30センチ先の君に恋してる

@mashironVoshi

第1話 生きがい

 Vtuber。動画配信サイトにて、アニメや漫画のようなキャラクターを通して配信や動画をインターネットにお届けする存在。

 現在そのVtuberの数は、2万人を突破し、今なおその数は増やし続けている。

 2016年末頃より生まれたこの業界だが、配信アプリや技術の発展に伴い、今ではスマホ一台さえあれば気軽にキャラクターを纏い、配信することが出来る。

 画面越しに会えるインターネット上の芸能人。あるいは、アイドル。

 そう、そんなVtuberの一人に、押野真白(おしの・ましろ)は恋をしているのである。


 『………………あ、音入って無かった!? ごめんなさい! 改めてこんにちみう~!……あはは、初手からPONポンしちゃった! 』


 うぉおおおおおお!! 慌てるみうも可愛いぞおおおおお!!


 俺はコメントで、『PONミウ助かる。』やら『今日も可愛い!好き好き!』と打ち込む。

 画面越しの可愛らしいピンク色ミニ丈着物ドレスを着こなす白髪の少女は、【かぜのミウ】。

 彼女は、ゆらゆらと体を可愛らしく揺らしながら、


 『ましろさん今日も来てくれてありがと~! 』

  

と嬉しそうに反応してくれた。もう好き推しが認識しているだけで尊いのに耐えられない。

 顔を覆いながらむせび泣きかけている俺。

 

 『はい。というわけで~ミウは今日、麻雀アプリの視聴者参加型配信していきまーす! いえーい!』


 俺は、推しと一緒にゲームがしたいという理由だけで、ダウンロード、勉強している麻雀アプリを起動する。

 配信が進む中、勝敗で一喜一憂する彼女の反応。画面越しの俺たちリスナーとのゲーム内容とは関係の無い雑談や、日常生活のたわいないお話。

 全てが、大切で、ずっといたくて。

 現実では感じられなかった幸福がここにあった。

 

 あっという間に配信してから一時間。別れの時間を迎える。どうして幸福の時間はあっという間に過ぎるのか。

 永遠に配信をしてほしい気持ちと、ゆっくりと休んでほしい気持ちが戦いを広げる中、画面越しのミウは今日の配信を振り返りながら告知を終えた。

 

 『じゃあそろそろ終わりにするね。皆今日も来てくれてありがとぉ! ミウミウのこと好きになってくれた人。また来たいと思ってくれた人は、チャンネル登録。高評価よろしくお願いしま~す!

 じゃあいつもの挨拶いきますよ~! せーのっ おつかぜみう~!』


 自分がコメントで『おつかぜみう~』と打ち込む。他のリスナーの同様の挨拶が流れ、配信が終了した。


 「ふぅ…………今日もミウミウ可愛かったな…」


 俺は一人、配信内でのミウミウの可愛いポイントと、私のコメントを思い返し、もっと推したいと考えながら、スマホ画面をブラックアウトさせる。


 「……………はぁ。明日仕事か」


 俺の顔のスマホが反射し、一気に現実世界に引き戻される。

 どうして働かないと生きていけないのか。

 既に回答が得ているバカな疑問を頭で反芻はんすうしながら、明日の用意を済ませていく。

 はぁ、ミウミウに会いたい。そうだ、過去の雑談配信を聞きながら用意しよう。

 再びスマホに手をかけた瞬間、通知がピコんと入る。

 それは、ミウミウが利用しているSNS、ツゥイッター更新の通知だった?

 音速を越えてスマホのロックを解除し、とりあえず通知内容を見ずにいいねボタンを押してから内容を覗く。

 そこには、衝撃的な。それはもう今後生きていくうえで、最重要クラスに重大な告知に等しかった。


 『ごめん! 言い忘れちゃったけど、明日からリアルのお仕事の関係で、しばらく配信お休みします……ごめんね。でも落ち着いたら配信告知します! あ、SNSは全然呟きます! ミウのこと、忘れないでね(´;ω;`)』


 終わった。世界の終わりだ。

 なんなら私が二倍働くので配信してほしい。会いたい。

 当たり前だが憎悪などではなく、突然生きるためのご飯の供給が無くなった感覚だ寂しさで死ぬ。いや、次の配信観るために死なないけど。

 耐えられない時はこれを見るといい。

 という脳内の俺が、ミウミウの過去配信を起動する。


 「はぁぁぁぁ、会いたい」


 俺しかいない小さな一部屋に溜息が零れるのと同時に、三月最後の日が過ぎ去った。

 


 



 

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