異世界転生トラック~暴走運転手は捕まらない~

神城零次

第1話 目覚め

 仕事は夜に行られることが多い。二日酔いの頭でスマホを充電器から外す。


「今日は何人だろうか……」


 自分の上司からのメールを確認する。スマホに入っている専用アプリには時間と場所しか書いていない。履歴が自動的に削除される天界で作られたそのアプリは運転手が万が一にでも警察に捕まっても天界からの使者であることを隠してくれる機能がある。しっぽを切られるとも言う。

 転生トラック。異世界に飛ばす為に現世での縁を切る仕事。それが転生トラックの意義だ。

 私は大型自動車免許を持っていない。現世に来てから約三年経ち大分世俗に染まった気がする。天界には酒が無い。酔っぱらって寝る事が日常になってしまった。

 人を轢き殺す度にアプリに電子マネーが入金される。罪悪感が無い事もないが、大抵異世界に飛ばされた人はチート能力を貰って二度目の人生を謳歌している。むしろ感謝して欲しいものである。


「現世に来てから独り言が多くなった気がする……」


 現世では佐藤晶を名乗っている。近所付き合いも良好であるが、性別が存在しない身体では男女の関係になる事もない。好意を持たれてもこちらにその気が無いので交際を迫られてもいつも断っている。

 それなりに容姿は整っているので街で逆ナンやナンパされる事もしばしあるが、迷惑な事この上ない。

 捕まる事はないが自分の仕事は仮にも人を殺す事である。誰かと親しくする気は無かった。

 新聞は取っていないがパソコンはある。テレビはNHKの集金が面倒くさいので置いていない。パソコンは主にネットゲームをするためだ。だいぶ課金してしまった。サービス終了したら泣くかも知れない。

 ネットは良い。ギルメンとのチャットも楽しい。自分の素性を知られる事もない。

 時計を見るとフィールドボス湧きの時間だったので早速パソコンを起動する。パソコンのスペックは量販店で買ったネットゲームに特化した自慢の一品だ。


「ギルメンは誰も居ないな……」


 どうせならギルメンの初心者のレベリングをしてあげようとしたのだが当てが外れた。ギルドでは古参でギルマスからの信頼も厚い。幹部にならないかと打診されたが仕事の時間が不規則なので断った。

 一時間後には転生トラックの仕事が待っている。フィールドボスをサクッと倒してしまおう。トラックは駐車場に置いているわけではなく天界から転送されてくる。毎回同じトラックの外見では足が付くので見た目が変わる特別製だ。対象を確実に即死させるために頑丈に作ってある。逃走する際も一定距離を走ると天界に送り返される。

 この仕事に誇りは無いが異世界も人手不足だ異世界の数が多いからだ。何人送っても需要がある。今日も異世界を平和すべく転生トラックのハンドルを握る。


 そんな妄想に憑りつかれた統合失調症患者が居たら。精神病院で隔離されている事だろう



 


 



 

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