第2話 超がつくほどブラックだった2

 遠くに消え行く人々。




 追いつこうと走り出した私の肩を誰かが掴んだ。




「……!!!」




「おまちなさい、あなたはまだ能力鑑定が済んでいないでしょう」 






 振り向くと、二十代後半ほどの(見た目)メガネをかけた天使が肩を掴んでいた。




 能力鑑定? 能力鑑定??




 ん?




 ……能力鑑定ってことは。




 あれかな、私もたまに読んでいたラノベでよくある、あれかな?




 いや、私もラノベくらい読むよ。




 それが例えおっさんでもね。


 






 …………で、やっぱりあれなのかな。




 ち、ちーと、そうチート。




 転生特典ってやつがあるのか、いや、でもここに天使が居るし。




 周囲は真っ白だから死後の世界の天界のようだし、背後を振り返ると自分の背中に小さいながらも天使の翼が生えている。






「天界でチートって必要かな? いや、これから異世界に送られるなら必要なのか……」




「いいから、さっさとこっちに来いほらここで動くな!!」




 


 二十代後半(見た目)メガネ天使に怒られた。いや、まぁ、ボーとしてた私が悪いんだが。




 しかし、このメガネ天使。




 元々気難しいのか、ただ単にイライラしてるのかわからないが……






 彼の様子を黙って見守り続け、五分ほど立ちどまっていたが。




 全く動かない、遅い……社会人成り立ての若者なら切れるんじゃないか?




 う~~ん、まだなのかな。




 鑑定って時間かかるんだなぁ~って考えていたら、イラつきMAXのメガネ天使の顔の表情が消えていた。






 さらに五分ほど無言のプレッシャー、嫌~~な永遠とも感じる時間が過ぎたころ。




 メガネ天使の大笑い、いや高笑いが聞こえてきた。




「はぁ、マジかよ、マジで無能力、なんの能力も無い役立たずのゴミ、これが……こんなゴミが俺様の部下になるってのかよ。 いやいやいや、エリート中のエリート、中級天使である俺様の部下にこんなゴミが……」






 う~ん、どうも嫌な雰囲気だな、しかもなにやら不気味な顔で考え込んでいる。




 これは前世でも見たことある、邪悪な笑みというやつだ。




 しかも、どうやら自分はこのメガネ天使の部下になるようだ。






 う~ん、転生? ね~~。




 転生した直後に就職かぁ~~、世知辛いとは思うが。




 まぁ天使であっても生活はあるだろうから、働かないといけないだろうし。




 そうだな、考えれば就職活動しなくていいから楽なのかな。




 確かに前世では就職には苦労したし、それでも雇ってくれた会社には感謝してる。




 ……あっ、そういえば休職願い提出し忘れてる。




 いや、死んだから退職? 殉職ではないな。




 いやいや、そもそも大事な仕事の引継ぎもやってない案件もあるじゃないか……会社に迷惑かけてしまう。








 ……なんとも暢気な転生天使であった。












 ……あれから。




 私がどうなったかと言えば。






 まぁ、はっきり言って無かったことになった、というか、最初から居なかったことにされた。




 そして、役立たずの無能の私は書類整理&部屋のかたずけを命じられた。






 なにやら大きな布袋に詰め込まれ、ダンボール? に押し込まれると、メガネが呪文みたいなものを唱えはじめる。




 すると浮遊感が……




 ふむ、まさにファンタジーだ。






 私は布袋の隅の破れた小さな穴から、ダンボールに指で穴を開けることにした。




 体勢を、くっ苦しいが周りを……なんと言うか、楽園?




 いや某Dのランドのような場所だった、年齢は様々だが美男美女の天使、周りを飛び交う小さな妖精の姿も見えた。


 


 


 そんな幻想的な景色をぶち壊すほどの不釣合いな建物が視界に入った。




 役所かな、間違いなく東京のあの役所みたいな巨大ビルがそびえ立っている。




 まさに天辺が霞んで見える建物だった。




 大人な私は税金〇△とは言わないがね。




 その建物の裏口へ向かう、自分が入ったダンボールを隠すように、上下左右に積まれたダンボールとともに、ひと気の無い廊下を進んでいった。




 何故ダンボールで運ぶのか気にはなったが、これがここでのルールなのだろう。










「う~~ん、かび臭い。何かの資料室? かな、ここで書類整理&かたずけすればいいのですか……それで何時から何時まではたら「ここがお前の仕事場だ、いいか俺様の机の上の書類の整理とその資料集めと企画案作成、出来たらそこの棚から転送しろ、いいかサボるなよ、お前達天使には寿命なんて無い、さらに食事睡眠も不要だ、俺が言いと言うまでサボらず働けいいな!」






 自分の言いたいことだけを言い切るメガネ天使。




 F岡Yドームほどもある巨大な資料室、あの建物の奥行きで何故――と言いたいが物理法則も違いのだろうと自分自身で納得することに。




 入り口には『天使長ルーム』と『資料室』のプレートが見えた。


 


 部屋の扉自体は普通のサイズ、だが室内へ入るとまるで別空間だった。




 すでにメガネ天使の姿は無い、さっさとどこかに行ってしまった。




 一人取り残された私は室内を見回す、机には……




 ふむ、こんな巨大なドームみたいな資料室には所狭しと巨大な棚、棚、棚、書類の山が。




 まるでどこかの巨大倉庫のようだった。




「……いや、少しは整理すればいいのに、……って、まぁこんな山のような書類や資料の整理なんて、一人でやれば何百年かかるかわからないけど」




 当然ただの独り言だが。




 とは言え。




 整理しないとどこに何の資料があるかわからないし、やるとするかな。








 おっさん……いや、転生した少年天使は、ただ一人膨大な書類をかたずけはじめた。 

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