スプーン・台本用(実験w)

🗡🐺狼駄(ろうだ)@ともあき

ローダ・扉の青年 『神籠る島』より。薩摩武士と妻との会話(仮)

(状況説明。舞台は薩摩(鹿児島)牙朗(がろう)という武士とその妻ほうづきの会話。夕食が終わり、深夜近い頃。牙朗は縁側で芋焼酎を飲んでいる。隣ではほうづきが、酌をしている。牙朗はこの日の昼間、初めて人を斬った。薩摩に密貿易ありと疑った甲賀の密偵・くノ一が彼の初めてであった。尚、縁側なので虫の声と静かな波の音がする)


◇—鹿児島弁バージョン―◇


牙朗:「今宵の月は綺麗じゃ。桜島も綺麗じゃっど」

ほうづき:「珍しかこつもありもんそ。景色をさかなに酒ば飲む旦那さあは。うたでんよんでみもんそか?」

(ほうづき、少しほくそ笑んでいる感じで)


(牙朗は少しむっとしながら、ほうづきの両膝の上に頭を置く)


ほうづき:「こいは、いよいよ珍しか…甘えてくる旦那さあ、いけんしなさった?」

(ほうづきは、旦那の頭を猫を扱う様に優しく撫でる)

牙朗:「おまんは一言うけ。たまにはよかどが…」

(牙朗、少しムッとした感じで)


ほうづき:「ふふっ、よかこつでございもんそ。いつもこげんしてくいやったら良かのに」

(ほうづき、相変わらず微笑みをまじえて)


牙朗(心の声):― こ、今宵はわっぜかほうづきの肌が、白か月んごとく美しか……

牙朗:「ほおづき」

ほうづき:「はい、ないでございもすか?」

牙朗:「おいは、侍じゃ。いつこの場からおらんごなってんおかしくなか男じゃ」

ほうづき:「はい、私も武家の妻。悲しきこつやけど、そいは覚悟しておいもんそ」

(ほおづきは、顔色一つ変えず、まるで子供に諭す感じで言う)


(ハッとする牙朗)


牙朗(心の声):― 嫁を貰ってもおいは剣に生きるだけの男。いつか相手を不幸にするやも知れんと思っちょった。じゃっどん、今、迂闊にも死ぬるときはここで死にたかち思っちょる。

牙朗(心の声):― 武士もののふは戦う時、既に死人と化す事で死を恐れずに戦う事がでくる。じゃっどん、こん今を守りたいがゆえにそげんすっとじゃ。

牙朗(心の声):― おいのご先祖さあも、そのまたご先祖さあも、こげんして命ば繋いでくれっせえ今があっとじゃな………。

牙朗:「ふふっ………」

(思わず今更この様な事に気がつく自分を笑う)

ほうづき:「どげんなさったとでございもすか?」

(ほうづき、愛しい旦那の顔をのぞきこむ)


牙朗:「………………ほおづき、今宵は……付き合ってくいやい」

(少し間を置いて息を飲んでから。そこからの言葉は歯切れよく)

ほうづき:「はい、旦那さあ」

(とても嬉しそうに受け入れる)


◇—標準語バージョン―◇


牙朗:「今宵の月は綺麗だ。桜島も綺麗だな」

ほうづき:「めずらしいこともありますね。景色をさかなに酒を飲む旦那だんな様は。うたでも読んでみます?」

(ほうづき、少しほくそ笑んでいる感じで)


(牙朗は少しむっとしながら、ほうづきの両膝の上に頭を置く)


ほうづき:「これは、いよいよめずらしい…甘えてくる旦那様、一体どうなさいました?」

(ほうづきは、旦那の頭を猫を扱う様に優しく撫でる)

牙朗:「お前は一言多い。たまには良いだろうが…」

(牙朗、少しムッとした感じで)


ほうづき:「ふふっ、良いものでございます。いつもこの様にしてくれれば良いのに………」

(ほうづき、相変わらず微笑みをまじえて)


牙朗(心の声):― こ、今宵こよいはとてもほうづきの肌が、白い月の様に美しい……

牙朗:「ほおづき」

ほうづき:「はい、何でございますか?」

牙朗:「俺は、侍だ。いつこの場から消えてもおかしくない男だ」

ほうづき:「はい、私も武家ぶけつま。悲しきことですが、それは覚悟かくごしておりまする」

(ほおづきは、顔色一つ変えず、まるで子供にさとす感じで言う)


(ハッとする牙朗)


牙朗(心の声):― 俺は剣に生きるだけの男。嫁を貰っても、いつか不幸にするやも知れぬと思っていた。なれど、俺は今、迂闊にも死ぬるときは、ここで死にたいと思っている。

牙朗(心の声):― 武士もののふとは戦う時、既に死人と化す事で死を恐れずに戦う事が出来る。しかし、この今を守りたいがゆえにそうするのだ。

牙朗(心の声):― 俺のご先祖達も、そのまたご先祖様も、こんな風に命を繋いでくれたから今があるのだな………。

牙朗:「ふふっ………」

(思わず今更この様な事に気がつく自分を笑う)

ほうづき:「一体どうなさったのでございますか?」

(ほうづき、愛しい旦那の顔をのぞきこむ)


牙朗:「………………ほおづき、今宵は……付き合ってくれまいか」

(少し間を置いて息を飲んでから。そこからの言葉は歯切れよく)

ほうづき:「はい、旦那だんな様」

(とても嬉しそうに受け入れる)


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