第8話 元就対佐久間
合戦二日目、毛利軍は天王子砦を攻める。
相変わらず本願寺方は高見の見物なのは変わらない。
だが、佐久間勢は違った。
あたかも自分たちを馬鹿にされたような空の陣による策略、やり返さねば気が済まない。
佐久間勢は一万の軍勢で毛利軍に反攻する。
迫る佐久間勢を見るや元就は命じる。「退け」と命じた。
天王子砦を攻める毛利の兵は一斉に退き、元就の本陣に集結した。
「毛利を討て!」
軍勢を率いる正勝は昨夜の鬱憤を晴らすように攻めかかる。
「毛利の軍勢、某にお任せを」
父、信盛は息子の申し出を快諾して一万の軍勢を預け、自らは本願寺へ備えている。
佐久間父子の憤懣をぶつけるように、佐久間勢は毛利勢へ突入した。
「ええ勢いじゃの、昨夜のがこんなに効くとは」
佐久間勢の勢いを元就は飄々と眺めている。
自軍が押されていても表情に曇り無く、むしろ明るい。
「これぐらい、押し返してやりますぞ」
元春は元就へ反撃を促す。
「いいや、策の通りにする」
父である元就の返事に元春は納得せざる得ない。
不承知ではないが、元春の性分から押し返したくなるのだ。
「そろそろ二度目の退きをするかの」
元就が決心して毛利勢はまた退いた。
「いいぞ、このまま押せ」
正勝は退く毛利勢に勝機を見た。
小賢しい策で馬鹿にされたが、これで毛利を後悔させてやるぞと。
毛利勢は佐久間勢に押されるように退いて行く。
「いささか、毛利勢に何かを感じます。注意されるべきでは?」
正勝を諫める将の言であったが、晩にやられた仕返しに熱をあげる正勝は聞き入れない。
「押し潰せ!策があろうと押し潰せ!」
佐久間勢は正勝の思いを表すように毛利勢へ押しかかる。
「勢い良いのう」
元就は正勝の攻めを面白げに見る。
「あ~じっれたい!押し返したい」
元春は鬱積を溜めるばかりだ。
「それ、もっと退くぞ」
元就はまた軍勢を退かせる。
毛利軍の退却は川辺に向かって進んでいた。
石山本願寺の周囲を流れる川、そこには小舟が幾つも浮かんでいる。
「毛利軍め、あの舟で逃げるつもりだな。させるか」
正勝は毛利軍を逃がさまいと追撃を強める。
その佐久間勢の追撃はまさに猪突猛進となっていた。
「軍勢を分けよ!」
元就は号令を下すと、毛利の軍勢は二手に分かれた。
あたかも佐久間軍を通す道を作るように。
「これは、何じゃ!?」
正勝は毛利勢の突然の動きに驚くが、自分が勢いをつけて走らせていた軍勢は急に止まれない。
毛利軍の間を通り、川辺へ向かう佐久間勢
「放て!放て!」
小舟に乗る村上水軍の兵が弓矢を放つ。
上へ放つのではなく、水平に佐久間軍の兵を先頭から矢を浴びせる。
「こんな所で止まってはならん!」
事態の危機が分かった正勝は軍勢を引き返そうとする。
しかし、先頭がいきなり止まり混乱する。
「今じゃ、攻めよ!」
混乱する佐久間勢を見て元就は反撃を命じる。
「それ打って出よ!突け!」
元就の号令を聞いて、元春は待ってましたと攻めに出る。
左右に分かれた毛利勢は佐久間勢を挟む形になる。
鬱憤を晴らす元春が率いる兵は特によく槍を突き入れ、佐久間勢を打ち砕こうとする。
乱れた軍勢では倒され、軍勢は削られるばかりだ。
「くそ、退け!退け!」
正勝は残る動ける兵達を連れて毛利勢から離れ、そのまま天王子砦へ向かう。
「父上、追いましょうぞ!そのまま天王子砦も」
元春は意気を上げて進言する。
「勢いはこちらにある。ええ時じゃ」
元就は元春の言を受け入れ、追撃に出ると決める。
勢い、戦の流れは毛利にありと元就は確信していた。
「申し上げます!羽柴秀吉の軍勢が大和田城に襲来しました!」
そこへ急報が来た。
近畿で毛利が拠点としている大和田城
そこへ羽柴秀吉が攻めている。城にはそんなに守りの兵を置いてはいない。
「大和田城は荒木村重殿が援軍として入城、守備に就いております!」
急報の続きは思わぬ事であった。
荒木村重が大和田城へ入り、羽柴軍と戦っていると言うのだ。
「荒木はこれで旗色をはっきりしたのう」
元就は吉報を聞いたように微笑む。
「これで憂いは無くなりました。天王子砦を攻めましょう」
元春は重ねて追撃を求める。
「いや、大和田城へ戻ろう。荒木殿に感謝を言わねばな」
元春はまた腕を持て余すような思いになったが、父の決定に従う。
こうして毛利による天王子砦を巡る戦いは終わった。
佐久間が毛利を退けたと見える結果であるが、戦の流れは終始毛利側が主導権を握っていた。
とはいえ、元就はこれを勝利と言わなかった。
佐久間父子にしても勝ったと思えなかったが、信長へは「毛利勢を撃退し、天王子砦を守れり」と伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます