第50話 エピローグ

 婚約してから二年、シリルはずいぶん変わった。

 どこかわがままで甘えたところがあったが、いろんな事件を経て、加えてエリックとニコラに鍛えられて物事を理論的にとらえ、行動するようになった。俯瞰的なものの見方や考え方、領地運営や政など多岐にわたりたたき込まれたシリルはエリックの下で働いている。

 その姿を見てジェラルドはようやく結婚を許可した。


 結婚式が近づいてくると、ニコラがお祝いに来てくれた。

「ニコラ様、ありがとうございます。」

「本当に良かった、これで僕もあなたの家や職を探さなくて済みました。」

 微笑んで紅茶を飲むニコラに謝った。

「申し訳ありませんでした。まさか結婚することになろうとは思わなかったものですから」

「そうですか?わかっていなかったのはシャルロット様だけだったかもしれませんよ。」

「え?」

「まあ、ともかくおめでとうございます。それから、お祝いとお礼を兼ねて贈り物をお持ちしました」

「お礼?」

「以前、地震から救っていただいたお礼です。」

「そんなお礼だなんて・・・あの時にも十分していただいていますわ。」

「これはあの日一頭も欠けることなく助かった牛の乳から作った乾酪です。それとブドウから作ったワインです。これも領民が誰一人ケガすることなく、そして醸造場も対処しておいたおかげで倒壊することなく作ることができた一品なのです。どうかお受け取りください。」

「まあ、それは素晴らしいですわ。ありがとうございます!これを結婚式にも使わせていただいても構いませんか?内輪だけの式ですが。」

「それは光栄です。ぜひ。」


 ニコラにとって王家を救い、自分の命を救い、領民の命と心を救い、領地の生きる糧、経済を守ってくれたシャルロットは女神にも等しい大恩人だった。盛大にお祝いをしたかったが固辞されることはわかっていたので領民のお礼として受け取ってもらった。

 シャルロットに出会えたことは奇跡のようで、自分は本当に幸運だ。

 そんなシャルロットが幸せになる。こんなうれしいことはなかった。


 結婚式当日、小さな教会でほんの少数の招待客に挟まれた通路をシャルロットは前に進んだ。ジェラルドが涙をこらえて座っている。ルーメとイルタもおめかししてもらい、参列してくれている。

ふとその後ろを見て、声を上げそうになった。ニコラの隣にしれっと笑顔で座っているのはエリック王太子殿下だった。

 まさかの王族の参列に緊張で顔がこわばりそうになったが、シリルがぎゅっと手を握ってくれた。


 心を落ちつけて周りをゆっくりと見渡した。

 この幸せに影を差す予兆はどこにも見えなかった。

 皆の笑顔だけがシャルロットの目に映る。


 結婚式が終わったら伝えよう。


 一年前、意識を失ったあの事件以降、一度も「死」を見ることがないことを。


 貴方と一緒に外の世界に出たいと、そして愛する貴方の横に胸を張って立ってゆきたいと。




 終




最後までお読みくださりありがとうございました!

恋愛要素からどんどん離れてしまいました(-_-;)が、ここまで読んでくださったことに大感謝です!(*´▽`*)


本当にありがとうございました!


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死を見る令嬢は義弟に困惑しています れもんぴーる @white-eye

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