夢鬼さん

黒白 黎

第1話

 些細なことで喧嘩した。初めてだった。自分でも抑えられない怒りの感情に支配され、傷つけてしまった。

 冷たい梯子の下で数年間眠らされた。それは自分に対しての罰なのかそれとも自分という感情をコントロールしなかった自分への罰なのか、氷のように冷たい牢獄の生活は退屈ではなかった。


 小学生の頃、同じクラスメイトに熱海さんという女の子がいた。その子は根っこからの都市伝説好きで、誰にでもその話を相談するほど大好きだった。自身も都市伝説が好きで、よく熱海さんと話しのウマが合い、放課後まで喋りつくしていた。

 ある日の夕暮れのことだ。熱海さんが熱心に図書館から一冊の本をもってきた。そのときは珍しく永田さん、星野さん、喜緑さん、久賀田さんの5人がそろっていた。いつもは塾やらクラブやらで時間があわないのだが、この日ばかりはちょうど都合が空いていた。

「なあ、その話、本当なのか?」

 場が興奮と不安が混じり合わせたようなピリピリとした空気の中で、永田さんが熱海さんに尋ねていた。

「”夢鬼さん”の都市伝説、みんなも知っているでしょ」

 ”夢鬼さん”…夢の中で鬼ごっこするという都市伝説だ。もっぱら夢の中の出来事なので覚えている人はいないというが、熱海さんが言うのはなんか違うことらしい。

「夢の中で鬼ごっこするやつだろ? 知っているぜ」

 星野さんが知っているというと、それに続いて永田さん、喜緑さんも首を縦に振った。自分も同じだ。

「ぼくは知らない。それなんなの、怖いやつ?」

 久賀田さんだけ知らないようだ。詳しく話そうかとしようとしたところ横から入るように永田さんが手短に伝えた。

「夢の中で鬼ごっこするんだ。みんなで」

「みんなで?」

 オウム返しにするかのように久賀田が訊くと、「そうだよ」と永田さんは返事をした。

「どうして、それが都市伝説に?」

 一見聞いて見れば他愛無い怖い話で済む程度の話だ。ただ、これには続きがあって最後鬼になった人は永久的に起きられなくなるというものだ。この話を知った久賀田さんはきっと参加することを拒むだろう。本人に伝えるべきかどうか迷っていると「最後、鬼になった人はどうなったかは誰にもわからない。ただ、夢の中で楽しい思い出に包まれるんだって」と熱海さんが明るく言った。

「そ、そうなんだ…へー」

 適当な返事をする久賀田さんに喜緑さんが熱海さんに気になることを尋ねる。

「どうして、そんなことを聞くの? まさか…」

 察するに熱海さんは不吉な笑みを浮かべた。

「ええ、察する通りよ。その”夢鬼さん”試す価値があるはずよ」

 それからというもの、何かにとりつかれてしまったかのように”夢鬼さん”の儀式を実行してしまうのだった。

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