第34話 シャルロットの想い 2

 泣き顔のシャルロットのほほを指でなでながら

「どうしたの?また何か見えた?」

「ううん。・・・もっと甘えなさいって叱られた。」

「うん、それは父上の言うとおりだよ。シャルロットはいつも一人で飲み込んでしまうから。」

ソファに座り、横に座ろうとしたシャルロットの手をグイっと引っ張り自分の膝の上に座らせた。

「シリル?!ちょっと。」

「いいじゃない、甘えるようにいわれたんでしょ。」

「ちょっと意味が違うと思うからっ。」

  降りようと身をよじるも、腰に回された腕は緩まず、しかもいつもよりなでる手つきが怪しい。

「父上に何の話だったの?」

「えっと・・何でもない。」

「ふ~ん。そうなんだ。」

  横抱きにしているシャルロットの耳たぶにそっとキスをした。

「きゃあっ」


顔を真っ赤にしているシャルロットに精神力を試されているが、結婚するまで絶対に手を出さない。

  初めをあんな形で奪ってしまった後悔、初夜が素敵な思い出になるよう手を尽くしたい。それまで心から愛してもらえるように自分が努力するだけだ。

 しかし、自分の首を絞めると分かっていながらちょっかいをかけることだけは許してほしい。


「僕に言えない話?」

「・・・家を・・・出て行くって。」

「はあ?!なんで?!」

 思わず肩を掴んで顔を見た。

  あまりもの剣幕につっかえながらジェラルドに話したことを打ち明けた。

「いつもシリルやお父様に甘えてばかりだからいろんな噂をされて、迷惑ばかりかけてるから強くなるために一人で・・・」

「そんな馬鹿なことを考えてたの・・。ああ、だから父上が甘えるように言ったのか。シャルロットは十分自分の足で立ってるよ、誰にもできないことでどれだけの人を救ってきたか。それだけの事をしているシャルロットが心を守るために人に頼って何が悪いんだ。口さがない奴はいくらでもいる、そういう奴には何を言っても無駄だよ。耳にして辛くなったら一人で泣かないで、頼って?ね?」

 再び優しく抱き寄せる。

「シリル・・・」

「だからもう出て行くなんて言わないで。」

「それに・・・私がこんなだから・・・シリルは私を助けられるのが自分しかいないと思って義務感でいてくれるんじゃないかと思って。あなたの人生を縛りたくないの。まだこれからいろんな出会いがあるのに・・・」

「何・・・言ってるんだよ。義務じゃない、権利を得たんだ。僕しかシャルロットを癒せないと分かった時、どんなにうれしかったかわかる?シャルロットがこの家に来た時からずっと好きだったのに・・・」

「・・・ほんとに?同情してくれてるんじゃなくて?」

「当たり前じゃないか。逆にシャルロットは僕と離れて平気だったの?僕がほかの人間と婚約してもいいと思ったんだ?」

「それは・・・」

「・・・傷ついた。」

「だって!同情や義務で結婚してもらったら・・・いつ捨てられるかわからないじゃない。一人で外に行けない、使用人とも顔を合わせられない・・・こんな面倒な女なんか愛してもらえるなんて思わないじゃない。ずっと怯えて暮らすのは嫌だもの!」


ううっと堪えるように泣くシャルロットの髪を梳くと

「・・・こうやってシャルロットは思ってる事吐き出した方がいい。そのたびにそうじゃないってちゃんと教えてあげるから。一人で外に行けないから堂々と僕が側にいれるし、誰もシャルロットに寄せ付けずに僕がお世話ができるんだよ。それが幸せ以外、何があるっていうの?それに・・・僕に捨てられたくない、愛してもらいたいって思ってくれてるんだよね。ふふ、うれしいな。」

そっと額にキスをした。 

「やっぱりすぐ結婚したい。」

「え?そんなの無理よ、学院だってあるし。お父様もお許しにならないわ。」

「でもずっと側にいれるよ?不安に思わなくて済むよ?」


  シャルロットはシリルの押しの強さに流されているだけかもしれない、シリルが自分にとって利用できる存在だから好きなのかもしれないとどこか後ろめたくて、シリルの愛情に正面から向き合う事ができていなかった。

  しかし、感情は正直だった。シリルに心変わりをされるのが怖かった。厄介な性質を持った自分にいつ愛想をつかされるのかが怖かった。

  ああ、自分もいつの間にかちゃんとシリルを好きになっていたんだと気が付き、うれしかった。


「シリル・・・あなたがすごく好きだわ。でもだからこそお父様の言う通り二年待ちたいの。」

  シャルロットの告白には喜びを隠せなかったシリルだが、結婚の時期については拗ねたように口を尖らせた。

「お父様にも、周囲の方々にもきちんと認めていただけるようにしましょう?あなたはまだまだやらなければいけないことがあるわ。学業も、お父様から執務を教えていただくことも、そしてエリック様のお側に上がるための鍛錬や勉学もがんばっているのでしょう?結婚する暇なくなるかもしれないわ。」

「・・・がんばるから。それまで一人で不安になったり、我慢したりしないでちゃんと僕に相談するんだよ?もう一人で暮らすなんて馬鹿なこと言わないと約束してくれる?」

「はい、約束します。ありがとうシリル。」


  一方、シャルロットをシリルの部屋に届けたジェラルドはシャルロットがここに来てからこれまでどんなに頑張っていたのか、苦しんでいたのか思いをはせた。そして愚かものの息子シリルがシャルロットを苦痛から救うことになるとは・・・複雑な気分で一杯だったがシャルロットがあの残酷な苦痛から少しは解放されるのならば親としてこんな喜ばしいことはない。


 自分たち夫婦の命の恩人である彼女が幸せになるためなら愚息など、どんどん利用してほしいと思っていたが・・・

「まさか結婚することになるとはな。」

  ふっと笑いを漏らした。

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