第11話 推しと好きを共有したい


 俺と伊野さんがウサ娘をSNSでミウミウにオススメしたところ、予想以上に他の見知ったリスナーもプレイしており、ミウミウによって即座に採用された。


 『実はウサ娘とっても気になってたの! 面白そうなので今日やります!』


 という推しのSNSのつぶやきに、俺はお茶を吹きかけたが。

 判断が早い! そんなミウミウ大好き!

 だが、突然の配信宣言はよくあることだ。

 リスナーたるもの、推しの配信には常に備えるべしとは家訓の一つとして代々引き継ぐ所存である。

 夕飯を食べ終えた俺が、今の待機状態に至るまでに、そう時間は至らなかった。

 推しの配信を前にして、息を整える。

 お風呂完了。パソコン不調無し、音量良し、ヘッドフォン良し、飲み物良し、明日の仕事の準備良し。

 俺は、手元のスマホで推しのSNSを確認する。……推しの寝坊ナシ!

 今日は、いつもの麻雀配信や雑談配信とは異なるが故か、こちらまで緊張している。落ち着くのだ。推しが配信する事実に変わりは無いのだ……それがもう尊いのでは????

 推しも好きと言っていたビールを机に置く。新しいゲームプレイ祝杯用である。

 配信映像が動き、【なうろーでぃんぐ】という文字が表示された。

 始まった!!

 推しがSNSでも、『始まりました~!』と告知している。

 待機していたリスナーたちが次々とスタンプや挨拶をコメントしていく。

 この高揚感はいつ見ても好きだが、今日は大人気ゲームの初ライブ配信だからか、見知ったリスナー以外にも知らない人たちも集まって盛り上がっていた。

 

 『みなさーん! こんにちみう~! みんな待機ありがとう! うわいつもより多い!? 今日はお休みの予定だったのにこんなに集まってくれて嬉しい! 』

 

 喜んでるミウミウ可愛い! そして推しとの時間が増えて私も嬉しい!!


 という感情をそのままスパチャとして流す。

 

 『あ! ましろさんナイスパ! えーと、『最推しと過ごせて私も嬉しい』!私も嬉しいよ! 今日は初めてのウサ娘配信…ずっといてね? 』

 

 「おっふ……心臓持ってかれるところだった…ずっといるが????」


 リアルで呟きながら俺は自分がニヤニヤしてしまっていることを自覚する。

 話してるだけで幸せ死しかけた魂をなんとか画面に繋ぎ止め、配信に集中する。

 

 『じゃあね…さっそく始めていきたいとおもいま…あれ!? ……皆…ごめん。ダウンロード終わって無かった……』

 

 いつものミウミウで安心した。 

 PONミウ助かる。

 PONと草スタンプが皆から投下され、ミウミウが謝りながらも、皆の推しウサ娘を聞いていく。

 

 『ふんふん…ペシュさんが、ねざー?らんど?わーむ…ネバーランドワーム! ネバーランドかわちい! 』

 

 我が最推し、読み間違えてます! それだと約束のって頭に付いちゃいそうだよ!

 でも慣れて無いの可愛い…。

 ツッコミ力をここで鍛えられているリスナーたちもその読み間違いに反応していく。


 『ワームだとイモムシにww』

 『ムシ娘配信だった????』

 『ムシキングだったかぁ』

 【200円】『読み方確認用スパチャ ネザーランドドワーフ(ねざーらんどどわーふ)』

 

 推しはみんなのコメントで爆笑しながら手を叩く。

 

 『あはっ! 皆ごめんっ! ワームじゃないワームじゃない!ちがうちがっ! ごめん! ムシ娘やだ! ネザーランドドワーフ! ネザーランドドワーフね! 覚えた覚えっくくっ…ごめんちょっと息整える! ……ふぅ…はぁーあ! 始まってすらないのにワロタは草! それはそう! 』


 開幕から推しとコメントの俺たちが笑いあう中で、いよいよダウンロードが終わり、最初のムービーが流れる。

 華やかな衣装をまとったウサ娘たちが、ステージで歌と踊りを披露していく。

 

 『わぁ可愛い! ……あ、このセンターの子がネザーランドドワーフちゃんね!……違う!ワームじゃないよ何言ってんの! ねーみんな? ミウミウが間違ってたわけないじゃん? ねー!』

 

あなたが正義です。ミウミウは何も間違ってない? いいね?

ライブムービーが終わり、追加ダウンロードが入る中で、リスナーのコメントを返していくミウミウ。

 

 『…ふんふん…あっ…ミウミウの推しウサ? んーまだ決まって無いけど……アンゴラウサギちゃんはダウンロードする前から気になってるんだよねー』

 

 なん、だと。

 俺は一瞬停止しかけた思考を稼働させ、アンゴラウサギの魅力をコメントしていく。

 愛する推しと好きなウサ娘が一緒に慣れたら死ぬほどうれしくなるに決まってる!

 推しと好きを共有したい!

 差すときは今この瞬間とき! 


 【1万円】『アンゴラウサギはいいぞ! 長い白髪綺麗でかわいいし! フワフワモフモフな衣装可愛い!癒しの極み! 天然ボケをしちゃうところも可愛いし、他のウサ娘と話したりしてると嫉妬する姿はマジでかわいい!!』


 よし! 衝動のままに、愛を込めた文章を赤いスパチャ枠に押しはめて投げ込む。

 推しは、コメントを読む中で驚愕の悲鳴を上げた。

  

 『えぇ!? ましろさん!? 赤いんだけど!? まだ始まって無いけど!? えーと…アンゴラウサギはいいぞ。長い白髪綺麗でかわいいし、フワフワモフモフな衣装可愛い、癒しの極み…天然ボケをしちゃうところも可愛いし他のウサ娘と話したりしてると嫉妬する姿はマジでかわいい……ナイスパナイスパ~! いやそれに赤投げたの!?』


 それだけの価値がある。推しに、好きなウサ娘の魅力を知ってほしい!

 あわよくば育てて……アンゴラウサギ、最高レア度だったわ……頑張ってガチャを当てて欲しい。

 

 『ありがとうね!無理せんといてね! でも、読んでて思ったけどさ…長い白髪で、癒しで、嫉妬しちゃうって……ミウミウかな?って思っちゃった…』


 推しが恥ずかしそうな声音で笑う。

 …………確かに!

 なんてことだ。道理でメッチャ刺さると思ったら、ミウミウと共通点が多いウサ娘じゃないか。

 無自覚のうちに俺はどこでもミウミウを求めている。魂から推しを求めている。

 ……なんだかアンゴラウサギがミウミウと重なって見えてきた。

 他のリスナーも、スパチャで好きなウサ娘をPRしていく。

 

 『おわ、皆スパチャで伝えなくていいんだよ!? 嬉しいけど! 』

 

 いつもの麻雀配信よりコメント数と高評価は圧倒的に多い。流石大人気ゲームウサ娘。普段麻雀や雑談に来たことがない初見の人たちも、次々とコメントし始める。 


 『初見です!あ、ふくまるさんいらっしゃいませ! こんばんみう! えーとライブのセンターは投票で人気一位になった人がなれます。…へぇ、そうなんだ! 絶対センターにしたいなぁ! 』


配信の熱が高まり、ダウンロードが終了する直前となった瞬間、


【500円】『ネザーランドドワーフは、ウサ娘第1期アニメの主人公と同じ部屋の子で、怒ると結構攻撃的になる。実際のウサギとしてのドワーフ種も初期は凶暴で攻撃的性格だったからここから設定反映されている。人に懐きにくいのもゲームに反映されており、この子が好感度とかファン数を上げるのが難しい。余談だけどウサ娘の中でも一番小耳。』


 長文のスパチャが、完全初見の人から飛んでくる。


 『わっ初見さん!? 初見でいきなり投げていいんですか?! えーと…ネザーランドドワーフは、ウサ娘第1期アニメの主人公と同じ部屋の子で、怒ると……………ふんふん……うん!……へぇ、そうなんだ! え、攻撃的なんだ………ナイスパナイスパァ! 

 あー……ごめんね! アニメ見てないからミウミウ全然わからなくて……あ、始まるよ皆!』


 ダウンロードが明け、なおも続くリスナーたちのウサ娘アピールを一旦切り上げてチュートリアルを進めていくミウミウ。

 ふと、さきほどのコメントに対するミウミウの反応から少しだけ、このウサ娘アピールの流れをつくったことに、失敗したかもしれないと不安がよぎった。

 俺の抱いている不安が当たらなければいいが……。

 ……ま! 心配するより今は推しとの時間を楽しもうか!! 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る