第45話 幕間2・絶叫の響く街
『あなたの日常に目の覚める刺激を! ヒポポ出版』
カバのイラストが描かれたそんな看板のかかる出版社の周囲で、何日ぶりかの号外がばらまかれていた。
通勤途中や夜勤明けの者、井戸端会議をする主婦までもがそれを手にし、通りでは雑貨屋がシャッターを開き始め、反対に酒場は看板を引っ込めるか、喫茶店としての看板に切り替え始めていた。
「ふわぁ……ん? ったく、朝からうるせーと思ったら今日もかよ……」
そんな喧騒の端で、エプロンを着てホウキを持った赤髪の少年が眠そうに看板を取り替え、朝の準備を始める。
ヒポポ出版のナナメ向かいにあるこの酒場兼喫茶店・『止まり木と果実』は彼の両親が経営しており、ヒポポ出版の社員が多く利用する繁盛店だった。
しかしそこの一人息子・ジジュンからしてみればヒポポ出版の号外などうるさいだけで、朝の客と手間が増えるだけの面倒でしかない。
「ジージュン。おはよ」
「んだよフラウかよ……」
と、そこへ花束を抱えた黄色い髪の少女が現れた。
「ちょっと何よ、朝から幼馴染がお客様として来てあげたのに。はい今日のお花」
「サンキュ」
「それだけ? わたし、お腹空いたなー」
「わかったわかった母さんに言えよ、なんか出してくれるだろ」
「えへへ、ありがと。お掃除手伝うね」
少女の名はフラウ。隣の花屋に住む、ジジュンの幼馴染である。
「でさ、今日も号外? 最近多いね」
「あー、いつもうるせーだけだろあんなの……?」
しかしその日は、いつもとは少し様子が違った。
普通ならどんな事件だろうと人々は号外を見つめるくらいで、わざわざ大きな反応はしない。ところが今日に限って、
「バカな、そんなことがあるわけない!」
「嘘だろ!? 信じないぞオレは!」
「何よこれ、許せない!」
と、他者の目も気にせず叫ぶ者がちらほらいるのだ。
「なんか、いつもと違うね」
「気になるのか?」
「えっ!? べ、別に……」
「取ってきてやるよ」
そう言うとジジュンは通りを横断して、紙の束を持って戻って来る。
「そんなに欲しかったの?」
「バカ、これは店に置いと……く……」
「わっ、わっ!」
バサバサと号外がジジュンの手から落ちて、しかもそれを拾おうともしない。
「ジ、ジジュン?」
幼馴染の様子を気にして、顔を覗き込むフラウ。
「嘘だろ……こんな、こんなことってあって良いのかよ……」
「ねぇどうしたの? この号外が……あ」
地面に落ちた号外には、映像魔珠から移した画像が1枚。
そこには人目を避けてどこかの店の裏口から出てくるスカーレットと、その肩を抱く男の顔が写っていた。
「ちくしょー! 嘘だろスカーレットさん! アンタ恋愛に興味ないって言ってたじゃん! アレ嘘だったのかよぉ!」
地面に四つん這いになって、倒れるホウキも無視して少年が叫ぶ。
「え、ジジュン、アンタこういうのが好きだったの?」
「こういうのとか言うな! いやそういうのかもしれないけど最悪幸せならオッケーだろ!? でもなんか裏切られた気がするんだよ何も裏切られてないのに!」
「……ごめん、アンタが何言ってるか全部わかんない」
その時、喫茶店の扉が開いて赤髪の太った女性が現れた。
「ちょっとジジュン、アンタ何騒いで……あらフラウちゃんいらっしゃい。なんか食べてくかい?」
「あ……でも……」
「? あー号外かい。この子スカーレットさんに憧れてたからねぇ。ったくバカな子だよ店の前で。ほら起きな!」
「あー……そ、そうだったんですか……」
「ううう……」
嘆く幼馴染を思いながら、フラウは自分のくせっ毛をいじる。
(赤髪……かぁ)
そしてふと、そんな事を考えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます