第9話 ましろさんの家


 その後どうなったかって?

 特に何もなく帰宅したが????

 女性とご飯言った後の動きなど知らない俺は、空風さんを家の前まで送り届けた後、パソコンの電源を入れる。

 問題ない。俺にはミウミウがいる。

 SNSを確認する。今日はミウミウの麻雀ゲーム配信だ。

 復習も兼ねて、過去に配信された麻雀配信アーカイブをみる。

 何度も見ているはずなのに日に日に可愛くなっている気がする……。

 ミウミウの麻雀配信は、視聴者参加型を重点的に行っており、リスナーのコメントを丁寧に拾いながらプレイしている。

 麻雀のプロの人の配信とは異なり、勝利の為に全力を出すというよりは、皆で結果や雑談でワイワイ盛り上がりながら配信が進んでいくエンジョイスタイルだ。

 かくいう俺も、正直言えば、ミウミウの配信に出会うまでは、麻雀のことは一切分からなかったが、配信で参加したくて始めた。

 今でも役などは覚えきれていないが、これが予想よりハマった。何より推しと一緒にゲーム出来ていることがとても嬉しい。

 俺は、PCのキーボードを打ちかけてハッと指を止める。

 アーカイブだからコメント打てないじゃん。

 あまりにも温かい雰囲気の配信に思わず、今配信を見てる気分になっちまったぜ。

 ミウミウのコメント欄にいるリスナーは、良識がありながら、ノリがいいと思う。

 自画自賛という訳じゃない。いや、雰囲気を崩さないよう努めているつもりではあるがそうではなく、ミウミウがコメントに丁寧に返しているのにくわえ、ゲームエンジョイ勢として、勝利にこだわり過ぎない雰囲気が癒しとなっていることが功を奏しているのだろう。 

 構築されている穏やかで優しい配信は、ふと立ち寄ったリスナーの心をがっちり掴み、また来たい、ずっといたいという気持ちにさせてくれる。

 毎回神回。メッチャ好き。

 アーカイブを1本見終わり、満たされた心でふと外を見ると、日がすっかり沈んでいる。

 

 「よし。チャージ完了! 」


 夜の配信に備えるべく、視聴準備に移る。

 夕飯に、お風呂、明日の仕事の準備その他諸々…。心おきなく配信を見る為に必要なことを済ませねばならない。

 無論、スパチャの準備が出来ている。



👼   🍀   ♥



 30分前に待機していた枠もいよいよあと一分で始まる。

 ソワソワする心を静め、クールでミステリアスを保てるように気を付ける。

 落ち着くのだ。私は圧倒的クールでミステリアスな真白。後方で腕組みをしながら推しと他のリスナーの会話を見守る彼氏枠…。

 21時3分。配信が始まり、ピンク色の着物を纏って可愛らしく微笑む少女が現れた。


 『こんばんみう~! 音大丈夫~? 』 

 

 うおおおおおおおおおおおおおお!! こんばんみうぅうううううううう!!今日も可愛いミウミウぅううううううううううう! 俺のミウミウが今日も可愛いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!

 俺のクール&ミステリアスな仮面はミウミウの可愛さに当てられたことで光の速度で蒸発する。

 サイリウムがあったら泣きながら振り回してたところだった。

 コメント欄の最前線で、溢れ出す愛をぶつける。出ないと俺の心が爆発する。

 

 『あ! ましろさんナイスパありがとう! えーと、可愛さ再確認代です…って!  これスパチャで言うことなのか!? ふふ、ありがとう! ナイスパナイスパァ!』


 アアアアア! 反応が可愛いんじゃあ!!

 自分のコメントが推しに認知され、反応される喜びがここにはある。

 ここが理想郷か。

 他のリスナーも、ナイスパのコメントやスタンプを送ってくれる。

 

 『じゃあ今日も、ミウミウとお話ししながら麻雀しよ? 参加募集しまーす! 皆、今日はお夕飯何食べましたか?』

  

 俺を含めたリスナーが、参加表明をコメントで出していく。

 

 『参加希望ありがとう! じゃあ始めまーす! たいよろです!』


 

 対局中も、リスナーとの雑談は途切れない。


 『分かる―、ミウミウ結構古い曲好きー! あ、皆にもさっき言った曲歌ってほしいなぁ? DMでお歌送ってほしいなぁ? チラッ』


 ちょっとカラオケ行ってくる。

 あぶね。席を立ちかけたわ。

 

 ――じゃあ今度歌って、送るね


 というリスナーのコメントが流れると、ミウミウはほんと!? と嬉しそうに反応する。

 

 『ドリームキャットさんの歌楽しみだなぁ。皆イケボだからなぁ』

 

 ―――ちょっとイケボをネットで買ってくる。

 ―――歌姫に転生してくる。


 『あはは! イケボって売ってるの? あと転生しないでここにいてもろて!』


 楽しい。ゲームをしていなくても、ここにいるだけで楽しい。

 コメントを打ちながら、心からそう思える。

 そんな雰囲気を作ってくれる推しと、リスナーの皆に感謝を。

 俺は脳内でクレジットカードの使用歴を計算し、チャットを赤く染める。 

 愛は決して金額ではない。だが、私の精一杯は送りたい。


 ―――ここがましろさんの家です。ミウミウ愛してる。皆好き


 『っとここはポンしな…うぁああああ!?!?!? ましろさん!? スパチャが赤いんだけど!?!?! ここがましろさんの家です。ミウミウ愛してる。皆大好き……ありがとう! ミウミウも愛してるよ!!あ、ポンしちゃった!?」


 ―――ナイスパぁ! ましろさん平常の異常運転だった。

 ―――記念配信でもないのに赤スパ初めて見た。

 ―――ナイスパです! あ、でもミウミウさんとの結婚は許可が必要です・

 ―――俺たちを全員倒してからいけ。

 

 愛して……………危ない危ない。心停止を蘇生させるのに数秒を要したぜ…。配信に来るたびに心臓が尊さで止まるんだが。あと動揺で手を間違えるミウミウ可愛い。

 適度に反応してくれるお前らも愛してるぞ。こういう一体感メッチャ好きだ。

 動揺したまま他の参加者から、ロンを食らい、順位が1位から3位に落ちてそのままその対局が終了する。

 ミウミウは悔しそうな声音で負けたぁ! と叫ぶ。結婚したい。


 『ミウミウもねーここが皆にとっての家になってくれたらとっても嬉しいなぁ。皆あったかくて優しくて好きだよ。ずっとここにいてね』

 

みうみうの呼びかけに、リスナーたちもコメントやスパチャで肯定の意を示していく。


 ―――勿論にゃあ

 ―――ここがリスナーの実家説

 ―――みんな家族だった…??

 ――まぁ俺はミウミウの夫だからここにいるんですけどね


 終始あたたかい雰囲気のまま配信は進んでいく。

 気が付けば24時頃に終わる予定の配信は午前二時を過ぎていた。

 

 『やっば、まさか一回だけ限定でこんな時間までになると思って無かった! 遅くまでごめんねー』


 それは、つまるところ、ミウミウの配信を見に来てくれる人が増えている証拠だ。

 推しが多くの人に認知されることはとても嬉しい。

 無論、俺からすれば永遠に見ていたいので、時間延長は嬉しいからオッケーです!

 そろそろお別れの空気になり始めていた所にふと、手を合わせるような音が乗る。


 『あ、そうだ! ミウミウ今年は新しいゲームとかもいっぱい配信したいと思ってて、何かオススメのゲームとかあったら、私のSNSにハッシュタグつけて教えてくれると助かります! 今年はミウミウ、大きく成長したいから色んなゲームに挑戦します! 』


 ミウミウが大きく……おっと窓際に行くところだったぜ、何も想像してないが?

 にしても、オススメのゲームか。

 ソーシャルゲームも家庭用ゲームもそれなりにやっているが、ミウミウの楽しめそうなゲームかぁ。でも、好きなゲームを共有出来たら、嬉しいなぁ。


 『あ、皆ゲーム教えてくれてありがとう! あとで見直すね! 配信終わった後でもSNSで改めて募集するから今おもいつかなくても大丈夫だよ! 

 それじゃあ皆さん、ミウミウが面白い、可愛いと思ったらチャンネル登録、高評価よろしくお願いします! じゃあいつものいきますよ? せーの…

 おつかれみう~! 』


 立ち絵越しに手を振ってるであろうミウミウに可愛いと思いつつ、閉じられた配信画面から距離を取って余韻に浸る。

 ……今日の配信も良かった。ミウミウ好き…。

 SNSで感想をコメントしたあと、パソコンの電源を落として、俺のプレイしているソーシャルゲームの一覧を眺める。

 RPG、3Ⅾ・2Dアクションゲーム、アイドル育成ゲーム、タワーディフェンス系……。

 大きく成長したい、か。凄いなミウミウの向上心は、君なら、どこまでも大きくなれる。あんなにやさしい雰囲気の配信を作れるんだから。

 

 「さて、俺も、明日からまた頑張りますかぁ! 」

 

 あ、そうだ。空風さんのオススメのゲームとかないか明日聞いてみようかな。

 ……そもそもあの美人さんがゲームをやってるイメージがあんまりないんだけど。


 

 

 

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