで私見であってな。政治的にそのような理由で、婚約は破棄されるべきではないと思っている。だから僕は……」

「無理を言わなくてもよろしいのですよ。確かに私は背が高すぎますもの」


 身長185センチ、この国の女性の平均身長が160センチくらいとされているから、頭一つ分抜き出ている。


 しかもこの国では比較的珍しい黒髪だから、余計目立つ。歩いただけで、遠くからでも私だとわかってしまう。


 子供の頃から背が高かった、それが唯一のコンプレックスでもあった。でも公爵令嬢という恵まれた地位に生まれたおかげで、何一つ不自由ない生活を送れた。


 それがまさか、こんな結果を生み出すだなんて。私は俯いた。


「すまない。だけど誤解しないでほしい。僕は君が好きだ。父にも抗議したんだ、でも父は……聞き入れなかった」

「あなたは……私を愛していらっしゃるのね」

「そうだ。僕は諦めない。最悪王位継承権を捨てても君と……」

「いいえ、大丈夫です。あなたは王位を継いでください」


 私はきっぱり言い切った。


「ナタリー、そんな……僕が王位を継いだら君とは……」

「私のことはお気になさらずに。あなたは王位を次いで、立派な王となってください」


 私は立ち上がった。部屋を出ようとしたけど、ジョージは私の腕を掴んだ。


「待ってくれ。婚約破棄したいと言ったのは取り消す。僕がもう一度王を説得して……」

「しつこい……ですわよ」

「え? ナタリー……」


 腕を振り払った。振り向いてジョージを睨んだ。


「私、この際だからはっきり申しますけど……」


 すぅっと息を吸い込んだ。


「あなたのこと、心から愛しておりませんの」

「……!?」

「では、これにて失礼いたします」


 私は部屋を出た。さっきの言葉を突き付けたときのジョージの顔、本当に驚いていた。やっぱりショックだったのね。


 今まで散々言おうと思っていたけど、ようやく言える機会が訪れた。正直政略的な結婚にうんざいしていたのよ。なんであんな男なんかと結ばれないといけないのかって。


 確かにジョージはイケメンで、背も高い(私より5センチ低いけど)。武芸も達者、魔法の腕も確か、政治的手腕も評価されているらしい。


 でも、なんというかしら。心から惹かれる、そんな魅力的な要素が私にはないように感じられた。まぁ単純に私の好みの問題かもしれないけど。


 これでやっとしがらみから解放される。正直私は恋愛にあまり興味がなかった。私は、自由に生きたいの。



「……ということでございます、お父様、お母様。私ナタリー、これからは自由に人生を全ういたしますわ」

「おぉ、なんということだ。陛下の使者からも伝えられたが、まさか本当のこととは……」

「信じられない。せっかく決まっていた縁談が」


 父も母も、すでに私と王子との婚約破棄の話は耳に入っていた。手回しが早いのね。


 二人ともショックを隠し切れない。そして理由についても知っていた。


「……やっぱり背が高すぎるから」

「あんまりよ。あんまりだわ、私とあなたの子だからしょうがないけど」

「私は気にしていないわ。大丈夫よ」


 私の高身長は遺伝らしい。父も190センチ、母も175センチ、二人とも平均身長よりもはるかに高い。そりゃこんな大柄な両親から生まれたら、私も大きくなるわ。


 だけど私の185センチはかなりヤバい。母ですら高いのに、それより10センチも高くなると、いろいろひどい言葉を言われる。


 男の騎士が女装しているのか、と言われるのはまだマシな方だ。ひどい言い方になると、吸血鬼の女やダークエルフが人間に化けていると言われる始末。


 吸血鬼やダークエルフは確かに身長が高い。一度彼らに会ったことがあるけど、私は彼らの中だと若干背が高いくらいの大きさだ。


 王子の身長が180センチ、それでも高い方だ。でも私より5センチ低い、しかも公式の場だとハイヒールを履くから余計に高くなる。


 国王としての威厳が損なわれる。それが今上陛下が下した決断のようだ。そんなくだらない理由でと思われるかもしれないけど、歴代の国王は全員背が高く、妃が国王の身長を抜いたことはない。


「はぁ、王子は成人に達したから、もう背は伸びないわね」

「第二王子もそこまで背が高くない。お前を抜くのは無理だな」

「そうね。うん……仕方ないことよ」

「仕方ない? ちょっと待った、簡単に諦めるわけには。せっかくの第一王子との縁談なんだぞ!」

「でも、こればかりは本当にどうしようもないでしょ? それに陛下が私の代わりをすでに見つけてくれたようだし……」


 その言葉を聞いて、父の顔が引きつった。


「マチルダ・グノーシス、まさか彼女が……」

「よりによってあのグノーシス家と」


 父の顔が引きつるのも無理はない。グノーシス家とバルハレビア家は古くからの付き合いだけど、互いに領地の争いをしていた経緯がある。


 そのおかげで、騎士団が派遣される事態もあったほどだ。今では関係は修復しているものの、やっぱり禍根が経ちきれない仲のようね。


 だからこそ、グノーシス家が王族と、それも第一王子と関係を築くことに、父がいい気分でいられるはずがない。


「そんなに気になさらないで。頑張れば次女のヘレンが、第二王子と結ばれるわ」

「そうね。ヘレンに託すしかないわ」

「私は私で、第二の人生を歩むことにします」

「第二の人生だと? 一体これからお前はどうするつもりだ?」


 父が問い詰める。私はその答えをすでに決めていた。


「これからは自由に人生を全ういたします」


 私は立ち上がって、窓際に立った。外を見ながら言った。


「私は冒険者として生きることにします!」

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