ワイナミョイネンの系譜

内藤 まさのり

第1話 訃報

 じいちゃんが亡くなった…


 中学に進んで算数が数学と名を変えてからというもの、受けるのが一番億劫な授業の真っ最中、担任の山本先生が僕を呼びに来た。山本先生は廊下に僕を連れ出すなり小声で言った。


「今、お母さんから連絡があって、あなたの父方のおじい様が亡くなられたそうだ。直ぐに用意をして家に帰りなさい。」


 僕が「分かりました」と一礼して教室に戻ると、数学の井上先生が「どうした?」と聞いてきた。


「あ、あのじいちゃんが亡くなって…」


 僕が混乱する頭でそこまで答えると周囲がざわついた。そのざわつきを抑え込むように井上先生が言った。


賀茂かもくん、直ぐに帰りなさい。ほら!他のみんなは黒板見て!ここテストに出すぞ!!」


 いつもよりトーンを上げて井上先生が授業を続ける中、僕は机の中のものをカバンに詰め込むと教室の後ろの出入り口に向かって移動した。井上先生の方を見ると〝分かってるよ〟と頷いてくれたので、僕は一礼すると静かにドアを開けて外に出た。各教室で授業が行われている中、廊下を自分だけが歩くのは変な気持ちだった。


 もうすぐ夏休みが始まろうという季節だ、校舎から出ると夏の強い日差しが容赦なく照り付けた。僕は額から流れ落ちる汗をタオルハンカチで拭いながらじいちゃんの事を考えていた。僕はじいちゃんが大好きだった。とうさんが仕事で忙しく、なかなか遊んでもらえない中、じいちゃんが遊んでくれたことで寂しさを感じずに済んだのだと思う。僕はじいちゃんから自転車の乗り方に始まり、キャッチボールや釣りを学んだ。あとじいちゃんは二人きりの時によく不思議な手品を見せてくれた。キャンプ場で何も使わずに火を起こしたり、川遊びに行ったときに河原の石を手を使わずに動かしたり。種明かしをせがむといつも「大きくなったら教えてやるからな、裕太ゆうた」と言われていた。「じいちゃんが亡くなったという事は、あの手品の種を教えてもらうことはもうできないのか…」そう考えが至った時、初めて僕の胸にじいちゃんが亡くなったという現実が迫ってきた。ただその時はまだ実感と呼べるほどのものではなかった。

 

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