第62話 八百長だらけの闘技場と、男の友情
「それではこれより、超☆配信者会議を開催する!」
太陽は天高く昇って、朝も終わる頃。
円形の闘技場を中心に、それをすり鉢状にぐるりと囲う観客席から大歓声が上がって、超☆配信者会議、バトル部門は開始された。
闘技場の中心には巨大で透明な魔珠が浮かび、そこから空中に映像が映し出され、先程の開会宣言も、実況者の声が増幅されて鳴り響いている。
「すげー魔珠だなあ。いくらくらいするんだろう」
「値段もそうだが作る技術も謎だぞ。あんなもの、どうやって作るんだ?」
「噂では、製鉄所の
「へぇー」
ヴェノムとジャックは並んで席に座り、ヴェノムから見て右隣にはコロラド、その奥にはスカーレットが座る。
対してジャックの左隣にはモックス、その隣にサレナ、マリンと続いた。
「最初は何が始まるんです?」
「紅白戦らしい。一般参加可の、バトルロワイヤルだってさ」
「バトルロワイヤル……」
「つまり、最後の1名が赤か白かだな」
呟いたコロラドの視線の先で、その変化は始まった。
これまで砂地に石の円形の台があった闘技場の、砂地の部分が色を変え、じわじわと水を溢れさせ始める。
そしてその深さは民の背丈を越えて、円い石のスタジアムは堀に囲まれた。
「すげー!!」
ヴェノムが食い入るようにその変化に見入る間にも水はどんどんとかさを増して、最終的に闘技場は石の台を残したプールへと姿を変える。
「すっげー! プールになったぞプールに! あっはは、流石帝国の技術だな、魔術師どれだけ要るんだ?」
「え? 一人も要りませんよ? 山の上から水門を開いて……」
「すまん今の忘れて」
顔を赤くしたヴェノムの隣で、肩を叩くコロラド。そしてその奥で、スカーレットが骨付き肉をかじっている。
しかしその目線がジャックの奥の3名に向くと、ふと首を傾げて訪ねた。
「そちらは何か食べないのか?」
「え? あ、いえ……僕らは……」
「心配しなくても」
ヴェノムがダーツを投げて、売り子の一人の首筋に当たる。
そして売り子がフラリと倒れて、骨付き肉とともに注射器と薬品のビンが転がった。
「おい何だこいつは!」
「売り子じゃないぞ、チキンに毒を仕込もうとしてやがった!」
「ち、違わない……あえ!? そうだ、俺は頼まえて毒を……」
「こいつ自白しやがった!」
周りの客がそれを見て慌てて制圧し、警備兵に引きずられていく。
「うーん、流石は師匠直伝の『自白剤』。あいつ以外に毒持ってる奴はいないよ」
「ヴェノムさん……!」
「気配は感じたがやっぱりアレだったか。客の顔ばかり見ていたからおかしいなと思ったんだ」
「爪の色が紫だったろ。あとあのチキンだけ部位と品種が違う」
「チキンもったいないですねー」
もはや悪人を処罰した感慨もなく、3名は騒ぎを眺めている。
それを見ていたサレナが、
「流石です、ヴェノムチャンネルの皆さん!」
と褒めたのを皮切りに、
「助かった……流石毒のプロ……!」
「ありがとうございます、最近は食事も一苦労で……これで安心して食事が買えます!」
「あ、やっぱり暗殺とか?」
「そうなんですよ聞いてくださいよ、ここ数日ずっと狙われてて!」
と、口々に感謝と苦労話を聞かされてしまった。
しかしあの草原を越えて、もはや感覚が麻痺していたヴェノム達は悪を排除した感情は一切感じなかった。
むしろ同じような苦労をした仲間を得た喜びに顔を見合わせて、近くの『安全な』売り子から食事と飲み物を大量に買いつける。
「もぐもぐ……暗殺者、ウチはさっきの屋台だけでしたよね。今更ですけど、やっぱり草原で恨み買ってたんでしょうか」
コロラドが呑気にそう言うと、声を潜めてジャックが顔を寄せる。
「むしゃむしゃ……どうもですね、貴族が金を出すウチと、草原にいた闇ギルドが金を出すヴェノムさんじゃみんなウチを狙うらしくて……あー美味し」
「リアルに嫌な理屈だな。まぁ無事で何よりだよ」
「ったく、マジでこの街嫌いです僕!」
そう言っている間にもラッパの音が響き渡り、木の剣と盾を持った赤白のハチマキでチーム分けされた者達が集う。
「あれってどういうチーム分けなんだ?」
「赤の帝国vs白のその他で、赤に勝てば参加者にお金がでるらしいですよ」
「じゃあ赤しか勝たんわな」
「ですね」
ともあれ、笛の音とともに闘いは始まった。
言ってしまえば金儲けの飛び入り参加であろう白の軍勢は、最初は様子見程度の攻めしかしない。
そこに誰かの号令が上がって、白の軍勢に正面から赤の軍勢が突撃した。
「あっ、何やってんだ白い方!」
「ふざけんなマジメにやれー!」
いきなりの総攻撃に逃げ惑う白の軍勢は、なすすべなく円形の台からボトボトと落ちていった。
木の盾や剣のお陰で溺れる者はいないが、その情けない姿は観客席の怒りと笑いを誘う。
「おやおや、流石は赤の帝国軍! 寄せ集めではこの程度ですねぇ! 白に賭けた皆様はご愁傷様です!」
さらに実況が煽って、会場からは怒りに任せてゴミや食べカスが投げ込まれたのだった。
「それでは第一種目、紅白戦は赤の帝国軍が見事勝利となりました! 続いては水を抜いた後に……」
「じゃぁそろそろ失礼します、ヴェノムさん。本当にありがとうございました。正々堂々戦いましょう」
「ん、宜しく」
控室に向かうジャック達を見送って、ヴェノム達も反対側から控室を目指す。
(そういえば、ガンビットの奴、今頃何して……ああそうか、見合いの手伝いとか言ってたな)
歩きながらそんな事を考え、ため息をひとつつく。
「何だ、緊張か?」
「違うよ、王族もこんな国に嫁ぐんだから大変だなと思ってさ……」
「正直言うと、私もカキョムの方が好きです」
「……ま、アイツには関係ないけどな」
「関係ない?」
長い付き合いの友人を思いながら、ヴェノムは係員に三つ星の札を見せて、控室に向かった。
「アイツ、と言うのはガンビット氏のことだろう? いくらあの方でもこんな国では色々と我慢しているのではないか?」
「ぶっははは、我慢!? アイツが!?」
人気のない薄暗い廊下で、ヴェノムが珍しく大口を開けて笑う。
「な、何か変か!?」
「スカーレット、アレをそこらの人間と同じに見るなよ」
「わっ、急に出るなマサラ!」
「今回ばかりは気が合うな。アイツほど
「り、理由?」
見当もつかない、という顔のスカーレットに、笑みを浮かべたヴェノムが言う。
「アイツはさ、誰よりも自由になりたいんだよ。アイツはアイツ以外の意志で絶対に引き下がらないし、意志も曲げない。アイツがやりたいと思ったら実現するまで動き続ける。ギルド長やってんのは単に一番力を握れるからさ」
そこで言葉を一度切って、コロラドとスカーレットを
「だからアイツは今頃、皇帝サマに謁見してんじゃねぇかなぁ。だってそれが、奴隷制度を失くすのに一番手っ取り早いだろ?」
友人を心の底から信頼した笑顔を見せて、そう言った。
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